GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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THE CONDITION OF ENDOSCOPY UNITS DURING THE NATIONWIDE STATE OF EMERGENCY DUE TO CORONAVIRUS DISEASE 2019 IN JAPAN
Toshiaki HIRASAWA Yohei IKENOYAMATomoko YOKOYAMANobuo AOYAMAJunko FUJISAKI
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2021 Volume 63 Issue 1 Pages 95-103

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要旨

【背景・目的】新型コロナウイルス感染症(Coronavirus Disease 2019:COVID-19)の流行により,2020年4月16日から5月14日にかけて,日本全国に緊急事態宣言が発出された.内視鏡診療はCOVID-19の感染リスクが高いとされ,現場ではこれまで以上の感染予防対策が求められた.本研究の目的は,緊急事態宣言期間の内視鏡診療の実態を明らかにすることである.

【方法】日本国内の内視鏡医にアンケート調査を行った.

【結果】534名の有効回答が得られた.学会の提言はほぼすべての医師が知っており,9割以上が妥当と考えていた.内視鏡が平常通りに行われていたのは1割程度の施設であり,多くの施設で検査が中止,縮小されていた.個人防護具の在庫は十分ではなく,連続使用されることが多かった.

【結論】全国緊急事態宣言期間中の内視鏡診療はCOVID-19により大きな制約を受けた.今後も継続的な感染予防策を講じる必要がある.

Ⅰ 緒  言

2019年12月に中華人民共和国武漢市で発生した新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2:SARS-CoV-2)による新型コロナウイルス感染症(Coronavirus Disease 2019:COVID-19)は急速に世界に拡大し,世界保健機関(WHO)は,2020年3月11日にCOVID-19が世界的な大流行を意味する「パンデミック」の状態であると表明した 1)~5.2020年5月31日現在,全世界で600万人以上が感染し,死亡者数は36万人以上に及んだ 6.日本国内では,2020年1月16日に初めて患者が報告され,2月1日に感染症法に基づく「指定感染症」に指定された.その後,COVID-19患者は増加の一途をたどり,4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県,大阪府,兵庫県,福岡県の7都府県を対象に発出され,4月16日には対象区域が全国に拡大された 5.その後,新規感染患者が減少傾向となり,5月25日にはすべての都道府県で緊急事態宣言が解除された.

病院内は感染が広がりやすい環境であり,世界中からCOVID-19の院内感染が疑われる事例が報告されている 4),5),7)~9.消化器内視鏡診療では,内視鏡検査による直接の感染報告はまだないが,内視鏡検査室などの密閉された空間で,汚染されたエアロゾルに曝露される危険性があり,SARS-CoV-2の感染リスクが懸念されている 3),10)~13.そのため,日本消化器内視鏡学会は3月25日に「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言」を示した 13.今回われわれは,緊急事態宣言下での内視鏡診療の実態を明らかにするため,アンケート調査を行った.

Ⅱ 対象と方法

著者が主催する内視鏡医向けのメールマガジン「内視鏡アトラス」の会員985名にEメールで,日本全国に緊急事態宣言が発出されていた期間(2020年4月16日-5月14日)の内視鏡診療の実態に関してのアンケートを依頼した.回答者は日本国内で消化器内視鏡を行う医師に限定し,入力はGoogleフォームを用いて,匿名で回答してもらった.回答期間は2020年5月21日から5月29日とした.

Ⅲ 結  果

534名(54.2%)より有効回答が得られた.

1.回答者の背景(Figure 1
Figure 1 

内視鏡を施行する施設でのCOVID-19の診療の有無 n=534.

内視鏡を施行する施設は病院57.1%,無床/有床診療所36.3%,検診センター6.6%であり,約半数の施設でCOVID-19の診療を行っていた.

2.日本消化器内視鏡学会の「新型コロナウイルス感染症への消化器内視鏡診療についての提言」について(Figure 23
Figure 2 

日本消化器内視鏡学会の「新型コロナウイルス感染症への消化器内視鏡診療についての提言」について n=534.

Figure 3 

提言の妥当性について n=534.

提言を「知っている,内容も理解している」,「知っている,内容をすべては理解していない」を合わせると99.3%であった.また,提言の妥当性については「妥当である」,「概ね妥当である」を合わせると95.5%であった.

3.個人防護具(Personal Protective Equipment:PPE)の施設内の在庫について(Figure 4
Figure 4 

個人防護具(Personal Protective Equipment:PPE)の施設内の在庫について n=534.

「在庫量の不足がある」という回答は,N95マスクと医療用長袖ガウンは約7割,フェースシールド・ゴーグル,キャップ,サージカルマスクは約4割であり,N95マスクと医療用長袖ガウンの在庫不足が目立った.

4.内視鏡の実施状況について

内視鏡検査の実施状況について質問した.「すべて中止した(100%中止)」が10.3%,「ほぼ中止した(81-99%中止)」が32.0%,「半分以上中止した(51-80%中止)」が30.9%,「中止は半分以下(50%以下中止)」が14.6%,「平常通り施行(0%中止)」が10.1%,「その他」が2.1%であり,7割以上の医師が内視鏡検査が半数以下に減少したと回答していた.施設別の内視鏡検査の実施状況をFigure 5に示す.検診センターでは約半数の施設で内視鏡検査がすべて中止されていたが,病院ではすべて中止は2%と少数であった.地域別の検討をFigure 6に示す.感染者の急激な増加および医療提供体制の逼迫により4月7日に緊急事態宣言が発出された埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県,大阪府,兵庫県,福岡県の7都府県を流行地域,それ以外を非流行地域と定義した.内視鏡検査が半数以下に減少した施設は流行地域では約8割,非流行地域では約6割であった.

Figure 5 

内視鏡の施設別実施状況について n=534.

Figure 6 

内視鏡の地域別実施状況について n=534.

5.内視鏡前のCOVID-19のスクリーニング(Figure 7
Figure 7 

胸部CT,PCRによるCOVIDスクリーニングの有無 n=534.

問診でCOVID-19を疑う所見がない被検者に対しての胸部CTまたはPCRによるスクリーニングの施行の有無について質問した.「すべての検査・治療に行っている」という回答は0.7%のみであり,「内視鏡治療や緊急など一部の症例に行っている」は11.0%であった.

6.ローリスク患者の内視鏡時のPPEについて(Figure 7,8,9,10,11
Figure 8 

ローリスクの内視鏡時のマスクの使用状況 n=534.

Figure 9 

ローリスクの内視鏡時の手袋の使用状況 n=534.

Figure 10 

ローリスクの内視鏡時のガウン・エプロンの使用状況 n=534.

医療用以外の雨合羽やポリ袋から作成したガウンも腕を完全に覆うものであれば,長袖ガウンに分類した.

Figure 11 

ローリスクの内視鏡時のフェースシールド・ゴーグルとキャップの使用状況 n=534.

内視鏡学会の提言のローリスク患者(Table 1)に対するPPEの状況を確認した.マスクは,「サージカルマスクを使用しているが,患者毎には交換していない」という回答が77.2%と多数を占めていた.手袋は98.9%の医師が患者毎に交換しながら使用していた.しかし,使用したが患者毎には交換しない医師が0.7%,使用しない医師が0.4%いた.長袖ガウンは全体で72.9%に使用されていたが,患者毎の交換は32.3%であった.フェースシールド・ゴーグルは90.8%に使用されていたが,患者毎の交換は10.3%であった.キャップは48.5%で使用されていなかった.

Table 1 

新型コロナウイルス感染症のリスク分類(文献9より引用).

Ⅳ 考  察

今回の研究は,緊急事態宣言期間中の内視鏡診療の現状を全国規模のアンケート調査により明らかにしたものである.限られた母集団を対象としており,日本全体の内視鏡診療を反映しているとは言い難いが,病院305名,無床/有床診療所194名,検診センター35名と,幅広い診療背景を持つ内視鏡医から回答を得ており,現場の実態をある程度反映していると考えられる.回答者のうち約半数が勤務する施設でCOVID-19の診療を行っており,平常通りの内視鏡を施行していた医師は約1割であったことから,多くの施設でCOVID-19の影響を受けていたことがわかる.施設別実施状況では,検診センター,診療所,病院の順に内視鏡検査が中止されており,緊急性の高い検査の多寡を反映していると考えられた.地域別の検討では,流行地域の方が検査の中止が多い傾向にあったが,非流行地域でも6割以上の施設で内視鏡検査が半数以下に減少していた.これは政府の意向である緊急事態宣言と日本消化器内視鏡学会の提言を考慮して,非流行地域も含めた日本全体で内視鏡検査を控える傾向にあったと推測される.

日本消化器内視鏡学会の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言」 13は,回答者ほぼ全員が存在を知っており,約8割が内容を理解していた.学会員へのメールによる告知や学会ホームページでの情報提供が適切に行われていたことに加え,これまで経験がない状況に対して医師が積極的に情報を求めていたと推測される.提言の内容については9割以上の医師が妥当と判断しており,提言を高く評価していた.

胸部CTまたはPCRによるCOVID-19のスクリーニングは約1割の施設で行われていた.地域の流行状況や施設内で検査が可能かといった諸条件により対応は違ってくるが,多くの施設では胸部CTまたはPCRによるCOVID-19のスクリーニングは施行されていなかった.COVID-19は無症状や感染経路が不明の症例も報告されており 1),3)~5),9,問診のスクリーニングだけでは,除外できない可能性がある.どのような状況で高度なスクリーニング検査を行うか,コストの負担はどうするかなどが今後の課題である.また,精度が高い抗原法などが一般的に使用できるようになれば,状況は変わってくるであろう.

PPEの在庫は手袋に関しては約9割の施設で必要量あったが,N95マスクと医療用長袖ガウンは約7割,サージカルマスク,フェースシールド・ゴーグル,キャップは約4割の施設で不足していた.アンケート対象期間では,全国的なPPEの不足が生じており,PPEを発注しても現場には届かない状況であった.COVID-19の流行以前から一般的に使用されていた手袋は在庫が十分にあったが,使用がすべての現場で普及していない医療用長袖ガウンや,使用状況が限定されるN95マスクは在庫が足りない状況になったと推測される.ローリスク患者の内視鏡時のPPEの使用状況は,在庫の状況を反映しており,手袋以外のPPEでは患者毎に交換できている施設は少なかった.各施設の在庫状況と汚染度を考慮して,連続使用の判断をしていたと考えられる.特に医療用長袖ガウンは約7割が不足しており,現場での対応は最も困窮していた.長袖ガウンの患者毎の交換は32.3%に留まっており,長袖ガウンを用いるが患者毎に交換しないが40.6%,長袖以外のガウン・エプロンを使用(患者毎に交換)が16.3%という対応が取られていた.長袖が優先されるのか,長袖以外でも患者毎の交換が優先されるのかなど,その形状が多様なガウンについては,多くの医師が対策に苦慮していたと推測される.その他,医療用以外の雨合羽やポリ袋からガウンを作成するという工夫も行われていた.

今回のアンケートのPPEの在庫状況,使用状況が示すように,これまでの内視鏡診療の感染対策は,医師・施設間格差も大きく,十分とは言い難いものであったと考えられる.特に内視鏡検査時に手袋を患者毎に交換して使用していない医師が,少数ながらも存在していることは驚愕であった.医師個人の感染対策に対する意識の向上とともに,施設内での感染対策の見直しと改善が求められる.日本環境感染学会,日本消化器内視鏡学会,日本消化器内視鏡技師会が共同で作成した「消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド」 14では,消化器内視鏡の感染制御および洗浄・消毒に関わる処理を中心に記載されており,標準予防策などの感染防止の基本事項については特に触れられていなかった.今回,日本消化器内視鏡学会が示した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療の対応についての提言」および「新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A」 15では,標準予防策などについて具体的に記載されており,感染防止の基本事項を再確認した医師も多いと推測される.

今回の研究では検査種別毎の調査は行っていない.上部消化管,下部消化管,胆膵とそれぞれの領域により感染リスクに差異が生じている可能性がある.経口からアプローチする上部消化管内視鏡,胆膵内視鏡では患者の咳嗽を誘発する手技であり,患者と近接した状況でエアロゾルを曝露する危険がある 3),11)~13.患者の頭部をプラスチック板やビニール袋で覆いエアロゾルの曝露を予防するなどの工夫も報告されている 16),17.下部消化管内視鏡では便中からSARS-CoV-2のPCR検査によるRNAの検出が報告されていることから潜在的な感染リスクが懸念されている 13),18.一方,PCR検査が陽性の便から感染性のあるウイルスは検出されなかったという報告 19もあり,糞便からヒトに伝播するリスクは不明である.今後,検査種別の対応に関しても詳細な検討が必要である.

緊急事態宣言は5月25日に全国で解除されたが,現時点では収束する兆しは見えていない.また,SARS-CoV-2は,季節性インフルエンザのように抗原性を少しずつ変化させながら 20,ヒトと共存するかもしれない.新たな感染症のパンデミックが今後起こりうる可能性もある.今後は,母集団を広げ,より日本国内の内視鏡診療の実態に迫った調査が求められる.また,各学会や厚生労働省などの政府機関から提言,ガイドライン,手引きなどで具体的な感染対策 3)~5),11)~13),15が示されているが,その有効性や医療経済面を含めた実効性についての研究が急務である.

Ⅴ 結  語

全国緊急事態宣言期間中の内視鏡診療はCOVID-19により大きな制約を受けた.今回のような不測の緊急事態に対する継続的な感染予防策を十分に講じる必要がある.

謝 辞

本稿のアンケート調査にご協力いただいた先生方および本論文の執筆にあたり有益な助言をいただいた当院感染症科羽山ブライアン先生に謝意を表します.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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