GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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COLONIC PSEUDOLIPOMATOSIS DIAGNOSED USING MAGNIFYING ENDOSCOPY: A CASE REPORT
Tomohiro SHIMADA Taku YAMAGATAYoshihide KANNOFumiyoshi FUJISHIMATetsuya OHIRAYoshihiro HARADAYoshiki KOIKEMegumi TANAKATakashi SAWAIKei ITO
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2022 Volume 64 Issue 7 Pages 1346-1351

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要旨

症例は51歳女性.検診の全大腸内視鏡検査で,盲腸に20mm大の白色平坦隆起性病変を認め,拡大内視鏡観察で粘膜内の微小気泡を指摘した.気泡によりNarrow band imaging観察で構造と血管が不明瞭化したが,Crystal violet染色でⅠ型pitが観察された.生検標本で粘膜固有層に空胞が散見され大腸偽脂肪腫と診断した.無治療で経過観察したところ,4カ月後の内視鏡検査で病変は消失していた.通常・拡大内視鏡で得られた像は粘膜固有層内の気泡で光の反射と多重散乱が発生したことによるものと考えられ,病態を反映していると思われた.拡大内視鏡観察は大腸偽脂肪腫の診断の一助となる可能性がある.

Abstract

A 51-year-old woman underwent screening total colonoscopy (TCS), which revealed a flat elevated cecal lesion (20mm) with an unclear margin and a whitish area (15mm) in the central part of the lesion. Magnifying endoscopy revealed microbubbles within the mucous membrane in the whitish area. Histopathological evaluation of biopsy specimens showed uniformly small vacuoles within the superficial lamina propria and cells that were immunonegative for S-100, D2-40, Factor Ⅷ, CD34, CD31, and CD68. Therefore, the lesion was diagnosed as colonic pseudolipomatosis. Follow-up TCS performed 4 months later showed that the lesion had spontaneously disappeared. Considering the optical mechanisms of reflection and scattering, which produce a whitish color, the endoscopic appearance in the present case is attributable to microbubbles. Magnifying endoscopy documented confirmation of microbubbles in the mucous membrane is important for diagnosis of colonic pseudolipomatosis.

Ⅰ 緒  言

大腸偽脂肪腫(Colonic pseudolipomatosis:CP)は粘膜固有層内に小空胞を形成する稀な非腫瘍性疾患であり,腸管気腫症の一型として位置付けられる.名称はHE染色標本でlipomatosisに類似することに由来する.組織学的には粘膜固有層内に空胞がみられ,脂肪細胞や拡張したリンパ管に似るが,脂肪滴やリンパ管内皮はみられない 1.CPは通常内視鏡観察で粘膜の白色変化を起こすことが知られているが,時に他疾患との鑑別が困難な場合がある.CPの拡大内視鏡観察に関する報告は少なく 1)~3,内視鏡的な診断法は確立されていない.今回,拡大内視鏡観察で特徴的な内視鏡像が得られたCPの1例を経験したので,文献的考察をあわせて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:51歳,女性.

主訴:なし.

既往歴:特記事項なし.

内服歴:特記事項なし.

現病歴:6年前と1年前に検診で施行した全大腸内視鏡検査(total colonoscopy:TCS)では異常所見を認めなかった.今回,再度検診目的にTCSを施行したところ,盲腸に病変を指摘した.

現症:身長 157cm,体重 62kg.腹部は平坦,軟,圧痛は認めなかった.

血液検査成績:特記すべき異常所見は認めなかった.

上部消化管内視鏡検査所見:胃穹窿部に5mm大の胃底腺ポリープを認めた.

便潜血反応検査:1日目,2日目ともに陰性であった.

TCS所見:盲腸のBauhin弁の対側に20mm大の境界不明瞭な平坦隆起性病変を認め,中央部で白色調に変化していた.近接観察では,病変辺縁はわずかに顆粒状に隆起しているが,境界は不明瞭であった.病変中央の白色領域は15mm大で境界は明瞭であり,点状発赤が散見された.同部位の拡大内視鏡観察で粘膜内に微小気泡を認めた.病変辺縁の顆粒状隆起部のNarrow band imaging(NBI)拡大内視鏡観察では,窩間部が極わずかに開大しているものの,構造と血管に不整を認めずJNET(The Japan NBI Expert Team Classification)分類のType 1と診断した.白色領域では構造と血管ともに不明瞭であったが,クリスタルバイオレット(Crystal violet:CV)染色では同部位に整然と配列したⅠ型pitが明瞭に観察され,明らかな上皮欠損は指摘できなかった(Figure 1).内視鏡像が非典型的で診断に難渋したため,白色領域の拡大内視鏡観察で微小気泡が観察された箇所より2個狙撃生検を行った.

Figure 1 

全大腸内視鏡検査.

a:通常内視鏡観察.盲腸のBauhin弁の対側に20mm大の境界不明瞭な平坦隆起性病変を認め,中央は白色調に変化していた.

b:インジゴカルミン散布像.病変内部にインジゴカルミンの軽度貯留を認めた.病変境界は不明瞭であった.

c:近接観察.病変辺縁はわずかに顆粒状に隆起しているが境界は不明瞭であった.病変中央の白色領域は15mm大で境界は明瞭であり,点状発赤も散見された.

d:cの赤枠の拡大内視鏡観察.粘膜内に微小気泡を認めた(黄矢印).

e:dのNarrow band imaging拡大内視鏡観察.病変辺縁の顆粒状隆起部分で極わずかに窩間部の開大を認めるが,構造と血管に不整を認めず,JNET(The Japan NBI Expert Team Classification)分類のType 1と診断した.一方,白色領域では構造と血管は不明瞭であった.

f:dのCrystal violet染色拡大内視鏡観察.整然と配列したⅠ型pitが明瞭に観察され,明らかな上皮欠損は指摘できなかった.

生検病理所見:粘膜固有層浅層に20~80μm大の空胞が散見し,一部にアモルファスな好酸性物質の貯留を認めた.間質は炎症細胞が浸潤し,微少出血を反映し部分的に赤血球が集簇していた.表層の上皮は一部で欠損していたが,明らかな異型や増殖性変化はみられなかった(Figure 2).免疫染色で,S-100,D2-40,factor Ⅷ,CD34,CD31,CD68はすべて陰性であった.

Figure 2 

生検病理所見.

a:HE染色(100倍).粘膜固有層浅層に20~80μmの比較的均一な小空胞が散見された.

b:aの黒枠の拡大.HE染色(400倍).一部の空胞に,アモルファスな好酸性物質の貯留を認めた(黄矢印).間質には炎症細胞が浸潤し,微少出血を反映し部分的に赤血球が集簇していた(緑矢印).表層の上皮は一部で欠損していたが,明らかな異型や増殖性変化はみられなかった.

臨床経過:内視鏡と生検病理所見からCPと診断した.無治療で経過観察を行い,4カ月後に施行したTCSで病変は消失していた.

Ⅲ 考  察

CPは大腸粘膜固有層内に10~600μm大の空胞が形成される疾患であり 4)~7,1985年にSnoverらが最初に報告した 6.CPの多くはTCS時に偶発的に発見され,生検病理で上述した粘膜固有層内の空胞を指摘することで診断する.また,S-100,CD31,D2-40,factor Ⅷの免染染色がすべて陰性であることが鑑別診断に有用とされる 4),5),7)~11.PubMedにおいて,2020年までの期間で「Pseudolipomatosis」をキーワードとして検索し該当した複数例の報告によると,CPの発症頻度は全TCS施行例の0.3~1.7%と比較的稀であった 4),6),7),11),12.また,好発年齢は40~70代,男女比は2:1,発症部位に左右差はなく,過半数は無症状であった(Table 1).内視鏡検査で病変の経過を観察しえた報告では,2~4週程で自然消失していた 2),7),12),13

Table 1 

Colonic Pseudolipomatosisに関する既報.

CPの発症機序は,内視鏡検査時の送気や牽引に伴う圧外傷 8),13やチャンネル内に残存した内視鏡洗浄用の消毒薬に起因した粘膜障害 7),12),14を契機に形成される医原性の病態と考えられてきた.しかし,サイトメガロウイルス腸炎や腸管囊腫様気腫症に合併したCPも報告されており 2),3),5),15,医原性に関わらず非特異的な粘膜傷害と上皮欠損により,粘膜固有層内に空気が侵入し粘膜の白色変化を引き起こすことがCPの病態であると考えられる.本症例は無症候性の健常女性に検診でTCSを施行し,スコープが盲腸に到達した時点で病変を指摘した.そのため,感染症や消毒薬,圧外傷とは関連性に乏しく,発症原因は不明であった.また,生検病理では上皮の欠損を認めたが,拡大内視鏡観察ではそれを認識することができなかった.これは病理組織学的にのみ評価できる極めて微小な上皮欠損であったためと推測する.

大腸粘膜が白色に変化するCPとの鑑別を要する疾患として,偽膜性腸炎,脂肪腫,黄色腫,マラコプラキア,リンパ管拡張症等が挙げられるが 1,通常内視鏡観察では診断が時に難しい場合がある.CPの内視鏡所見に関する既報は通常内視鏡観察のみに限られていたが,Iwamuroらと清水らはCPの拡大内視鏡観察所見で粘膜内の微小気泡が診断に有用であることを報告し 1)~3,本症例にもみられるように有用な所見と考えられる.

ここで,CPの粘膜に特徴的な「Snow white sign 16」もしくは「Frost sign 17」と称される白色調変化の光学的な原理を考察する.投射光は,ふたつの組織の屈折率の差が大きいほど組織の境界面で反射しやすい.また,小粒子に光が当たった時にMie散乱と呼ばれる散乱光が発生する.小粒子が不規則に分布する場合,様々な方向に散乱した光が一部で多重化し,前述の反射光とともにレンズを通って電荷結合素子(charge-coupled device:CCD)で結像され,視覚的に白色と認識される 18),19.CPで認められる気泡の屈折率は粘膜固有層と差を認め(粘膜:1.35,空気:1.0),かつ,気泡自体も不規則に分布しており,内視鏡からの投射光は気泡と粘膜固有層の境界面を入出する際に,反射と多重散乱を発生するため深部まで到達できず,透見性の乏しい白色調の領域として視覚化される.CPと同様に白色調に観察される病態として,消化管上皮細胞内に集簇した微小脂肪滴による白色不透明物質(white opaque substance:WOS)が挙げられる 20),21.微小脂肪滴も周囲組織と比較し高い屈折率(1.48)を有し 22,かつ,上皮細胞内に不規則に分布しているため,同様の機序で白色領域として認識されるものと推測する.

白色調の原因となる脂肪滴が上皮細胞中に存在するWOSでは,上皮細胞自体の形態異常はなく,白色部分は粘膜表面の陰窩に沿って規則正しく配列している.NBI拡大内視鏡観察では上皮下の血管は不明瞭になるものの,腺管構造は整った配列の上皮細胞の白色領域に取り囲まれる形でより明瞭に視認できる.一方CPでは,白色調に観察される空胞は上皮下の粘膜固有層内に不規則に分布しており,WOSと比較し,より深部で投射光の反射と多重散乱を認めるため,その領域の血管と腺管構造はいずれも不明瞭化する.しかし,こちらも陰窩上皮の形態異常があるわけではないので,CV染色を行うことで白色領域内のⅠ型pitを観察することが可能である.この推論が正しければ,実臨床においてNBI拡大内視鏡観察はCPとWOSを鑑別する上で有用な手段になりうる可能性がある.通常内視鏡観察ではCPとWOSともに白色調に観察されるが,NBI拡大内視鏡観察を行うことで,WOSで構造は明瞭,血管は不明瞭になる一方,CPではいずれも不明瞭となるため鑑別が可能になる.われわれの推論の妥当性を明らかとするために,今後更なる症例の蓄積と検討が必要である.

Ⅳ 結  語

拡大内視鏡観察にて特徴的な内視鏡像が得られた大腸偽脂肪腫の1例を経験した.拡大内視鏡観察はCPの内視鏡診断に有用である可能性がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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