GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A SINGLE-CENTER, PROSPECTIVE RANDOMIZED CONTROLLED TRIAL OF THE COLORECTAL CLEANSING EFFECT OF SODIUM PICOSULFATE/MAGNESIUM CITRATE
Ryosuke AMANOTakashi HISABE Masaaki TERASAWAAkikazu HIRANOTatsuhisa YASAKAKensei OHTSUNoritaka TAKATSUMasaki MIYAOKAKenshi YAOToshiharu UEKI
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2020 Volume 62 Issue 12 Pages 3041-3048

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要旨

【目的】ピコプレップ配合内用剤(P/MC)はポリエチレングリコール製剤と比べ,高い患者受容性と腸管洗浄効果の非劣性が報告されたが腸管洗浄効果に乏しい印象がある.前処置の強化で,患者受容性を保ったまま腸管洗浄効果が向上するかを明らかとすることを目的とした.

【方法】P/MC通常投与群(P/MC群)と,ピコスルファートNa内用液0.75%5mlを追加する前処置強化群(P/MC強化群)の2群を最小化法を用いて無作為に割り付けた.主要評価項目は2群間の腸管洗浄度の比較,副次的評価項目は臨床的背景と患者受容性の比較.

【結果】腸管洗浄度スコアは,P/MC強化群(n=49)はP/MC群(n=49)と比較し有意に低く(4.6±0.5 vs 6.6±0.5;P<0.001)洗浄度が高かった.受容性は2群間で有意差はなかった.

【考察】ピコプレップ配合内用剤にピコスルファートNa内容液の追加で患者受容性を保ったまま腸管洗浄効果が向上した.

Ⅰ 緒  言

大腸癌は近年増加傾向にあり,2019年の癌死亡数予測では肺癌に次いで第2位(年間54,200人),癌罹患数予測では第1位(年間155,400人)となっている 1.大腸内視鏡は,大腸癌の死亡リスクの減少に大きな役割を果たしていることが,これまでの大規模なコホート研究で報告 2),3されており,早期発見・治療が重要である.

近年,大腸内視鏡の前処置にはポリエチレングリコール製剤(PEG)の2-4Lの服用やアスコルビン酸類と高濃度PEGを含む経口腸管洗浄剤の服用が一般的であるが,薬剤服用量が多いことが課題の1つであり 4)~6,患者受容性低下の原因になっている.ピコスルファート/クエン酸マグネシウム配合剤(ピコプレップ配合内用剤,P/MC;日本ケミファ株式会社,東京)は,本邦で2016年4月に承認された新医療用配合剤であり,1包中の成分および含量はピコスルファートナトリウム水和物10mg,酸化マグネシウム3.5g,無水クエン酸12gとなっている.本剤の特徴としては,薬剤の服用量が従来のPEGと比べて非常に少なく(1回150ml,合計300ml),追加で飲用する飲料を患者の好みに応じて選択可能なことである.これによりPEGと比較して,高い患者受容性と腸管洗浄効果の非劣性が報告 7されている.

しかし,実際の臨床現場では,通常の服用法では残渣が残る症例を少なからず経験する.そこで,ピコプレップ配合内用剤を通常投与する群と前処置強化群を比較し,腸管洗浄効果と患者受容性に関して検討することを目的とした.

Ⅱ 対象と方法

本研究は単施設無作為化前向き比較試験で,組み入れ期間は2018年8月から2019年5月までだった.本研究は当院倫理審査委員会の承認を得ており,被験者全員にインフォームドコンセントを行い文書による同意を取得し行った.また臨床試験登録としてUMINへの登録を行った(UMIN000033105).

選択基準は福岡大学筑紫病院にて外来で大腸内視鏡を施行予定の20歳以上80歳以下の患者とし,除外基準は大腸の手術歴のある患者,炎症性腸疾患患者,腎障害患者,コントロール不良の狭心症,過去3カ月以内の心筋梗塞,うっ血性心不全またはコントロール不良な高血圧症の患者とした.ピコプレップ配合内用剤通常投与群(P/MC群)と前処置強化群(P/MC強化群)の2群への割り付けは,性別(男,女),年齢(60歳未満,60歳以上),便秘薬(常用の有無)の3項目を層別化因子として,最小化法を用いて層別無作為化を行った.

主要評価項目はP/MC群とP/MC強化群の2群間の腸管洗浄度の比較とした.副次的評価項目は2群間の臨床的背景および患者受容性の比較とした.

検査手順は,P/MC群に割り付けられた患者は,検査前日の食事は検査食とし,当日は透明な飲料のみとした.検査前日の夜および検査同日の朝(検査の4~9時間前)の2回ピコプレップ配合内用剤を経口投与し,1回1包を約150mlの水に溶解して服用した.検査前日のピコプレップ配合内用剤服用後は,1杯250mlの透明な飲料を30分程度を目安に数時間かけて5杯以上飲用し,検査当日のピコプレップ配合内用剤服用後は1杯250mlの透明な飲料を30分程度を目安に1から2時間かけて3杯以上飲用とした.一方,P/MC強化群に割り付けられた患者は,上記の処置に加え前日就寝前にピコスルファートNa内用液0.75%5mlを追加した.検査当日は,便が淡い黄色になれば前処置完了とするが,前処置不良の場合は飲水追加または浣腸を追加した.

大腸内視鏡直前に鎮痙剤としてブチルスコポラミン臭化物20mgまたはグルカゴン1mgの筋肉注射を行い,必要に応じ鎮静剤としてミダゾラム2〜10mgの静脈注射を行った.内視鏡を盲腸まで挿入し,全大腸・直腸を観察した.大腸内視鏡を施行する医師は日本消化器内視鏡学会指導医・専門医,あるいはそれに相当する知識・技術を有する者に限定し,検査前に前処置の情報を知らせずに検査を施行した.腸管の洗浄度は,部位別スコアと全般的残渣量スコアで評価するOttawaスケール 8Figure 1)を用いた.部位別スコアは腸管を上行結腸(盲腸,上行結腸),中位結腸(横行結腸,下行結腸),S状結腸直腸の3部位に分け,各部位を0から4で評価した.さらに全般的残渣量スコアを0から2で評価し,各部位別スコアと全般的残渣スコアの合計スコアを算出した.Ottawaスケールの最終的なスコアは0(最も優れている)から14(各腸管部位に残便が見られ残渣が多量)となる.

Figure 1 

Ottawaスケール(文献8を改変).

部位別スコアは腸管を上行結腸,中位結腸,S状結腸直腸の3部位に分け,各部位を0から4で評価する.さらに全般的残渣量スコアを0から2で評価し,各部位別スコアと全般的残渣スコアの合計スコアを算出する.

検査終了直後に,検査医が内視鏡報告書に以下の項目を記載した.1)Ottawaスケール,2)性,3)年齢,4)前処置時間,5)浣腸追加の有無,6)盲腸までの内視鏡挿入時間,7)内視鏡到達部位,8)内視鏡観察時間,9)総水分量,10)腸管洗浄液内服に伴う合併症の有無.また,被験者には受容性に関するアンケート調査(Figure 2)を検査後に行った.

Figure 2 

受容性に関する患者アンケート調査項目.

検査後に4つの項目についてアンケート調査を施行した.

サンプルサイズは,本研究以前に前処置として投与されていたP/MC群20例とP/MC強化群20例を抽出して後ろ向きに腸管洗浄度を比較し,その結果を基に必要症例数を算出した.P/MC群のOttawaスケールの平均値が2.7,P/MC強化群のOttawaスケールの平均値が1.4であり,このデータより算出される必要症例数は各群42例であった(αエラー0.05,βエラー0.8).脱落症例などを考慮し各群50例の合計100症例を必要症例数として設定した.

統計解析法は,主要評価項目であるP/MC群とP/MC強化群とでの腸管洗浄度に関しては,Mann-Whitney U testを用いた.性別,便秘薬常用,初回大腸内視鏡,浣腸追加の有無,重篤な合併症の有無の比較はFisher’s exact testを,平均年齢,前処置完了までの時間,内視鏡挿入時間,内視鏡観察時間,総水分量の比較はMann-Whitney U testを用いた.有意水準はP<0.05とした.

Ⅲ 結  果

研究に参加した100名のうち2名が検査を拒否され,98名がP/MC群とP/MC強化群に割振られた.検査目的は大腸癌検診が74名,大腸ポリープの経過観察が18名,腹部症状精査が6名だった.P/MC群に49名,P/MC強化群に49名が割振られ最終的に98名が解析された(Figure 3).全症例で大腸内視鏡が盲腸まで挿入され,全結腸および直腸が観察された.

Figure 3 

2群間並行ランダム化比較試験のフローチャート.

研究に参加した100名のうち2名が検査を拒否され,98名のうちピコプレップ配合内用剤通常投与群に49名,前処置強化群に49名が割振られた.

腸管洗浄度スコアはP/MC強化群でP/MC群と比較し有意に低く(4.6±0.5 vs 6.6±0.5;P<0.001),洗浄度が高かった(Table 1).

Table 1 

P/MC群とP/MC強化群の腸管洗浄度の比較.

部位別の腸管洗浄度スコアの比較では,上行結腸で1.6±0.2 vs 2.0±0.2(P=0.004),中位結腸で1.2±0.2 vs 1.8±0.2(P<0.001),直腸S状結腸で1.1±0.2 vs 1.8±0.2(P<0.001)であり,いずれの部位においても有意にP/MC強化群で洗浄度が高かった.また,全般的残渣量スコアも0.7±0.1 vs 1.0±0.2(P=0.003)と有意にP/MC強化群で洗浄度が高かった(Table 2).患者背景の比較検討では前処置に要した時間,服用した水分量,浣腸使用の有無,内視鏡挿入時間,内視鏡観察時間に関して両群間で有意差を認めなかった.また,前処置や検査に伴う腸閉塞や虚血性大腸炎,穿孔などの重篤な合併症はいずれの群でも認めなかった(Table 3).

Table 2 

P/MC群とP/MC強化群の腸管洗浄度の比較.

Table 3 

P/MC群とP/MC強化群の臨床背景の比較.

被験者に対するアンケート調査では2群間でいずれの項目でも有意差は認めなかった(Table 4).両群あわせた全体では,飲みやすさについて64.3%(63/98)が「非常に飲みやすい・飲みやすい」と回答し,4.1%(4/98)が「非常に飲みにくい・飲みにくい」と回答した.全体的な印象について40.8%(40/98)が「非常に良い・良い」,14.3%(14/98)が「非常に悪い・悪い」と回答した.

Table 4 

被験者アンケート調査結果の比較.

Ⅳ 考  察

今回の単施設の無作為化前向き比較試験により,ピコプレップ配合内用剤を用いた大腸内視鏡の前処置において,ピコスルファートNa内用液0.75%5ml(37.5mg)を併用することで,患者受容性を保ったまま腸管洗浄効果が向上することが明らかとなった.実臨床において,従来のPEGが内服できないことや,内服後に腹痛や腸閉塞症状を来す症例を認めることがある.こうした前処置の負担を軽減することで,患者受容性の向上につながることが期待される.米国や欧州の学会がまとめたConsensus Statement 9やガイドライン 10では,本剤の有効性は腸管洗浄剤として標準的に使用されているPEGとほぼ同等であると評価されている.Jin Zら 7は25編のRCTをsystematic reviewし,ピコプレップ配合内用剤による前処置は従来のPEGの少なくとも90%以上の洗浄効果が保たれており非劣性が報告されている.また,PDR,polyp detection rateやADR,adenoma detection rateについても有意差はなく,多くの患者がピコプレップ配合内用剤を繰り返し使用したいと考えており,有害事象についても有意に低かったと報告している.しかし実際の臨床現場では,優れた患者受容性が見られる一方で,前処置不良となり深部結腸が観察できなかった症例や残渣の洗浄や吸引のため検査時間が延長する症例を経験していた.大規模なRCTにおいて,PEG はピコプレップ配合内用剤と比較して,良好な前処置の達成率が有意に高く(86.4% vs 79.0%,P<0.001),さらに近位結腸におけるADRも有意に高いとする報告 11もある.

また,大腸内視鏡の患者受容性を向上するために前処置服用量減量の工夫として,ピコスルファートNa,成分栄養剤,塩酸イトプリドの併用によってPEGの減量が可能とする報告 12)~17や,アスコルビン酸を含む高濃度PEGの服用手順に関する検討などが報告 18されている.さらに,欧米において一回の服薬量軽減を目的とした1LのPEG製剤(検査前日と検査当日内服)が近年発売され,従来のPEG製剤との比較検討で優れた洗浄効果が示されている 19.当院ではPEGを使用する場合は,検査前日の食事は検査食とし,検査前日夜にピコスルファートNa内用液0.75%10ml(75mg)の投与を行っている.そこで,ピコプレップ配合内用剤を服用する場合にも腸管洗浄効果を向上させるために,当初,ピコスルファートNa内用液0.75%10ml(75mg)を検査前日夜に追加して投与し,十分な洗浄効果の向上が得られていたが,前処置に伴う腹痛の訴えを少なからず認めていた.今回の検討で,ピコスルファートNa内用液0.75%5ml(37.5mg)の併用が患者受容性を保った状態で腸管洗浄効果の向上に有用であることを示した.しかし,部位別スコアの比較では,いずれの部位も前処置強化群はピコプレップ配合内用剤通常投与群より洗浄効果が高かったものの,上行結腸では前処置強化群においても残渣のために洗浄を必要とする症例も少なからず認めた.一方で,今回検討項目にはないが従来のPEGでは腸管内に泡が発生し洗浄が必要とされる症例があり,PEGに含まれる炭酸水素ナトリウムが1つの要因 6と考えられているが,本剤では泡の発生は少ない印象であった.さらに,ピコスルファートNa内用液は従来より小児から高齢者まで,広く汎用されている大腸刺激性下剤であり使用しやすく,またコスト面においても比較的安価であることから費用対効果も高いと考えられる.

近年は,画像強調内視鏡観察や新規の内視鏡機器が開発されているが,病変の見逃しをなくしADRを高めるための質の高い検査を行う前提として腸管洗浄を十分に行うことが求められる.その一方で,本邦では大腸癌検診受診率が低いことはもちろんのこと,要精査例での内視鏡受診率が60%前後 20と低いことも問題となっている.前処置の煩雑さもその1つの要因と考えられるため,患者受容性の高い本剤によって受診率の向上につながる可能性がある.また,本研究では全対象者でピコプレップ配合内用剤が全量服用できており,PEGを十分に服用できない患者や高齢者に対する選択肢の1つとなることが期待される.

本研究のlimitationは,単施設の検討であり症例数も少なく,今後さらなる多数例の検討が必要である.特に,今回の対象では便秘薬の常用者の割合が少ないため,便秘薬の常用者や高度の便秘を有する場合に追加のピコスルファートNa内用液0.75%が5mlで十分なのかさらに検討する必要があると思われる.また,洗浄度の評価は各検査医の主観によるため,実際の病変の発見につながるのか明らかでないため,ADRやPDRなどについても今後検討する必要がある.なお,アンケート調査で印象が悪い・非常に悪いと回答した14名のうち78.6%(11/14)は,従来のPEGによる検査歴があり,PEGを問題なくスムーズに服用できる患者であった.PEGと比較するとピコプレップ配合内用剤は前処置完了までの時間が長く,検査に伴う拘束時間が長かったことが印象が悪い主な原因であり,今後の検討課題の1つと考えられる.

Ⅴ 結  論

今回の検討から,ピコプレップ配合内用剤を用いた前処置において,前日就寝前にピコスルファートNa内用液0.75%5mlを追加する前処置強化群では,患者受容性を保ったうえで,より良い条件での検査が可能となることが示唆された.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

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