GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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MULTIPLE SMALL INFLAMMATORY FIBROID POLYPS OF THE COLON: A CASE REPORT
Hideaki SUZUKI Tetsu KINJOAkira HOKAMAGen TAMURA
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2023 Volume 65 Issue 6 Pages 1123-1127

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要旨

68歳,男性.大腸がん検診で便潜血陽性のため,当院にて下部消化管内視鏡検査を施行した.内視鏡検査では,上行結腸に直径6mm程度の隆起と横行結腸に直径3mm程度の平坦で境界明瞭な病変を認めた.診断的治療目的にて,2病変に対して内視鏡的切除を施行した.病理学的検討では,切除した2病変とも,大腸粘膜固有層に好酸球,リンパ球の浸潤を伴う紡錘形細胞の増生を認めた.免疫染色にて紡錘形細胞はCD34陽性,c-kit,EMA,GLUT-1,S-100,α-SMAは陰性であった.以上より,炎症性線維状ポリープ(inflammatory fibroid polyp:IFP)と診断した.微小で,更に複数病変で発見されるIFPは稀であり,内視鏡的に切除し得た1例を経験したので報告する.

Abstract

A 68-year-old man tested positive for fecal immunochemical test during colorectal cancer screening and underwent lower gastrointestinal endoscopy at our hospital. Endoscopic examination revealed a 6-mm-diameter elevation in the ascending colon and a 3-mm-diameter, flat, well-defined lesion in the transverse colon. Endoscopic resection of the two lesions was performed for diagnostic and therapeutic purposes. Pathological examination revealed that both lesions showed spindle-shaped cell proliferation with infiltration of eosinophils and lymphocytes in the intrinsic layer of the colonic mucosa. Immunohistochemical staining showed spindle-shaped cells that were CD34-positive and negative for c-kit, EMA, GLUT-1, S-100, andα-SMA. Therefore, we diagnosed these lesions as inflammatory fibrinoid polyp (IFP). We report a rare case of endoscopically resectable IFP that was microscopic and found in multiple lesions.

Ⅰ 緒  言

炎症性線維状ポリープ(inflammatory fibroid polyp:IFP)は消化管粘膜に発生する炎症性腫瘤であるが,結腸に発生することは稀である.本邦における大腸IFP病変の報告例の多くは単発であり,微小で複数病変で発見されるIFPは極めて稀である.内視鏡的に切除し得た大腸IFPの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:68歳,男性.

主訴:便潜血陽性.

既往歴:神経線維腫症1型.

現病歴:2020年度の大腸がん検診で便潜血陽性のため同年6月に当院を受診,同年7月に当院にて下部消化管内視鏡検査を施行した.

受診時現症:腹部は平坦,軟で圧痛を認めなかった.

臨床検査成績:末梢血,生化学等は異常を認めなかった.

大腸内視鏡検査:上行結腸に直径6mm程度のびらんを伴わない無茎性の隆起性病変を認めた.病変は境界明瞭な立ち上がりとなだらかな隆起を認め,色調は周囲粘膜とほぼ同様であった.Narrow Band Imaging(NBI)拡大観察にてJNET Type 1で腺管口の伸展・開口を認め,頂部にはコーヒー豆様の小陥凹の所見を認めた(Figure 1-a,b).また,横行結腸に直径3mm程度の平坦で境界明瞭である病変を認め,同様にNBI拡大観察にてJNET Type 1で腺管口の伸展・開口を認めた(Figure 2-a,b).診断的治療目的に上行結腸の病変に対しては,hot snare polypectomyを施行し,横行結腸の病変に対しては,cold forceps polypectomyを施行した.

Figure 1 

a:上行結腸病変のWhite Light.

b:上行結腸病変のNBI(拡大内視鏡像).

病変部は内視鏡所見としてNBI拡大観察にてJNET Type 1で腺管口の伸展・開口を認め,頂部にはコーヒー豆様の小陥凹の所見を認めた.

Figure 2 

a:横行結腸病変のWhite Light.

b:横行結腸病変のNBI(拡大内視鏡像).

JNET Type 1で腺管口の伸展・開口を認めた.

病理組織学的所見:切除した2病変とも,大腸粘膜固有層に好酸球,リンパ球の浸潤を伴う紡錘形細胞,線維性結合織の増生を認めた(上行結腸病変Figure 3-a,b 下行結腸病変Figure 3-c).また,2病変とも,免疫染色にてCD34は陽性で,c-kit,EMA,GLUT-1,S-100,α-SMA,DOG1は陰性であった(上行結腸病変Figure 4-a:CD34,Figure 4-b:S-100).

Figure 3 

a,b:上行結腸病変の組織像.紡錘形細胞の増生と好酸球の浸潤を認める(a:弱拡大,b:強拡大).

c:横行結腸病変の組織像.紡錘形細胞の増生と好酸球の浸潤を認める(弱拡大).

Figure 4 

上行結腸病変の免疫染色の結果.

a:CD34陽性.

b:S-100陰性.

Ⅲ 考  察

IFPに類似する疾患として,benign fibroblastic polyp(BFP)とc-kit陰性NF-1関連GISTがあるが,BFPでは粘膜が過形成性変化を示し,炎症細胞浸潤も軽度であることが多いとされ,免疫染色ではCD34が陰性かまたは弱陽性,EMAとGLUT-1は陽性である 1),2)~4.更に,c-kit陰性NF-1関連GISTはDOG1染色が陰性であることより,否定された.また,血小板由来増殖因子受容体α(PDGFRA)遺伝子の機能獲得性突然変異の関与が示唆されているが,本症例では,陰性であった.これらの所見から,本症例をIFPと診断した.報告されているIFP,BFPおよび,今回提示した症例の臨床病理学的特徴の比較をTable 1に示した.

Table 1 

IFP,BFPと本症例の比較.

IFPは,1920年にKonjetzny 5が胃の好酸球浸潤を伴う粘膜下腫瘍に対してpolypoid fibromaとして報告し,その後,1953年Helwigら 6が胃病変10例を報告した際にinflammatory fibroid polypと命名し,現在ではその名称が一般に用いられている.成因は,反応性の炎症性ポリープ様病変とする炎症説が有力で,現時点では非腫瘍性ポリープに分類されている 7.また,近年では,血小板由来増殖因子受容体α(PDGFRA)遺伝子の機能獲得性突然変異の関与が示唆されている 7),8.IFPの病理組織学的特徴として,線維芽細胞と疎な膠原線維の増生,好酸球,リンパ球などの炎症細胞浸潤が挙げられている.本邦の報告をみると,胃ついで小腸での発生が多く 9),10,大腸に発生することは稀である.本邦において大腸IFPは,1978年から2022年までに医学中央雑誌で自験例を含め52例報告されている.更に,杉浦 11の発表と本症例を除けば,大腸IFP病変の報告例は単発であった.また,有茎,亜有茎や粘膜下腫瘍の形態を呈するものが多く,巨大化するとびらんや潰瘍を形成し陰茎様外観を呈することが特徴である.下血,貧血を契機に内視鏡を施行し,診断されることが多く 12),13,微小病変にて発見される症例は少ない.微小病変については,大腸では比較的稀な疾患であることや,現時点では特徴的な内視鏡所見が確定されていないことより,術前診断は困難と考えられる 14

Ⅳ 結  語

本症例では病変が小さく,複数病変を認めたことが特徴的である.今後,症例の蓄積により,IFPの微小病変の内視鏡的特徴について,明らかになってくることが期待される.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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