2021 Volume 63 Issue 4 Pages 391-400
胃癌死や大腸癌死を減少させるために精度に加え受容性の高い消化器内視鏡診療が必要である.内視鏡診療の精度や受容性を高めるためには安定した鎮静・鎮痛が求められる.そのためにはミダゾラム,プロポフォール,デクスメデトミジン塩酸などの代表的な薬品の特徴をよく理解して,施設の状況を考慮しながら検査・治療に合わせてその薬品を使いこなし,検査・治療に必要な鎮静レベルを得られるようにすることである.内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)で示されたクリニカルクエスチョンとステートメントを参照しながら日本で使用される薬品を中心に,薬品のアレルギー,有害作用,安全性を含めて内視鏡診療における安心で安全な鎮静・鎮痛法について概説する.
今日,消化器内視鏡診療の有用性は,消化器癌の診断,治療を中心に明らかなものになっている.こうした背景の中で消化器内視鏡診療の有用性をさらに発揮するためには,これまで以上に内視鏡診療の精度や受容性を高めることが重要になる.検査・治療にかかわらず,内視鏡前の患者の不安やストレス,内視鏡施行時の苦痛や不快感,そして,内視鏡施行後の負担や安全性をすべて解決できれば,これまで以上に内視鏡診療の精度や受容性が向上し,有用性は高まるであろう.本稿では,“sedation”“gastrointestinal endoscopy”“endoscopic procedures”のキーワードを使用してPubMedを検索し,最近の論文の内容に基づいて,本誌に掲載された内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版) 1)で示された20項目のクリニカルクエスチョンとステートメント(Table 1)を参照しながらわれわれが目指すべき安心で安全な鎮静・鎮痛法について述べる.

内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2報)に示されたクリニカルクエスチョンとステートメント 1).
鎮静(sedation)の定義は,投薬により意識レベルの低下を惹起することであり,鎮痛(analgesia)は意識レベルの低下を来さずに痛みを軽減することで上記は明確に区別されている.鎮静・鎮痛の目的は,薬品を投与することによって意識レベルを低下,疼痛を除去することによって快適に効率的に内視鏡検査・治療を達成するためにある. 鎮静レベルの評価と簡便な判定法では,内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版) 1)でも採用されている米国麻酔学会の鎮静・麻酔レベルとその定義を利用する(Table 2) 2).内視鏡検査・治療に適した鎮静レベルは,minimal sedationから全身麻酔の範囲であり,心肺機能が維持され,声や痛み刺激によって反応できるmoderate sedationが推奨されている.一方,deep sedationは,大声や痛み刺激に反応しない鎮静レベルでこの状態では顎をあげるなどの気道確保が必要になる.

米国麻酔学会の鎮静・麻酔の分類.
鎮静・麻酔の深度を判断する方法として,Ramsay鎮静スコアが推奨されている(Table 2) 3).Ramsayスコア3ないし4がmoderate sedationに相当する.Ramsayスコア5ないし6レベルを含めて応用しやすいのでこの鎮静・麻酔レベルをコントロールするために利用して欲しい(Table 3).また,Modified Observer’s Assessment of Alertness/Sedation(MOAA/S)スコアは,海外の文献にはよく登場する鎮静スコアなので合わせて知っておくと便利である(Table 4) 4).MOAA/Sスコア3がmoderate sedationに相当する.通常,moderate sedationを目的に鎮静をかけても実際にはminimalからdeep sedationの鎮静のレベルの幅が生じ,コントロールが困難なことが多い.時に内視鏡検査・治療の技術的困難な状況においては,短期間において限定的に深い鎮静状態が必要なこともある.したがって,安全にしかも有効に鎮静・鎮痛を実施するためには鎮静レベルをコントロールできる経験や実力が必要である.

Ramsay鎮静スコア.

Modified Observer’s Assessment of Alertness/Sedation(MOAA/S)スコア.
日本で鎮静・鎮痛に使用される一般的な薬品とその発現時間・作用時間・生物学的半減期を示す(Table 5) 5).ベンゾジアゼピン系の薬品は,薬品そのものの生物学的半減期が長く,その代謝産物も鎮静作用を有するので作用時間が長いことに注意が必要である.このため拮抗薬が使用される場合には,拮抗薬自体の作用時間の方がベンゾジアゼピン系の薬品の作用時間よりも短いために再鎮静が起こりうる.拮抗薬を使用する際は,覚醒状態が認識されて,検査・治療が安全に施行されたことが確認される点は良いが,検査・治療後しばらくして医療者や患者が予測できない時点で再び鎮静作用(再鎮静)が発現しうることを肝に銘じておく必要がある.

日本で使用される薬品と静脈投与時の発現時間・作用時間・生物学的半減期.
どのような薬品でも薬品を使用する上で一番心配なアナフィラキシーの発現頻度を挙げる(Table 6) 6)~9).周術期にアナフィラキシーを引き起こす薬品について,分かりやすくまとめた総説から紹介する 7).ここでは,プロポフォールは1/60,000以下程度,ミダゾラムは活性代謝物を含まないため安全な薬で,ジアゼパムはプロピレングリコール溶媒を使用しているために他のベンゾジアゼピン系薬品よりはアナフィラキシーを起こす可能性が高いとされる.オピオイドは,一般的にアナフィラキシーを起こすことは非常にまれであった.

日本で使用される薬品のアナフィラキシー発現頻度.
問題は,ベンゾジアゼピン系薬剤単独で検査・治療を実施する場合には,リドカインなどの局所麻酔薬や鎮痙薬を使用することが多いので鎮静・鎮痛薬でなくても鎮静に関連して使用される薬品のアナフィラキシーについても考慮が必要である.実際に本誌においてもリドカインとの関連が示唆されるアナフィラキシー2例が報告されている 9).
欧米では,鎮静薬と鎮痛薬の組み合わせやプロポフォールにより局所麻酔薬や鎮痙薬を使用せずに内視鏡検査・治療を実施することが多い.プロポフォールの単独投与を利用した検査・治療は,アナフィラキシーの発生頻度の低さという観点から安全性の高い鎮静・鎮痛法と考えられる.実際に非麻酔科医がプロポフォールを投与した54万症例の中でも1例もアナフィラキシーショックによる死亡例は報告されていない 10).筆者らの施設でもプロポフォールを使用した際に心配とされる大豆・卵などにアレルギーの既往のある患者を含めた15万症例においてもアナフィラキシーを幸い1例も経験していない 11).
日本で使用される薬品について,米国で使用される胎児危険度分類を示す(Table 7) 12)~14).胎児危険度分類は,医薬品による胎児傷害の危険性に対する見積もりであり,妊婦が用いた場合を想定している.つまり,人乳中へ移行した薬剤に対する危険性を扱うものではないし,医薬品に伴うすべての危険性を扱うものでもない.類似する分類として授乳危険度分類という指針がある.米国のFDAやオーストラリアからは薬品の胎児危険度分類が示されているので日本でもこれを利用することが多かった.現在では,FDAの胎児危険度分類は付記されなくなっているが,ここではひとつの目安として紹介する.ジアゼパム系薬品,オピオイドがカテゴリーCあるいはDに分類されているのに比べるとプロポフォールはカテゴリーBに分類される.カテゴリーBは,“動物実験では胎児に対するリスクが確認されていないが,妊婦に対する適切な対象のある研究が存在しないもの.または,動物実検で有害な作用が確認されているが,妊婦による対象のある研究では,リスクの存在が確認されていないもの”という安全なカテゴリーに分類されている.妊婦・授乳中の女性への安全性を考慮すると消化器内視鏡診療における鎮静・鎮痛のためには,必要最小限のFDA分類カテゴリーBの薬品の使用が推奨されている 13),14).そのため,筆者らの施設では,妊娠初期以外の妊婦,授乳中の女性対してカテゴリーBの薬品(プロポフォール)だけを慎重に投与して鎮静・鎮痛している.不安や緊張が強い女性に対しても単剤のみでその他の拮抗薬,鎮痙薬,局所麻酔薬を使用しなくても十分な鎮静・鎮痛効果が得られることが大きな利点である.一方,内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)においても鎮静下検査後の授乳については,鎮静薬の母乳中への移行があること(例:ミダゾラム成人半減期約1.9時間,小児半減期約6.5~23時間)もあり,特に生後2カ月以内の乳児には鎮静後の授乳は推奨していない 1).

日本で使用される薬品のFDA胎児危険度分類.
上下部内視鏡検査時には,種々の刺激により嘔吐反射が誘発されるので誤嚥が怖い.誤嚥性肺炎を防ぐためには絶食時間が必要である.鎮静薬を投与する前の絶食時間の標準は世界的にも決まっていないが,米国麻酔学会のガイドラインでは,鎮静薬を投与する前には飲み物は最低2時間あけること,軽食の場合でも6時間あけることを推奨している 15),16).基本的には,内視鏡検査・治療の前日21時以降は食事の摂取を禁じることが鎮静・鎮痛時には重要である.筆者らの施設では,誤嚥性肺炎のリスクが高い患者は両側の誤嚥性肺炎の発症を避けるために左側臥位のみで体位変換しないで検査を実施している.最後の経口摂取した時間と内容に加えて,アレルギー歴,鎮静薬使用時の有害作用歴,飲酒歴などの鎮静に影響を与える因子については,情報を得ておく.
中等度以上の鎮静を行う場合,最低限でも,術者,助手(医師,看護師),患者介助者(医師,看護師)が必要である.筆者らの施設では医師と看護師2名の3名チーム制で対応している.特に手術室勤務の経験がある看護師を優先して採用している.介助者は患者管理とともに,心電図,血圧,脈拍,血中酸素飽和度をモニタリングし,定時的に記録する.治療中は誤嚥を起こしやすい状況のため,定時的に口腔内吸引を行うようにする.また,急変時に速やかに対応できるように内視鏡室には常に救急カートを準備し,普段から現場で急変時におけるシミュレーション・トレーニングを行っておく必要がある.
これまでは,鎮静に関する多くの研究は,検査施行中の有効性と安全性に関して薬品を比較することに集中していた.最近では,検査後,転倒や交通事故などに遭遇せずに安全に通常の社会生活に戻ることができるかについても重要になってきている.通常,内視鏡検査・治療後,患者状態のモニタリングのために回復室に移動,そして,会話が成立し不安定性なしに単独で歩く能力を確認後,患者はその日の車の運転や公共輸送機関の単独での使用を控えるように注意されて退室が許可される.ヨーロッパ諸国とオーストラリアでは,鎮静下内視鏡検査後24時間は車を運転することは,交通規則によって禁止されている(Table 8) 5).

鎮静薬使用下消化器内視鏡検査後の自動車運転に関する世界各国の規則.
問題は,回復室退出までの時間は決まっておらず,施設の状況に依存していることである.日本の多くの施設では,ミダゾラムを使用した患者には,検査後1時間あるいは2時間の回復室滞在を義務化していると思われる.
米国では,消化器内視鏡検査には鎮静はほぼ必須で上下部消化管内視鏡検査の98%の症例はmoderate sedationで施行される.通常,ベンゾジアゼピン系薬品またはベンゾジアゼピン系薬品とオピオイドの組み合わせを使用して実施され,ミダゾラムとフェンタニルの組み合わせが最も広く利用されている 17).米国のガイドラインでは,ミダゾラムの投与量は2.5-6mgが推奨されているが,一部の患者で標準的なベンゾジアゼピン系薬品とオピオイドの組み合わせで鎮静が不十分な状態に対しては,ジフェンヒドラミンの追加よりもミダゾラム最大量10mgまでの追加の方がより良い鎮静状態が得られたと報告されている 18).
日本の内視鏡診療における鎮静に関するガイドラインにおいては,クリニカルクエスチョン14で“ベンゾジアゼピン系薬剤のみで適切な鎮静深度が得られない場合の対応として鎮痛薬(ペチジン塩酸塩,ペンタゾシン)の追加を検討する.脱抑制と思われる状態を認めた場合は拮抗薬を投与し覚醒下での施行または検査・処置の延期を検討する.(Table 1) 1)”に準じて対応することが安全性を考慮すると望ましい.
非麻酔科医によるプロポフォールによるmoderate sedationプロポフォールは,導入・覚醒の早い静脈麻酔薬として主に手術室で利用されているが,米国では2000年頃から麻酔科医だけでなく,消化器病医などの非麻酔科医が内視鏡検査の鎮静薬として使用してきた.日本のガイドラインでは,クリニカルクエスチョン18において,“内視鏡室での非麻酔科医によるプロポフォールの使用は可能か?”という問いに対して“鎮静深度に十分注意しASA-PS 分類ⅠまたはⅡの患者に限れば,気道確保などの訓練を受けた医師によるプロポフォール使用は可能である.”とされている(Table 1) 1).
実際に消化器内視鏡医が内視鏡診療にプロポフオールを使用することを考えた時に最も役に立つ指針としてヨーロッパ消化器病学会,消化器内視鏡学会の非麻酔科医による消化器内視鏡検査におけるプロポフォール鎮静法のガイドライン(Table 9) 19)を利用することを勧めたい.プロポフォールの単独投与を提案し,投与方法としては,間欠的ボーラス投与法あるいはTCI(Target controlled infusion)の使用を推奨している.間欠的ボーラス投与法は,持続的な点滴投与法に比べて患者の状態に合わせて鎮静深度を容易に調節できるために安全であると考えられている.プロポフォール投与下ではリドカインなどの咽頭麻酔を必要としないので簡便で安全である.検査後24時間は運転,飲酒,高度作業など禁止しているが,健常人の低用量単独プロポフォール使用者では,6時間制限を提案している.今後,低用量のプロポフォール単独投与法に限っては,検査後の制限される時間が短縮される可能性がある.

ヨーロッパ消化器内視鏡学会,ヨーロッパ消化器学会および関連学会の消化器内視鏡診療における非麻酔科医によるプロポフォール鎮静法のガイドライン(主に推奨される10項目).
通常の鎮静薬であるジアゼパムやミタゾラムを使用すると検査は楽に受けられるが,鎮静薬の作用が持続して,拮抗薬を使用しなければならず,再鎮静の問題を克服できなかった.筆者らの施設では2004年これまでに延べ15万症例以上に対しプロポフォール鎮静下に上下部消化管内視鏡検査を施行し,検査中の安全性に加えて,検査後も安全に帰宅できることを報告してきた 11),20)~22).
麻酔科医による鎮静・鎮痛欧米では,半数以上の下部内視鏡検査は,麻酔科医による鎮静・鎮痛により実施されているが,通常の上下部内視鏡検査においては非麻酔科医による鎮静・鎮痛に比べて有用性は確立されていない 23).一方,種々の合併症を有した患者や高度の内視鏡治療時においては,プロポフォールを中心にした鎮静・鎮痛には,麻酔科医による鎮痛・鎮静が推奨されている 24).
超音波内視鏡検査や内視鏡的胆管膵管造影(ERCP)に関連する検査・治療や内視鏡的粘膜下層切開剝離術(ESD)などの内視鏡治療では,通常の内視鏡検査に比べて,安全かつ安定した状況下での長時間の治療を遂行するために長時間の鎮静が必要になる.実際にプロポフォールの単独投与にては困難でミダゾラムなどの鎮静薬やペンタゾシンなどの鎮痛薬の併用を必要とすることも多い 17).こうした薬品の組み合わせによる鎮静をbalanced propofol sedationと言われ,筆者らの施設では高度の内視鏡治療時に使用している.
内視鏡治療における鎮静法については,本誌の手技解説で詳しく解説されているので参照して頂きたい 25).日本で保険収載されているデクスメデトミジン塩酸塩は,α 2アドレナリン受容体作動薬であり,呼吸抑制がほとんどなく,鎮静・鎮痛作用を有する.
胃ESDおいては,デクスメデトミジン塩酸塩群,ミダゾラム群,プロポフォール群の3群間の比較でデクスメデトミジン塩酸塩群は体動,治療時間,追加されたミダゾラム投与量が有意に減少したと報告されている 26).ERCPでは,デクスメデトミジン塩酸塩投与群とデクスメデトミジン塩酸塩非投与群の2群間の比較でデクスメデトミジン塩酸塩投与群は酸素飽和度低下の頻度,ミダゾラム,ペンタゾシンの追加投与量が有意に低かった 27).鎮静に関するガイドラインクリニカルクエスチョン19においても,“デクスメデトミジン塩酸塩は,長い鎮静が必要となる内視鏡治療時の鎮静に有用である.”と推奨されている(Table 1) 1).
高齢者に対する鎮静・鎮痛は,種々の合併症だけでなく,加齢に伴う心肺機能,肝代謝,腎排泄機能の低下を常に意識する必要がある.80歳以上のハイリスク患者のERCPでは,プロポフォール単独を使用した群の鎮静は,ミダゾラムとメペリジン併用群に比べて,プロポフォール群の方がより患者の協力を得られ,平均回復時間も有意に短かった(22 vs. 31分;p<0.01) 28).90歳以上の内視鏡検査・治療において,使用されたプロポフォールの平均用量は22-42mgで中高年に比べて40%の用量であったにもかかわらず,類似した鎮静レベルと血中濃度を得た.この報告により,90歳以上の内視鏡診療における鎮静には低用量プロポフォールの単独投与法が有用な鎮静法のひとつとして提案された 29).
緊急時の内視鏡診療時には,肝疾患を伴った患者に遭遇することが多い.ベンゾジアゼピン系の薬品を使用した鎮静は,肝疾患患者では,呼吸抑制,回復の遅延,肝性脳症の顕在化などの合併症の発生リスクを高める可能性がある.ミダゾラム鎮静(0.075mg/kg)時には,肝硬変患者では健常人に比べて作用の半減期が2-3倍延長し,クリアランス率が半減すると報告された(半減期:3.9 ± 0.8 vs. 1.6 ± 0.3h;クリアランス率:5.4 ± 1.0 vs. 10.4 ± 1.3mL/min/kg) 30).ことに肝硬変患者が高齢者の時は,その傾向がさらに強まる.
一方,ベンゾジアゼピンとオピオイドの併用の代わりにプロポフォールの使用が好まれるのは,作用半減期が短く,肝性脳症を誘発リスクが低いためである.上部消化管内視鏡検査を実施した肝硬変患者210例の報告では,プロポフォールとフェンタニルの併用群では,ミダゾラムとフェンタニルの併用群に比べると明らかに短時間で意識状態が回復した 31).Child AとBの肝硬変患者でも,低用量のプロポフォールの鎮静後に肝性脳症を顕在化することなく,健常人と比べても大差ない血中濃度および運転能力の回復を示していた 32).
鎮静に関するガイドラインクリニカルクエスチョン2に示されるように合併症(慢性閉塞性肺疾患,心疾患,慢性腎不全,肝硬変,向精神薬服用,重症筋無力症など)患者,高齢者および妊娠患者における鎮静下内視鏡検査では,麻酔科や他診療科へのコンサルトも含めた術前評価を十分に行い,基礎疾患に配慮した鎮静・鎮痛薬を選択することで安全に行うことができる(Table 1) 1).
わが国だけでなく世界中でミダゾラムとプロポフォールは使用されているが,問題がないわけではない.筆者らの使用経験を踏まえてこれらの薬品の主な問題点をTable 10に示す.大切なことは,どの薬品であっても薬品の長所・短所をよく理解して,内視鏡診療に必要な鎮静レベルをコントロールできるように使いこなすことでより安全な鎮静・鎮痛状態が得られると思う.今後,これらの問題点を克服した次世代の鎮静・鎮痛薬の登場も期待したい.現在,全身麻酔用催眠鎮静薬であるレミマゾラムが消化器内視鏡診療に登場し,より効率的で安全な鎮静・鎮痛法の確立に貢献するかもしれない.

ミダゾラムとプロポフォールの主な問題点.
内視鏡診療のめざましい発展とともに,精度に加え受容性の高い検査・治療を実施するための鎮静・鎮痛が求められている.この状況を受けて日本消化器内視鏡学会より“内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2報) 1)”が作成され,鎮静が必要と考えられる局面においてどのような鎮静方法が良いのかについて指針が示された.消化器内視鏡医は,今こそ内視鏡検査・治療手技の習得とともに安心で安全な鎮静・鎮痛法も学ばなければならない時代となっている.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし