GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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HISTOPATHOLOGICALLY DIAGNOSED LYMPHOCYTIC COLITIS FOLLOWING PRERENAL FAILURE SECONDARY TO SEVERE DIARRHEA: A CASE REPORT
Yuriko SHIGEHISA Hisae YASUHARAYasunari YOSHIDAYuki BABAHiroyuki SEKIHitomi ENDOTeruya NAGAHARAHideki JINNOMorihito NAKATSUKatsuya MIYATANI
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2023 Volume 65 Issue 9 Pages 1434-1440

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要旨

56歳,男性.1週間前から頻回な水様性下痢と,腎機能障害を認めており,高度下痢による腎前性腎不全と診断した.感染性腸炎を疑い,絶食下に大量補液を施行したが下痢,腎機能の改善は乏しく,糞便培養検査からは有意菌の検出は認めず原因は不明であった.CSを行い,S状結腸から直腸にかけて血管透見低下とひび割れ様の粘膜所見を認め,ランダム生検を施行した.病理組織学的所見で上皮間リンパ球の増加を認めLymphocytic colitisと診断した.コレスチミドの投与により下痢,腎機能は改善した.原因不明の慢性下痢患者において,Lymphocytic colitisを含めたMicroscopic colitisの診断を行うには,微細な内視鏡所見をとらえ積極的に生検を施行し,病理組織学的評価を行うことが重要である.

Abstract

A 56-year-old man was diagnosed with prerenal failure secondary to continuous severe diarrhea for one week. He received a large volume of fluid replacement therapy and was fasting for the management of suspected infectious enteritis. However, there was no improvement in both diarrhea and renal function. Stool culture tests showed no pathogenic bacterial growth, and the cause of the diarrhea remained unknown. CS revealed a diminished vascular pattern and crack-like mucosal grooves extending from the sigmoid colon to the rectum. Histopathological examination of random biopsy specimens obtained from different parts of the colon showed intraepithelial lymphocytic infiltration in the surface epithelium, leading to the diagnosis of lymphocytic colitis. Administration of cholestyramine improved diarrhea and renal function. Accurate detection of even minimal endoscopic findings and mucosal biopsy for histopathological evaluation are useful for the diagnosis of microscopic colitis, including lymphocytic colitis, in patients with chronic diarrhea of unknown cause.

Ⅰ 緒  言

リンパ球浸潤大腸炎(Lymphocytic colitis:LC)は膠原線維性大腸炎(Collagenous colitis:CC)と併せて顕微鏡的大腸炎(Microscopic colitis:MC)と総称され,慢性下痢を主症状とし,大腸内視鏡所見がほぼ正常で,特徴的な病理組織学的炎症所見を呈する疾患と定義される 1.CCでは膠原線維束(collagen band:CB)肥厚が特徴であるのに対し,LCではCB肥厚を認めず上皮間リンパ球の増加を認めることが重要である 2.今回,われわれは腎前性腎不全をきたした原因不明の慢性下痢において,微細な内視鏡所見と,特徴的な病理組織学的所見によりLCと診断し得た1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:56歳,男性.

主訴:下痢.

基礎疾患:高血圧症.

内服薬:テルミサルタン,アテノロール.

生活歴:喫煙歴:20本/日(20歳から36年間),飲酒歴:日本酒 2合,ビール 1,000mL/日.

渡航歴:なし.

現病歴:1週間前から頻回な水様性下痢が出現し,2020年2月当院を受診した.血液検査でCre 4.12mg/dLと腎機能障害を認め,高度下痢による腎前性腎不全が疑われ,同日入院となった.

入院時現症:身長 173.3cm.体重 86.9kg.体温 36.7℃.血圧 89/47mmHg.脈拍 66回/分,整.腹部は平坦,軟,圧痛なし.腸蠕動音は低下.下腿浮腫なし.

臨床検査成績:脱水に伴う腎機能障害,低ナトリウム,低カリウム血症の電解質異常があり,CRPの軽度上昇を認めた.甲状腺機能異常はなく,自己免疫性疾患を疑う所見も認めなかった(Table 1).

Table 1 

臨床検査成績.

糞便検査:便培養で有意菌検出なし.便虫卵検査陰性.Clostridioides difficileトキシン・抗原陰性.ズダンⅢ染色陰性.

腹部造影CT:大腸は全体的に極軽度の壁肥厚を認める.神経内分泌腫瘍などを疑う所見はなかった.

入院後経過:脱水の影響で血圧が低下していたため降圧薬を中止した.何らかの感染性腸炎を疑い糞便検査など行いながら,対症療法として1日4Lの大量補液を開始した.しかし,1日10行以上の水様性下痢が持続し,腎機能はCre 1.4mg/dL前後から改善が乏しく,栄養状態の悪化も認めた.第5病日に大腸内視鏡検査を施行した.回腸末端から下行結腸には特記所見は見られなかったが,S状結腸で血管透見の低下と直腸にかけてひび割れ様の粘膜を認めた(Figure 1).内視鏡上正常な部位も含めて,回腸末端,大腸の各部位からランダム生検を施行した.第11病日よりロペラミド,ポリカルボフィルカルシウムを開始後,排便回数は1日5行以下に減少し,腎機能もCre 1.1mg/dL前後に改善したが,ブリストルスケール6の泥状便が持続し,アルブミン 2.9g/dLとさらに低下を認めた.各種検査より感染性腸炎や,甲状腺疾患,自己免疫性疾患,神経内分泌腫瘍などは否定的であった.原因不明の慢性下痢であり,MCの可能性を疑い第15病日にコレスチミドを開始した.その後,排便回数は1日1行,ブリストルスケール3まで改善し,アルブミンも上昇した.全身状態が安定し,第24病日に退院となった(Figure 2).

Figure 1 

大腸内視鏡検査.

a:横行結腸.上行から下行結腸は血管透見は保たれていた.

b:S状結腸.S状結腸は血管透見が低下し,粘膜は浮腫状でひび割れ様所見を認めた.

c・d:直腸.直腸においてもひび割れ様所見を認め,インジゴカルミン散布像で,ひび割れ様所見は明瞭となった.

Figure 2 

臨床経過.

後日,病理組織所見において,回腸末端および全結腸からランダム生検を施行したすべての部位で,CBの肥厚は呈さず,上皮間リンパ球の増加を認めた.免疫染色でCD3陽性が大半を占めCD20陰性であることからLCと確定診断した(Figure 3).

Figure 3 

病理組織学的所見(下行結腸).

a:上皮間リンパ球の増加を認め(≧20個/表層上皮細胞100細胞)(黒矢頭:上皮間リンパ球の一部),CBの肥厚は認めない(HE染色×400).

b:上皮間リンパ球浸潤はCD3免疫染色が多数陽性(赤矢頭)(CD3免疫染色×400).

c:上皮間リンパ球浸潤はCD20免疫染色陰性(CD20免疫染色×400).

退院後に降圧薬を再開したが,下痢の再燃はなく経過している.

Ⅲ 考  察

MCは内視鏡所見は正常あるいはほぼ正常で,血便を伴わない慢性水様性下痢を主症状とする炎症性腸疾患と定義され 1,MCは病理組織学的所見の相違からCCとLCに分類される.CBの肥厚が10μm以上認めるものをCC,上皮間リンパ球の増加を認める(上皮細胞100個あたり20個以上)ものをLCと診断する 2.欧米の報告では慢性水様性下痢患者の10~20%がMCと言われており 3,MCの2/3は緩徐な発症の下痢であるが,1/3は本症例のように急性発症の下痢をきたすとされている 1.MCの43%で下痢は6カ月持続したとされる 1が,本例は急性発症で,原因不明の下痢で内視鏡上微細な変化にとどまることなどから,MCを鑑別に挙げ,発症から3週間と比較的早期にLCと診断し得た.年間発生率はCCは4.9/10万人,LCは5.0/10万人 1,高齢の女性に発症しやすく,平均発症年齢はCC 64.9歳,LC 62.2歳 4,男女比はCC 1:7,LC 1:2 5と報告されている.本邦でも内視鏡所見を伴うCCの報告は増加しているが,LCの報告は依然少ない 6),7

MCの原因は未だ不明であり,多因子的と考えられ,自己免疫性疾患,腸管感染症,胆汁代謝異常,薬剤,喫煙などが指摘されている 8),9.LC 199例の報告では約40%に甲状腺疾患,セリアック病,糖尿病などの自己免疫性疾患や炎症性疾患が関連していたと述べられている 10.また,12%で潰瘍性大腸炎,クローン病,セリアック病,CCなどの腸疾患の家族歴を有していた.MCにおいて薬剤性で関連が高いものは,アカルボース,アスピリン,NSAIDs,PPI,チクロピジン,エンタカポン,セルトラリンなどが挙げられている 9.LCとしても約10~20%にPPIやNSAIDs,セルトラリン,カルバマゼピンなどの薬剤の関連が示唆されている 10)~12.本邦においては,CCでは欧米より薬剤性が多く,58%でランソプラゾール,36%でNSAIDsの内服歴が報告されている一方,LCの成因は明らかになっていない 6.本例はLCに関連性が高い原因薬剤の内服はなく,入院前に10年以上前からテルミサルタン,アテノロールの内服歴はあったが,退院後に再開しても下痢の再燃はなかったことより,薬剤の関連は低いと考えられた.また,自己免疫性疾患の併存や,腸疾患の家族歴はなく,リスク因子の一つである喫煙の関与が唯一示唆された.

これまでMCは内視鏡所見が正常であることが特徴とされてきたが,近年では非特異的な内視鏡所見の報告が増加している.欧米の報告ではMCの38.8%で線状潰瘍,偽膜,不規則な血管,粘膜裂創,紅斑,浮腫,粘膜の結節性変化などの非特異的な所見が見られたとされる 1.さらにLCにおいて,紅斑,浮腫,毛細血管増生などの非特異的な所見が30~50%で見られたと報告している 10),13.本邦では内視鏡所見を伴うCCの報告が増加し,内視鏡所見を有するCCは79.5%にも上るが 14,LCの報告はほとんどない.慢性下痢患者82名に大腸内視鏡下ランダム生検を施行した本邦の報告では,明らかな炎症所見がない場合でも大腸の各部位からランダム生検を行うことにより,18%でCC,11%でLCと診断している.いずれの症例も内視鏡所見で明らかなびらんや潰瘍を呈した例はなく,微細な変化にとどまっており,血管透見不良・粘膜肥厚はCCの80%,LCの88.9%,毛細血管増生はCCの60%,LCの33.3%,粘膜易出血性はCCの6.7%,LCの44.4%に認められたと報告している 15.本例においてもびらんや発赤,潰瘍などの明らかな炎症所見はなく,S状結腸~直腸にかけて血管透見の低下と,ひび割れ様の粘膜の微細な所見を認めたのみであった.生検の病理組織所見では内視鏡で粘膜変化が見られたS状結腸,直腸のみならず,大腸の全部位において上皮間リンパ球の増加が確認されたことより,内視鏡所見に異常がなくても各部位から生検を行うことが診断に有用であると考えられた.

MCの鑑別診断としては,大腸内視鏡所見が正常で水様性下痢をきたし得る,セリアック病,感染性腸炎(クリプトスポリジウム),小腸細菌異常増殖,ジアルジア症,胆汁吸収不良,胆囊摘出後の胆汁酸暴露,神経内分泌腫瘍,下剤乱用,小腸クローン病,炭水化物吸収不良障害,過敏性腸症候群などが挙げられる 16.確定診断には大腸内視鏡検査による組織生検が必要である.CCにおけるCBは直腸からの生検では73%が正常と判断され評価が不十分となるため 17,欧米のガイドラインでは右側,左側結腸から生検を施行することが推奨されている 1.LCの診断根拠となる上皮間リンパ球の評価は,HE染色だけでは不確かな例や境界症例においてはCD3免疫染色の併用が有用である 1.本例においても,CD3およびCD20免疫染色を追加することで,上皮間リンパ球の増加が明瞭となりLCの確定診断に至ることができた.臨床医がまず本疾患を疑い,そして病理医と臨床情報を共有することが,診断を導く上で重要であると考える.

欧米のMCのガイドラインでは,禁煙やPPI,NSAIDsなどの薬剤の中止を行い,寛解導入,維持療法にはブデゾニドを用いるのが標準治療である.ブデゾニドが使用できない場合や効果がない場合はロペラミドやコレスチミド,アザチオプリン,アダリムマブやインフリキシマブ,ベドリズマブといった生物学的製剤,外科的治療が選択肢とされている 1.一方,本邦では薬剤関連性のMCが多く,また欧米で推奨されている各種薬剤に対し保険適用がないため,まず被疑薬を中止し,改善がない場合には止痢剤,コレスチミドやメサラジンを使用する.さらに効果が不十分の時にはステロイドを服用する場合が多いが,ステロイドは長期服用による副作用の問題が懸念される 18.MCにおいて14%で胆汁吸収障害を合併するとされ,コレスチミドの有効性が報告されている 1.本例では,胆汁性下痢をきたし得る胆囊摘出術や小腸,大腸の手術歴はなかったが,コレスチミドの投与により便性状の改善だけでなく栄養状態も回復を示したことから,コレスチミドが本疾患に有効であったと判断した.しかし,本例はコレスチミドを投与開始から5カ月後に中止した後も下痢の再燃が見られなかったことから,自然軽快した可能性も否定はできなかった.MCの一部症例では重症例や難治例もあるため,今後は本邦においても欧米の様にMCに対する具体的な治療ストラテジーが確立されることが期待される.

Ⅳ 結  語

今回,われわれは微細な内視鏡所見を伴い,病理組織学的に診断し得たLCを経験した.薬剤に関連した内視鏡所見を伴うCCは広く認知されてきているが,内視鏡所見が正常から軽微な変化にとどまるMCは過敏性腸症候群として診療されている可能性がある.原因不明の慢性下痢においては,LCを含めたMCを鑑別に入れ,微細な内視鏡の異常所見でもとらえ,正常粘膜も含めて積極的に生検を施行し,病理医と連携して診断にあたることが重要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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