2023 Volume 65 Issue 9 Pages 1415-1420
症例は70歳女性.上部消化管内視鏡検査にて,胸部上部食道に顆粒状の凹凸を呈する黄白色調の扁平隆起性病変を認めた.narrow band imaging拡大観察では,背景粘膜よりやや拡張した血管が整然と並んでおり,その深部に境界不明瞭な黄白色調の類円形構造が透見された.病理組織学的には,異型に乏しい重層扁平上皮の増生と,上皮下に泡沫状組織球の集簇を認め,疣贅型黄色腫と診断した.3年の経過観察で病変に変化は認めなかった.
A 70-year-old female underwent an esophagogastroduodenoscopy. On white light imaging, a slightly elevated, granular, yellowish-white lesion was observed in the upper esophagus. Using magnifying narrow-band imaging, we observed yellowish-white circular structures arranged in an orderly fashion with dilated but uniformly shaped blood vessels. Histopathological examination revealed hyperkeratosis of the squamous epithelium and aggregation of foamy histiocytes beneath the epithelium, leading to a diagnosis of verruciform xanthoma. Over a three-year follow-up period, there was no change in the lesions. We report a case of esophageal verruciform xanthoma diagnosed using magnifying narrow-band imaging.
疣贅型黄色腫(Verruciform xanthoma;VX)は,口腔粘膜 1)や女性生殖器の皮膚 2)に好発する孤発性の平坦または疣贅性の丘疹であり,1971年にShaferが初めて報告した 1).Xanthomaの組織学的特徴は脂質を含んだマクロファージが泡沫細胞として観察されることであるが,VXは重層扁平上皮の乳頭状増殖と上皮下の泡沫状組織球集簇を特徴とする良性の粘膜病変である 3).食道における報告は極めて稀であり,さらにVXのnarrow band imaging(NBI)観察像については未だ報告されていない.今回,NBI拡大内視鏡観察を行った食道VXの1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
患者:70歳,女性.
主訴:なし(精査目的).
既往歴:高血圧,糖尿病.
生活歴:飲酒歴なし,喫煙歴なし.
現病歴:2018年に実施されたスクリーニング目的の上部消化管内視鏡検査で,胸部上部食道に黄白色調の扁平隆起性病変が認められ,生検で異形成が疑われたため当院紹介となった.
身体所見:結膜に貧血・黄疸なし.腹部は平坦,軟,圧痛なし.腫瘤触知せず.表在リンパ節腫大なし.
臨床検査成績:γ-GTPとHbA1cが高値であった.SCCは正常範囲内であった.その他,特記すべき事項は認めなかった(Table 1).
臨床検査成績.
上部消化管内視鏡所見(病変部):上切歯列から約18cmの食道粘膜に,最大径約20mmの黄白色調の隆起性病変を認めた.扁平な領域と厚みのある領域が混在し,表面は顆粒状の凹凸を呈していた(Figure 1-a).NBI非拡大観察では境界明瞭な淡い茶褐色調または白色調を呈し(Figure 1-b),NBI拡大観察では,背景粘膜と比べて拡張・蛇行した血管を認めたが,口径や形状は一様であり,血管形態は食道学会分類Type Aに相当すると判断した.その血管の深部には幅0.1mmに満たない黄白色調の境界不明瞭な類円形構造が整然と並んでいた(Figure 1-c).ヨード染色では不染を呈した(Figure 1-d).Xanthomaに類似した所見であり,良性の病変を考えたが,サイズが大きく,色調や形態も均一ではなく,verrucous carcinomaなどの表層の異型が軽度な癌を除外するために複数の生検を施行した.
上部消化管内視鏡像(病変部).
a:通常内視鏡像.胸部上部食道に最大径約20mmの黄白色調の丈の低い隆起性病変を認めた.
b:NBI非拡大内視鏡像.病変は境界明瞭で淡褐色から白色調を呈していた.
c:NBI拡大内視鏡像.黄白色の淡い円形構造(黄矢印)の上に,やや拡張した血管が整然と並んでいた.
d:ヨード染色像.不染を呈した.
上部消化管内視鏡所見(非病変部):NBI非拡大観察では,中部食道に淡いbrownish areaが散在し,ヨード染色では中部から下部食道に不整形の淡染領域の散在を認めた.通常内視鏡観察では中部から下部食道に線状の発赤が散在していた.
病理組織学的所見:異型に乏しい重層扁平上皮の乳頭状増殖と,上皮直下に泡沫状組織球の集簇を認め(Figure 2-a),組織球のマーカーであるCD68が強陽性を示し(Figure 2-b),食道VXと診断した.
病理組織像.
a:生検標本(HE染色,強拡大像).異型に乏しい重層扁平上皮の乳頭状増殖を認めた.上皮直下には泡沫状組織球の集簇を認めた.
b:生検標本(免疫組織化学染色像).CD68が強陽性を示した.
経過:食道VXの悪性化の報告はなく経過観察の方針とした.ただし長期経過は不明なため,定期的な観察を続けている.また,胸焼けの自覚症状があり,内視鏡で背景粘膜に炎症所見が認められたことから逆流性食道炎が併存していると判断しボノプラザンの内服を開始した.診断から3年経過しているが現時点では病変部に変化はない.
食道VXは,病理組織学的に扁平上皮直下に泡沫細胞が集簇している点は通常のXanthomaと同様であるが,扁平上皮の乳頭状増殖を伴う点が特徴である.VXの食道における報告は極めて稀であり,食道VXのNBI観察像の報告は,本症例が最初である.本疾患の成因については,未だ不明な点が多い.外傷や炎症などの刺激によって上皮の乳頭状増殖が起こり,その過程で上皮細胞が変性・壊死して生じた膜脂質を組織球が貪食して泡沫細胞化する説 4)と,最初に何らかの刺激を受けた上皮の乳頭部に局所的な脂質代謝異常が生じ,二次的な変化として上皮の増殖が生じる説 5)などがある.本症例では,放射線治療歴や外傷など,外的要因の関与を疑う既往は認めなかった.また,一般的にVXは,血清脂質の変動を伴わない局所病変として位置づけられている 6).本症例においても糖尿病を認めているが,血清脂質に異常は認めなかった.全身疾患との因果関係については症例数が少なく現時点では明確ではない.
医学中央雑誌にて「疣贅型黄色腫」,「食道」またはPubMedにて「verruciform xanthoma」,「esophagus」をキーワードに検索したところ,自験例を含めて7例の報告があった(Table 2) 7)~11).4例が男性であり,年齢中央値は70(49~91)歳で中年~高齢者に多く,病変径は1cm以下のものが多かった.局在については胸部上部~中部食道に多い傾向(胸部上部/中部/下部食道:3/3/1例)にあり,発生要因は放射線が2例で,その他は不明であった.Noguchiら 11)は,唯一12年の経過観察を行っており,大きさや形態に著変はなく,悪性化も認めなかったと報告している.しかしながら,1報のみの報告であり,悪性化を含めた長期経過については不明である.
Verruciform xanthomaの報告例.
食道VXの内視鏡所見は,通常観察では黄白色調の隆起性病変で,顆粒状もしくは疣状の凹凸を呈する 7)~11).集簇した泡沫状組織球は,食道Xanthomaでは規則正しく配列する境界明瞭な微小黄白色顆粒として観察されるのに対し,食道VXでは上皮の肥厚のために不明瞭に観察される.
本症例も既報と同様の肉眼所見,病理組織学的所見と考えられた.黄白色の色調は,上皮の肥厚と上皮下の泡沫状組織球,顆粒状の凹凸は乳頭状増殖した上皮の形態を反映していると推察する.また,本症例ではNBI拡大内視鏡観察による詳細な観察が可能であった.病変内には境界がやや不明瞭な黄白色調の類円形構造が整然と並び,上皮下乳頭部に集簇した泡沫状組織球を反映していると推察する.VXでは泡沫状組織球の表層に位置する重層扁平上皮が増殖し厚みを有するため,通常の黄色腫と異なり,黄白色調の類円形構造がやや不明瞭に視認されたと考える.また,視認できる血管形態は,背景粘膜と比べて拡張・蛇行を認めるものの,口径や形状は一様であり,食道学会分類Type Aに相当する非癌の所見と考えられた.
食道で観察される黄白色調または白色調の隆起性病変においては,いくつかの鑑別疾患が挙げられる.良性疾患としては,食道カンジダ症,皮脂腺,乳頭腫,黄色腫などがあるが,これらは内視鏡所見のみで確信をもって診断できることが多く,その場合は生検せずに経過観察で良いとされる.一方,悪性疾患としては,角化傾向の強い食道癌やverrucous carcinomaなどがある.不整な形態を伴う場合や,NBI観察で異常血管が視認できる場合は悪性を類推することが可能であるが,悪性所見が認められない場合でも確信をもって良性疾患と判断できなければ生検による診断が必要となる.本症例はNBI観察で上皮下に透見できる小さな黄白色調の類円形構造,その直上に視認できる異型に乏しい血管形態などが診断に迫れる所見である可能性が考えられた.
治療法については,口腔領域では悪性化の報告例は認めていない 12)が,切除が基本とされる 3)ため,長期経過が追えた症例は少ない.食道VXに関しては生検で診断が確定すれば経過観察されているが,症例数が少なくやはり長期経過は不明である.癌化や増大の有無など,できるだけ長期に追跡する方針である.
NBI拡大内視鏡観察をし得た食道VXの1例を報告した.食道のVXは非常に稀であり,その成因や長期予後については不明な点が多い.今後,症例を集積し,長期経過や治療方針についてのさらなる検討が期待される.
本論文の要旨は第116回日本消化器内視鏡学会北陸支部例会で報告した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし