2022 Volume 64 Issue 2 Pages 159-163
Introducer法による経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy;PEG)は固定具にて腹壁を固定することで安全に施行されている.今回,胃瘻造設用固定針による横行結腸穿刺した症例を経験した.症例は60代男性,PEG後軽度の出血の持続を認めたためCTを撮像したところ,造設部付近の横行結腸の巻き込みを認めた.CSにて確認したところ固定糸による横行結腸の狭窄を認めた.その場で腹壁固定糸を抜糸したところ,狭窄が解除されるのを確認した.今回の症例では腹壁固定器具を安全のために使用したが,横行結腸への誤穿刺を生じた.
Introducer法 1)による経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy;PEG)は腹壁を固定することで安全に施行することを目的に広く行われている.本穿刺が腸管穿刺となった報告は多数あるが,固定糸による腸管穿刺を実際に確認した報告は1例しかない 2).今回,固定針による横行結腸穿刺を生じ,大腸内視鏡(CS)にて直接原因を確認した症例を経験した.
症例:60歳男性.筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis;ALS)による嚥下困難の増悪のためPEG目的に他院から転送となった.PEG前に上部消化管内視鏡検査(EGD)にて指サイン陽性,イルミネーションサイン陽性を確認 3),EGDに引き続き,胃内に空気が入った状態でのCTでは胃体部・腹壁間に介在臓器を認めなかった.その数日後,再度指サイン及びイルミネーションサイン陽性を確認し,Introducer法にて胃体部前壁にPEG施行,術中に明らかな合併症や偶発症は認められなかった.翌日,創部より持続する出血があり,ガーゼ圧迫でも止血を得られなかったため腹部CT検査を行ったところPEG部位での横行結腸の巻き込みを認めた(Figure 1).腹痛などの臨床症状は認めず,血液検査にて炎症反応の上昇も認めなかった.tube造影検査では腹腔や大腸への漏れは認めず(Figure 2),造影剤注入後のCTではS状結腸までの造影剤の流れを確認した.CSでは横行結腸に固定糸の貫通による管腔狭窄を認めスコープ通過は困難であった(Figure 3-a).腹壁固定糸を抜糸したところ管腔の広がりを確認,固定糸抜去後の管腔は横行結腸に腹壁固定具1針の誤穿刺を示す所見であった(Figure 3-b).抜糸後は問題なく胃瘻tubeを使用している.
術後の腹部単純CT検査.
PEG tube近傍に虚脱した横行結腸の巻き込みを認めた.
tube造影検査.
造影剤の腹腔や大腸への漏出は認めなかった.
下部消化管内視鏡像.
a:管腔狭窄を認めた.
b:抜糸後管腔の広がりと腹壁固定具1針の誤穿刺を示す所見を認めた.
今回示された症例により,安全のために用いられている固定針は横行結腸への誤穿刺を生じ得ることが示唆された.
PEG自体の合併症は2.7~30%であるとされる 4)~6).その中でも横行結腸誤穿刺は稀であり,0~1.33%とされる 4)~7).腸管誤穿刺はPEG施行時に横行結腸が胃と腹壁の間に位置していたために起こるとされる(Figure 4).リスク因子として過去の開腹手術による癒着,高齢者に認められる弛緩した腸間膜などが挙げられている 8).また,胃内への過剰送気によって胃がrotationされ胃後壁とともに横行結腸が持ち上がり,小腸への空気の通過によってさらに横行結腸が持ち上げられるという報告もある 9).本症例では開腹手術の既往はないが,弁膜症に対し開胸手術の既往があり,ALSの発症後体重減少により腸間膜が弛緩して横行結腸が胃の前面に存在していた可能性がある.さらに,便秘傾向であったことがあり,家族が毎日腹部のマッサージを行っていたとのことで,CT撮像時と横行結腸の位置関係が変わってしまった可能性がある.腸管誤穿刺を避けるためには指サイン(腹壁の圧迫)や透過光サイン(illumination sign),術前のCT撮像を組み合わせて胃と腹壁の間に他臓器が介在しないことを確認することが推奨されている 3),10).PEGは仰臥位にて施行するため,仰臥位のまま内視鏡挿入する施設が多いと思われるが,側臥位で内視鏡挿入し胃内腔が進展拡張してから仰臥位をとらせることにより横行結腸を胃の下に移動させることができるとされる 10).しかしながら今回の症例では術前にCTを行い胃と腹壁との間に腸管が介在していないことを確認し,さらに指サインや透過光サインを行い造設可能と判断,かつ側臥位にて挿入したにもかかわらず横行結腸誤穿刺となった.胃壁固定具はIntroducer法施行時,腹膜と胃壁の離解に伴う腹膜炎の予防のため,さらには安全な瘻孔形成のために胃を腹壁に固定するために開発された 11).しかし,固定具は針と針の間に幅があり,かつ腹壁固定の性質上,本来tubeを留置する位置よりも距離をとる必要がある.医学中央雑誌にて「胃瘻」「誤穿刺」や,「胃瘻」「結腸」で検索すると,1998年以降本邦で本穿刺が腸管穿刺となった報告は多数ある.しかしながら腹壁固定糸のみが腸管穿刺をきたしていたことを実際に確認した報告は1例しかない(会議録を除く) 2).同報告ではPEG後腸閉塞を発症し,腹壁固定の抜糸にて速やかに腸閉塞が改善した.その後CS施行にて結腸に狭窄や胃瘻tubeは確認されず,tube造影でも本穿刺の結腸穿刺を疑う造影剤の漏出は認めず,固定糸のみが結腸穿刺をきたしていたとされている.今回,本症例ではPEG翌日より出血が持続したためCTを撮影し,さらにCSを施行したことで腹壁固定糸の誤穿刺を確認した.そのままtubeを使用すれば腸閉塞を発症する可能性はあったものの,出血がなければCTもCSも施行もされなかったと考えられ,抜糸されて横行結腸穿刺に気付かなかった可能性もある.このことより,腹壁固定具を用いての胃瘻造設において,一部の腹壁固定糸が結腸を貫き固定されたものの無症状で経過し,結腸穿刺を認識されずそのまま抜糸された例も潜在的に存在する可能性も否定できないと考えた.
本症例における胃,腸管,腹壁固定の位置関係を示したシェーマ.
腹壁固定の1針のみが横行結腸を穿刺していた.
Introducer法においては誤穿刺を回避するため,前述した指サインやイルミネーションサインの確認,術前のCTや側臥位での挿入が大事である.また,穿刺回数の少ないPull法の選択が挙げられる.風間らの報告ではPull法よりIntroducer法では偶発症が有意に多かったとしており 6),今回の症例の様に腹壁固定糸の誤穿刺やそれに伴い本穿刺の腸管貫通を引き起こす可能性を考慮すると,腹壁固定を必要としないPull法の選択は有効だと考える.
しかしながら,食道狭小化症例や創部感染を回避したい症例に関してはIntroducerが第一選択にならざるを得ない状況もある 12).その様な症例に関しては,常に固定針の横行結腸への穿刺は起こりえるとの認識のもと,慎重に造設を行う必要がある.また,指サインやイルミネーションサインと一致した部位1点に糸をかけられるという点では2ショットアンカー(OLYMPUS)などの1点式固定などの器具を用いることも考慮される 13).他には,透視下での造影剤使用による造設法が推奨されるという報告もある 14).
腹壁固定針による横行結腸誤穿刺の症例を経験した.安全のために用いられている腹壁固定具は横行結腸への誤穿刺を生じ得ることが示唆され,PEG施行時は腹壁固定の段階から十分に注意するべきである.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし