GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF COLLAGENOUS COLITIS WITH EXTENSIVE ULCER, RESEMBLING ISCHEMIC ENTERITIS
Kanako KATO Tomoe KAWAMURAHirofumi IZUMOTOShogo KITAHATAYoshifumi SUGAFujimasa TADAAtsushi HIRAOKAKatsumi KITOTomoyuki NINOMIYA
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2023 Volume 65 Issue 11 Pages 2304-2309

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要旨

症例は74歳女性.慢性下痢,腹痛を主訴に近医を受診し,大腸内視鏡検査で虚血性腸炎が疑われた.症状が改善しないため3カ月後に当科を紹介受診した.大腸内視鏡検査で盲腸~下行結腸に広範な潰瘍を伴う浮腫状/顆粒状粘膜を認め,虚血性腸炎を鑑別に挙げたが,S状結腸の縦走潰瘍やランソプラゾール(lansoprazole:LPZ)の内服歴,臨床症状よりcollagenous colitis(CC)を疑い,生検組織より確定診断した.LPZ中止後7日目より下痢症状は軽快し,内視鏡像でも潰瘍所見は消失,56日目には組織学的にも改善を確認した.広範な潰瘍所見を伴うCCは非常に稀であるが,内視鏡所見として虚血性腸炎との鑑別を要する症例があり注意が必要である.

Abstract

A 74-year-old woman with chronic diarrhea and abdominal pain visited a primary care physician. The patient was suspected ischemic colitis (IC) by colonoscopy. After 3 months, she was referred to our department because the symptoms did not improve. Colonoscopy revealed edematous/granular mucosa with extensive ulcer in the cecum (descending colon), and IC was suspected. However, we diagnosed collagenous colitis (CC) based on medical history of lansoprazole administration and clinical symptoms. The diagnosis of CC was confirmed by biopsy of the longitudinal ulcers of the sigmoid colon. On day 7, her diarrhea became mild after lansoprazole was discontinued, and the ulcer disappeared on endoscopy. Although CC with extensive ulcer is extremely rare, there are cases that require differentiation from IC as endoscopic appearance and should be attended.

Ⅰ 緒  言

Collagenous colitis(CC)は,1976年にFreemanら 1,Lindstrom 2によって報告され,慢性水様下痢をきたし,大腸粘膜上皮下に特徴的なcollagen bandの肥厚と粘膜固有層内に炎症細胞浸潤を認める疾患と定義されている.CCの内視鏡所見は,微細顆粒状粘膜 3),4,血管不整所見(毛細血管増生,毛細血管透見不良化など 3),発赤粘膜 3,縦走潰瘍(mucosal tears・linear mucosal defect 5),6)など多彩であるが,広範な潰瘍を伴うCCは非常に稀である.今回内視鏡的に虚血性腸炎と類似した潰瘍を伴ったCCの1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:74歳,女性.

主訴:水様下痢(7回/日),腹痛.

既往歴:高血圧症,逆流性食道炎.

内服歴:カルベジロール,ニフェジピン,バルサルタン,プラバスタチンナトリウム,ドキサゾシン,ランソプラゾール,ビオフェルミン.

現病歴:20XX年2月より逆流性食道炎に対してランソプラゾール(lansoprazole:LPZ)の内服を開始した.同年4月に慢性下痢と腹痛を主訴に近医を受診し,血液検査や腹部単純CTで異常所見はなかった.6月に大腸内視鏡検査を施行され,虚血性腸炎が疑われた.症状が改善しないため9月に当科を紹介受診した.

入院時現症:身長158cm,体重50kg,体温36.0℃,血圧140/70mmHg,脈拍73回/分,腹部平坦・軟,下腹部に軽度の圧痛あり.

血液生化学所見:CRP 2.04mg/dlと軽度上昇を認めるほかに,特記所見を認めなかった.

腹部造影CT所見:S状結腸に軽度の壁肥厚あり.

大腸内視鏡検査所見(受診日):盲腸~下行結腸に広範な潰瘍を伴う浮腫状/顆粒状粘膜があり,S状結腸に縦走潰瘍がみられた(Figure 1).便汁培養検査では有意な病原菌は検出されなかった.

Figure 1 

大腸内視鏡検査(入院時).

a:上行結腸に広範な潰瘍を伴う浮腫状/顆粒状粘膜を認めた.

b:S状結腸に縦走潰瘍を認めた.

右側結腸の内視鏡像より虚血性腸炎を鑑別に挙げたが,臨床症状,S状結腸の縦走潰瘍の所見,LPZ内服歴よりCCを疑い,LPZを中止した.腹部症状が強く,入院の上,絶食とし点滴管理を行ったところ,排便回数は減少し腹痛も改善した.入院時に施行した大腸内視鏡検査の大腸粘膜生検病理組織で,上行結腸から直腸にかけてすべての組織で粘膜上皮下にAzan染色陽性の幅の広いcollagen bandの形成が確認できたことから(Figure 2),CCと診断した.また上行結腸の病理組織でも虚血性腸炎の所見はなく,合併は否定的であった.

Figure 2 

病理組織像(入院時)対物×20.

a:上行結腸生検組織 HE染色.

被蓋上皮直下のcollagen bandが肥厚し,粘膜表面には多数の好中球を含む粘液が付着している.粘膜固有層にはリンパ球主体の炎症細胞がみられるが,虚血所見はなかった.

b:上行結腸生検組織 Azan染色.

c:S状結腸生検組織 Azan染色.

すべての生検組織で上皮下に幅25μm前後のcollagen bandを認めた.HE染色で好酸性に染色され,Azan染色で青色に染色された.

上部消化管内視鏡検査(入院8日目):背景胃粘膜に萎縮なく,多発性白色扁平隆起があり,プロトンポンプ阻害薬(Proton pump inhibitor:PPI)関連胃症が示唆された.

大腸内視鏡検査(入院8日目再検):上行結腸~下行結腸には浅い縦走潰瘍があり,S状結腸の縦走潰瘍は改善傾向であった(Figure 3).再度施行した生検の病理組織でも,下行結腸~S状結腸にかけて慢性炎症細胞浸潤と粘膜上皮下のcollagen bandの肥厚を認めたが,上行結腸~横行結腸および直腸では慢性炎症細胞浸潤を認めるのみであった(Figure 4).

Figure 3 

大腸内視鏡検査(入院8日目).

a:上行結腸~横行結腸に浅い縦走潰瘍を認めた.

b:S状結腸の縦走潰瘍は改善傾向であった.

Figure 4 

病理組織像(入院8日目)対物×20.

S状結腸生検組織 Azan染色.下行結腸,S状結腸の生検組織で慢性炎症細胞浸潤と粘膜上皮下のcollagen bandの肥厚を認めた.

食事再開後も腹部症状再燃なく経過したために退院した.

大腸内視鏡検査(56日目):右側結腸には所見なく,S状結腸の縦走潰瘍は瘢痕化していた(Figure 5).病理組織でも炎症所見なく,collagen bandは残存するものの菲薄化していた(Figure 6).

Figure 5 

大腸内視鏡検査(56日目).

S状結腸に線状瘢痕を認めた.

Figure 6 

病理組織像(56日目)対物×20.

S状結腸 Azan染色.活動性の炎症変化は認めず,collagen bandは残存するものの菲薄化していた.

Ⅲ 考  察

CCは,慢性下痢をきたし病理組織学的に大腸の上皮基底直下にcollagen bandがみられる疾患で,本邦ではPPIに関連した症例が大半を占める 7.CCの内視鏡所見については様々な報告があり,以前は正常,あるいは発赤,浮腫,血管網増生,顆粒状粘膜などの軽微な所見にとどまるとされていた 8),9が,本疾患概念の浸透に伴って清水らによりひび割れ様所見が報告され 10,2018年にはCCの内視鏡診断に関する清水の総説が本誌に掲載されている 11.本邦での報告では,2010年の中山ら 12が124例の報告で,82%に内視鏡所見を有し,内訳は血管透見低下(40%),縦走潰瘍~瘢痕(27%),浮腫状/顆粒状粘膜(21%),びらん,アフタ状潰瘍(12%),発赤(8%),毛細血管拡張(8%)であった.縦走潰瘍~瘢痕は左側結腸優位(88%),浮腫状/顆粒状粘膜は右側結腸優位(67%)の分布であったことを報告している.また清水 13の多施設集計83例では,内視鏡所見の異常が79.5%でみられ,血管像の異常が60例(血管透見低下42例,血管増生36例),縦走潰瘍~瘢痕は27例,顆粒状粘膜,ひび割れ様所見がそれぞれ12例であった.山崎ら 14の多施設集計95例でも内視鏡的異常所見は78.9%でみられており,血管増生が35例,血管透見不良が32例,縦走潰瘍が24例,顆粒像が8例,ひび割れ様所見が6例であった.一方,本症例で右側結腸に認めた広範な潰瘍所見については報告が少ない.先述の通りCCの縦走潰瘍は典型的な所見のひとつであるが,本症例の場合はS状結腸には典型的な縦走潰瘍を認めたものの,盲腸~下行結腸にみられた広範な潰瘍は典型的な像とは異なる所見であった.本邦においては,2018年に清水 11が報告したCCの多彩な内視鏡所見のひとつに本症例と類似した像が示されており,そこでは偽膜様所見として提示されている.

一方,虚血性腸炎については,1996年にMarstonら 15が,主幹動脈の明らかな閉塞を伴わず,腸間膜動脈の血流減少や腸管内の微小循環障害によって生ずる可逆的な限局性虚血性病変をischemic colitisと命名し,一過性型,狭窄型,壊死型に分類した.大川ら 16は81例を対象に急性期の虚血性大腸炎の内視鏡像を血管拡張,うろこ模様,偽膜様所見,チアノーゼ所見に分けて検討しており,病変部位は左側結腸に多く,83%に偽膜様所見がみられた.偽膜様所見の本体は表層上皮のみあるいは粘膜固有層の様々な深さまでの脱落と粘膜の障害に伴って生じるfibrinや剝がれた上皮,粘液,炎症性浸出物などからなる偽膜様物質の付着であり,偽膜様物質の厚さと虚血の程度はある程度比例していると報告している.また,腺管の立ち枯れが虚血性腸炎の病理学的特徴であり,虚血の程度をみるには表層上皮の脱落や腺管の減少が指標として適切であると結論付けられている.

本症例ではS状結腸に認めた縦走潰瘍~瘢痕の所見,LPZ内服歴,症状からCCを疑ったが,盲腸~下行結腸に広範な潰瘍を伴っており内視鏡像は虚血性腸炎の偽膜様所見と類似していた.内視鏡像で潰瘍を呈した大腸粘膜の生検病理組織では,壊死物質を含む粘液の噴出像といった偽膜性腸炎の典型所見や,陰窩の拡張や粘液貯留といった虚血性腸炎を示唆する所見を認めなかった.

PPI関連CCは,PPIが胃壁細胞だけでなく大腸上皮のプロトンポンプも阻害することにより大腸粘膜局所の免疫反応を誘導し,炎症性の膠原線維が沈着することで上皮基底直下のcollagen bandを形成すると推察されている 17.また,CCの病理診断においてはcollagen bandだけでなく慢性炎症反応を示唆する粘膜固有層全層におよぶ好酸球・好中球を伴うリンパ球・形質細胞浸潤が重要な所見とされている 18.CCの典型的な所見である線状・縦走潰瘍は,collagen bandの肥厚による腸管伸展不良があるところに腸管内圧の上昇が加わることで起こるとされている.本症例のような広範な潰瘍を呈する機序は明らかになっていないが,病理所見から推察するとcollagen bandの肥厚により粘膜表層のみが微小循環不全となり,粘膜上皮の壊死をきたしたことで粘膜固有層の炎症細胞が表面化し,広範な潰瘍を呈するという仮説も提示される.

本症例は,LPZの内服開始から2カ月の時点で慢性下痢の症状が出現し,7カ月時点で大腸生検組織でのcollagen bandを認め診断に至った.内服中止し2日で症状は改善,56日目の生検組織でcollagen bandの菲薄化を認めている.工藤ら 19はPPI内服から症状発現までの期間は平均189日(3日~6年),PPI内服中止から症状改善までは2日~2カ月と報告している.梅野ら 20の報告では全24例のうち20例がLPZ内服後に大腸上皮直下にcollagen bandの肥厚を認めてCCと診断されており,LPZ内服開始から診断・被疑薬中止までの期間は1例のみ4年と長期であったがそれ以外の19例はいずれも2カ月~10カ月であった.

原因薬剤中止後,短期間の経過観察ではcollagen band肥厚が改善する頻度は低いようであるが,経時的にcollagen bandは菲薄化していくという報告 21や,原因薬剤の中止により66~100%と比較的高率にcollagen bandの肥厚が消失するとの報告 20),22がある.本症例ではLPZ中止後7日目の内視鏡ではcollagen bandの肥厚は残存するものの,初回に認めた広範な発赤,アフタ状潰瘍は改善し.典型的なCCの内視鏡像を呈していた.56日目の内視鏡でS状結腸に線状瘢痕が残存するもののcollagen bandは菲薄化しており,組織学的改善を確認することができた.本症例では典型的なCCの発症様式であり,LPZ中止7日目の内視鏡像以降も比較的典型的な経過をたどったと考えられるが,初回内視鏡時に右側結腸の広範な潰瘍形成に至った理由について明らかではない.今後病態のさらなる解明や内視鏡診断の精度向上のために同様の所見を有するCC症例の集積解析が必要である.

Ⅳ 結  語

盲腸~下行結腸に広範な潰瘍を認め,内視鏡的に虚血性腸炎と類似した像を呈したcollagenous colitisを経験した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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