GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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ESOPHAGEAL PAPILLOMA INDISTINGUISHABLE FROM ESOPHAGEAL VERRUCOUS CARCINOMA: A CASE REPORT
Koji ONOE Takahiro MIYAZAKIAkira ISHIHARAHiroki YAMADA
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2022 Volume 64 Issue 7 Pages 1326-1331

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要旨

症例は66歳女性.上部消化管内視鏡検診で,胸部食道に表面に細長い絨毛状突起が密生した約2cm大の白色調の扁平隆起を認め,過去の疣状癌(verrucous carcinoma:以下,VCと略)報告例に類似した鳥肌状の小点様所見が認められた.ルゴール染色にて絨毛状の突起は淡染を示し,基部はむしろ濃染していた.生検組織で軽度の細胞異型が認められ,VCを含めた癌を否定できず,ESDを施行された.摘出標本の病理診断にて乳頭腫と診断された.狭帯域光拡大観察にてイソギンチャク型の乳頭腫で認められるのと同様な内部に不整のない細い血管を有する絨毛状突起が観察され,遡及的に見ると乳頭腫を示唆する所見と考えられた.

Abstract

A 66-year-old woman underwent upper gastrointestinal endoscopy, which revealed a whitish flat ridge (approximately 2 cm) with elongated villous protrusions covering the surface of the thoracic esophagus, together with small bumps, indicative of verrucous carcinoma (VC). Lugol chromoendoscopy showed lightly stained villous protrusions and dark staining of the base. Biopsy examination showed a slightly atypical cell type, and we could not exclude cancer, including VC; therefore, we performed ESD. Histopathological evaluation of the resected specimen confirmed diagnosis of a papilloma. Narrow-band imaging revealed villous protrusions with fine blood vessels without irregularity, similar to those observed in anemone-type papilloma. The aforementioned findings may be indicative of papilloma.

Ⅰ 緒  言

食道乳頭腫は血管結合組織を芯にした重層扁平上皮の乳頭状増殖からなる上皮性の食道の良性腫瘍である.内視鏡機器の画質や解像度の向上,画像強調法の普及により遭遇する機会が増えているが,病的意義が低いことから症例報告されることは少ない.内視鏡検査での発見頻度は0.05~0.33%,大きさ平均7mmで大半は5mm以下と小さく,透明感のある白色調のポリープ状隆起が多くを占める 1),2が,時に扁平隆起を示す乳頭腫も経験される 3.今回われわれは大きさ20mmと大きく,表面に白色調の細長い絨毛状突起を有した扁平隆起型の乳頭腫を内視鏡検診で経験した.内視鏡所見上,特に食道の悪性腫瘍である疣状癌(verrucous carcinoma:以下VCと略)との鑑別が問題になり,生検でも確定診断が困難であったので,文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:66歳,女性.

主訴:なし(検診).

既往歴:僧帽弁閉鎖不全症術後,心房細動にてワーファリン内服中,糖尿病,脳梗塞.

現病歴:X-5年に当センターで施行された検診の上部消化管内視鏡検査では食道に異常を指摘されなかった.今回,5年ぶりのX年3月の当センターでの検診を受診された.

検診時所見:血糖値150mg/dlと高値以外,血液一般,腎機能および脂質代謝などに異常を認めず.心電図異常あり(心房細動).腹部超音波異常あり(脂肪肝,胆石および腎結石).

検診時上部消化管内視鏡所見(Figure 1):切歯より30cmの胸部食道に白色光像(Figure 1-a)にて,表面に細長い絨毛状突起が密生した約2cm大の扁平隆起を認め,過去のVC報告例に類似した鳥肌状の小点 4様の所見が認められた.ルゴール染色像(Figure 1-b)にて,基部は正染~濃染,絨毛状の突起は淡染を示した.

Figure 1 

検診時内視鏡所見および生検の組織学的所見.

a:白色光像.上切歯列より30cmの食道に2cmほどの白色の細長い絨毛状突起が密生する扁平隆起を認めた.内部には鳥肌状の小点様の所見が認められた(黄色い四角).

b:ルゴール染色像.基部は正染~濃染,絨毛状突起は淡染を示した.

c:生検組織の弱拡大像.肥厚した重層扁平上皮から絨毛状突起が突出していた.HE染色.

d:生検組織の強拡大像.基底側で核腫大,濃染.中・表層でコイロサイトーシスを認めた.明らかな悪性像なし.HE染色.

生検の組織学的所見(Figure 1-c,d):生検組織に明らかな悪性所見を認めなかったが,基底側では反応性変化と思われる軽度の細胞異型(核腫大および濃染)とコイロサイトーシスを認め,経過観察が推奨された.病変が約2cmと大きいこと,過去のVC報告例に類似した鳥肌状の小点 4様所見を一部に認めることおよび生検組織でも軽度の細胞異型を認めたことから,悪性病変を否定できず,潤和会記念病院に紹介された.

精密検査時内視鏡所見(Figure 2-a):上部消化管内視鏡検査で上切歯列より30cmの胸部食道右後壁に表面に細長い絨毛状突起が密生する約2cmの白色調の扁平隆起を認めたNarrow band imaging(以下,NBIと略)拡大観察では絨毛状突起内に拡張したintra papillary capillary loop(以下,IPCLと略)様の血管が観察された.これらの血管には明らかな,口径不同や形状不均一などの所見は認めず,食道学会拡大内視鏡分類(JES-SCC分類)のType A血管に相当すると思われた.ワーファリン服薬中でもあり,同院では生検は施行されなかった.

Figure 2 

精密検査時NBI拡大内視鏡および摘出標本.

a:NBI拡大内視鏡像.絨毛状の突起内に拡張・延長したループ状の血管が観察されたが,口径不同や形状不均一などの所見は認めなかった.

b:摘出標本.病変サイズは22×13mm.切除標本27×23mm.

治療:検診時の生検で明らかな悪性所見は認めておらず,乳頭腫が疑われた.しかし軽度の細胞異型を指摘されていることや,5年前の内視鏡検査では指摘されておらず,この5年間で増大してきたと考えられることから,VCなどの悪性腫瘍を否定できないと考えられたため,本人のインフォームドコンセントを得た上で,X年5月に内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)が施行された.

摘出標本(Figure 2-b):病変の大きさは22×13mm,切除標本は27×23mmであった.

病理組織像(Figure 3):ESD材料を14本に切り出すと,隆起病変は周囲の平坦部粘膜と明瞭な境界を示し,台地状に肥厚した扁平上皮から構成され,表面に乳頭状・絨毛状突出を伴っていた.基底細胞から傍基底細胞は増生し,有棘細胞層に見られるコイロサイトーシス様の核腫大,核形不整,核周囲空胞化などの変化を認め,軽度のリンパ球浸潤を伴っていた.上皮基底部は一様に平坦で上皮突起の下方伸展はなく基底細胞は保たれていた.傍基底細胞に悪性を示唆する異型は認めず,また圧排浸潤を含めて浸潤性増殖は全く見られなかった.免疫染色で検討すると,p53では基底-傍基底細胞層の核に弱陽性所見を散見する程度であり,p53遺伝子変異は否定的であった.ki-67免疫染色{Figure S1(電子付録)参照}では扁平上皮細胞核の標識頻度に非病変部と病変部とで差異は認めず,ともに傍基底層細胞にほぼ限局して分布していた.以上からVC,高分化扁平上皮癌の可能性は否定された.一方で,分岐する線維血管性間質軸を伴って外構築性に増生する所見を欠く扁平隆起性病変であるなど乳頭腫としても非定型的であったが,消去法的・総合的判断から乳頭腫と診断された.表面に認めた棘状・乳頭状・絨毛状突出は,乳頭内ループ血管に由来しややスパイラルに挙上する毛細血管軸を囲んで増生した扁平上皮によって構成されていた.これらの突起は規則的に配列しその最表層にはしばしば錯角化を認めたが,病変全体として角化は目立たなかった.部分的にコイロサイトーシス様所見があったためヒト乳頭腫ウィルス(Human papilloma virus:以下,HPVと略)感染に関連した乳頭腫である可能性が示唆されたが,p16の免疫染色では核,細胞質陽性細胞が不規則に分布する程度であり,腫瘍細胞がほぼ例外なく陽性となるblock positivityは得られず,ハイリスクHPV感染との関連性は否定的であった.

Figure 3 

摘出標本の病理組織像.

a:病理組織ルーペ像.病変部で重層扁平上皮は肥厚し基底はフラットである.

b:弱拡大像.表層部の絨毛状突起は血管軸を囲む扁平上皮から構成され,最表層に錯角化を認める.

c:中拡大像.扁平上皮基底部から有棘細胞層に核腫大を伴った細胞の増生を見るも,浸潤性増殖や悪性を示唆する細胞異型は認めない.

d:核腫大とコイロサイトーシスの目立つ部分の組織像.基底細胞は保たれ核クロマチン増量は認めない.

Ⅲ 考  察

食道乳頭腫は上皮性の良性腫瘍で,組織学的に血管結合組織を芯にした重層扁平上皮の乳頭状増殖からなり,上皮は過形成性に肥厚するが異型を欠き,基底層から表層へ正常分化を示す 5.悪性化することは極めてまれで,病的意義は低い.病因として酸の逆流による慢性炎症やHPV感染との関連が疑われている.内視鏡検査での発見頻度は0.05~0.33%と報告されているが,最近の内視鏡解像度の向上や画像強調法,拡大内視鏡の普及により遭遇頻度は増えていると思われる.大きさは平均7mmで,5mm以下が大半を占める 1),2.内視鏡所見は透明感のある白色調のポリープ状隆起が多くを占めるが,丈の低い扁平隆起型の病変も時に経験される 3.またルゴール染色では淡染~正染を示す 1),2),6.有馬ら 2は拡大観察した食道乳頭腫55病変を表面形態から①イソギンチャク型,②桑実型の2つに分類し,①は細長い突起状の隆起や筆の穂先のようなフサフサとした隆起が集簇し,拡大観察すると分葉した一つひとつ突起の中央に細い血管が通じ,扁平な突起では葉脈のような血管分岐が観察されるもの,②は微細な丸い顆粒が多数集簇し,拡大観察すると顆粒の中に先端がチリチリに分岐して拡張・蛇行した微細血管が観察されるものとしている.頻度はイソギンチャク型が71%,桑実型が29%.イソギンチャク型は広基性に広がる病変であっても,拡大観察にて突起内に直線的なループ血管が観察されることで,食道癌と鑑別可能としている.

本症例は大きさ22mmと大きめの白色調の扁平隆起性病変で,通常認められる乳頭腫とは異なっており,白色調の扁平隆起を示す病変である①VCを含む角化の強い高分化扁平上皮癌,②glycogenic acanthosis(以下,GAと略)が鑑別に挙げられた.

VCは1948年にAckermann 7により提唱された扁平上皮癌の一亜型で,組織学的に扁平上皮癌の中でも角化傾向の強い極めて高分化な乳頭状発育を示す腫瘍である 8.腫瘍の表層は極めて分化度が高く,内視鏡生検だけでは診断困難なことが多い 9.進行は緩徐で,転移はまれとされているが,過去に放射線照射で未分化癌への退形成を呈したとの報告もある 10.口腔,喉頭および生殖器粘膜に比較的多く発生するが,食道には極めてまれとされている 10),11

食道VCの内視鏡所見の特徴は,角化の目立つ白色調の疣状あるいは乳頭状の隆起を呈することである.またNBI拡大観察所見の報告はほとんどないが,Tabuchiら 12はType A血管の認められた症例を報告しており,微細血管による診断はVCを否定することは容易ではないと考えられる.本病変は表面に多数の白色の突起状構造を有し,一見VCで認められることのある鳥肌状の小点 4様に認められたため,特にVCとの鑑別が問題となった.しかし本病変はNBI拡大観察にて有馬らの分類 2によるイソギンチャク型の乳頭腫に類似した内部に不整のない細い血管(Type A)を有する絨毛状突起が密生しているのが観察され,これが鳥肌状の小点様に見えた本態であり,遡及的に見ると乳頭腫を示唆する所見と考えられた.またルゴール染色では,VCは一般に不染と記載されている 4),12),13が,永田 4の症例の内視鏡写真を見ると鳥肌状の小点部は不染を示すものの,腫瘍の基部は周囲の食道粘膜と同程度に正染しており,今回の症例と類似していた.本症例は絨毛状突起以外の基部の部分は周囲の食道粘膜よりもさらに濃染傾向を示し,VCとの鑑別点になると考えられた.

VCの組織学的診断の要点は,①通常の扁平上皮癌を否定できること,②異型が軽度とはいえ圧排性浸潤を認めることである 4),12.通常の扁平上皮癌では高分化な例でも一部で癌としての十分な細胞異型と間質反応を伴う浸潤を認めることができる.従ってこのような所見がないことを十分な検索で確認することが必要である.一方VCは,豊富な細胞質を有する角化扁平上皮細胞が構成する上皮突起が,しばしば「象の足」に例えられる平坦な先端部を呈し,少なくとも一部で圧排性に粘膜固有層へ浸潤している.本症例では全割標本にて評価した結果,異形成や扁平上皮癌としての異型は見られず,上皮突起の下方伸展や圧排浸潤も見られないことから乳頭腫と診断され,通常の高分化扁平上皮癌,VCともに否定された.

GAは上皮層の肥厚,特にグリコーゲン顆粒を有する有棘細胞の肥厚である.内視鏡上,数mm~1cm程度の類円形で表面平滑な限局性白色隆起を呈し,多発することが多い.NBI拡大観察では正常粘膜よりも密度が低く,細い線状のIPCLを認める.さらに表面に微細な点状~棘状突起が観察され,ルゴール染色では濃染するが,突起部に一致した点状の抜けが認められる 14),15.本症例は白色調の扁平隆起で,ルゴール染色にて基部が濃染した点でGAに類似していたが,不整形で,内部に細い血管を有する絨毛状突起が表面に密生している点でGAとは明らかに異なっており,鑑別可能と考えられた.

食道乳頭腫は内視鏡検査でしばしば遭遇する病変であり,通常は小さなポリープ状隆起を示し内視鏡診断は容易であるが,まれに本症例のように大きな扁平隆起を示す病変が認められ,VCを含む角化の強い高分化扁平上皮癌やGAとの鑑別が問題となる.今回のわれわれの症例は遡及的に見ると,表面にイソギンチャク型の乳頭腫で認められるものと同様な細長い絨毛状突起が表面に密生していたこと,NBI拡大観察にて突起内に認められる細い血管に口径不同や形状不均一を認めなかったこと,ルゴール染色で絨毛状突起は淡染していたが,基部が正染~濃染していたことが乳頭腫を示唆していたと考えられ,今後の同様な病変を内視鏡診断する際の一助になると考えられた.

Ⅳ 結  語

食道VCと鑑別困難であった,大きさが約2cm,表面に細長い絨毛状突起を有する白色調の扁平乳頭腫を経験したので報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

補足資料

Figure S1 ki-67 免疫染色(対物レンズはともに20倍).

文 献
 
© 2022 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
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