2024 Volume 66 Issue 9 Pages 1663-1671
Gastric adenocarcinoma and proximal polyposis of the stomach(GAPPS)は胃底腺ポリポーシスを背景として胃癌を発症する遺伝性疾患であり,APC遺伝子のpromotor 1B領域の病的バリアントが報告されている.一方,報告数は未だ絶対的少数のいわゆる希少疾患であるため認知度は低く,その自然史や長期予後を含めた詳細な検討も十分ではない.こうした現状を踏まえ本稿ではGAPPSの疾患概念と疫学,特に内視鏡画像所見及び病理組織学的特徴を中心に解説し,さらには日常診療における現状と今後の課題についても言及する.
Gastric adenocarcinoma and proximal polyposis of the stomach (GAPPS) is a genetic disease that causes gastric cancer due to fundic gland polyposis. Pathogenic variants in promoter 1B of the APC gene have been reported. However, since GAPPS is a rare disease, the number of reports remains very small, recognition is poor, and insufficient studies detail its natural history and long-term prognosis. This article explains the disease concept and epidemiology of GAPPS, focuses on its endoscopic imaging findings and histopathological characteristics, and discusses the current status and future challenges in daily clinical practice.
消化管ポリポーシスとは消化管にポリープが多数(一般的には100個以上)みられる場合を指し,疾患は多岐にわたる.このうち原因遺伝子が同定され,遺伝形式も明らかなものとして家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis:FAP),MUTYH関連大腸腺腫症,Peutz-Jehgers症候群,若年性ポリポーシス,Cowden病などが知られている.GAPPSは
① 胃体部に100個以上の胃底腺ポリポーシスを認める.
② 十二指腸,大腸に病変を認めない.
③ 胃底腺ポリープの中に腫瘍性病変(腺腫や腺癌)が認められる.
④ 常染色体優性遺伝を有する.
以上を特徴とした疾患概念としてWorthleyら 1)によって2012年に初めて提唱された.またGAPPSの診断においては前述した遺伝性ポリポーシス症候群やProton pump inhibitor使用による影響を否定する必要性も記載されている.TacheciらはGAPPSを含む胃底腺ポリポーシスを認める症例における内視鏡的鑑別診断と診療アルゴリズムを示している(Figure 1) 2).

胃底腺ポリープ(ポリポーシス)症例における診断アルゴリズム.
さらに2016年にLiら 3)によって本疾患の原因がAPC遺伝子のpromotor 1B領域の点変異であることが示され,以後本疾患を診断するうえではこの遺伝子診断が必須項目となりつつある.本邦報告例で遺伝子検索が行われ,その解析が報告されている家系においてはc.191T>C,c.224T>Cのpoint mutationが認められている 4)~9).
本邦においては本疾患を「胃腺癌及び近位胃ポリポーシス」と呼ぶ場合もあるが未だ一般化しているとはいえず,本稿ではGAPPSとして記載する.
GAPPSは数ある希少疾患の中でも概念が初めて提唱されてからおよそ10年という新しい疾患であることもあり,これまでのところ症例報告やCase studyとしての小数例の報告のみであり,大規模なコホート研究はされていないため疫学的な詳細は不明である.初めて報告されたWorthleyらの報告が症例数は最も多く,オーストラリア,アメリカ,カナダの白人3家系合計54例のうち37名(69%)がGAPPSと診断あるいはその疑いがあると診断され,さらにその中の33~75歳(平均48.4歳)7例(13%)に胃癌を認めたと報告している.その後現在まで詳細が報告されている30家系のうち癌を発症した症例総数は25家系53人で,現病死は19例の報告がある 1)~15).本邦初の報告例である49歳女性は初回診断時にすでに進行胃癌肝転移腹膜播種の状態であり,その後化学療法が施行されるも入院後223日で死亡している.岡本らのレビューによると発癌から死亡までの記載がある報告例12例において,死亡までの中央値は約7カ月であり,GAPPS症例において胃癌を発症した場合,その後急速に全身転移をきたし,さらに化学療法抵抗性のため極めて予後不良の可能性が示唆されている 16).
GAPPSの背景胃粘膜は胃底部から体中部にかけての胃底腺領域全体に数mm大の胃底腺ポリープが密集するポリポーシスの所見を呈する一方で,前庭部の幽門腺領域にはポリープは全く認めず,正常粘膜であるのが最大の特徴である(Figure 2-a,b).またこうした典型的な背景胃粘膜を呈する症例においては原則Helicobacter pylori(HP)陰性であることが知られており,HP陽性者ではポリポーシスの数が少ない症例や認めない症例の報告もあること 16),さらにはHP陽性症例における胃癌発症例の報告を認めないことからHP感染がGAPPS関連胃癌の発症に抑制的に働くとの見解もある.またGAPPS同様にAPC遺伝子異常を認めるFAPにおける胃癌発症の報告はおよそ0.6~3%程度とされているため 17)~19),小数例の検討ではあるがGAPPSにおいては胃癌発症の頻度がFAPよりも高い可能性も示唆される一方で,Mankaneyら 19)の報告では胃癌を発症したFAP 10例全例に胃底腺ポリポーシスを認めたとされており,こうした症例においてはGAPPSと類似した機序による発癌の可能性も指摘されている.

a:胃底部から体中部にかけて数mm大の胃底腺ポリープが密集し,ポリポーシスの所見を呈している.
b:前庭部にはポリープは認めない.
c:急峻な立ち上がりを持ち,表面が絨毛状を呈する亜有茎性の0-Ⅰ型病変.
d:褪色調で時に一部に発赤を伴う表面隆起性病変(0-Ⅱa型).
e:亜有茎性の0-Ⅰ型病変と表面隆起性病変(0-Ⅱa型)の混在症例.
GAPPSの腫瘍性病変は,比較的急峻な立ち上がりを有する亜有茎性の0-Ⅰ型病変を呈するもの(Figure 2-c)と,白色調で時に一部に発赤を伴う表面隆起性病変(0-Ⅱa型)を呈する場合(Figure 2-d)の2つの特徴を有することが知られており,一方のみ認める症例もあれば両者の混在する症例もある(Figure 2-e).病変のサイズは10 mm程度のものから50mmを超えるものまで様々であり,われわれは約70mm大の0-Ⅰ型病変が十二指腸に嵌頓し,Ball valve症候群をきたしたため内視鏡的切除を施行した症例を経験している(Figure 3-a~d) 8).

a,b:0-Ⅰ型病変が十二指腸に嵌頓し,Ball valve症候群をきたしていた.
c:病変を胃内に戻すと胃体部に約70mmの巨大な0-Ⅰ型病変を認めた.
d:内視鏡切除を施行した.
0-Ⅰ型病変は比較的表面平滑でくびれを持つ隆起を呈する場合や,丈の高い絨毛状隆起を呈する場合があり,これらの特徴は九嶋らの提唱する幽門腺腺腫の内視鏡的肉眼分類にも記載されている 20).Blue Laser imaging(BLI)併用拡大観察では,表面微細構造が乳頭状,絨毛状所見が観察され,窩間部は非腫瘍部と比して開大傾向となる 21)一方で,腺窩辺縁上皮は比較的均一で整な構造をとることから内視鏡的には良性腺腫と判断される(Figure 4-a,b).組織学的には円形核と好酸性の胞体を有する細胞増殖を呈する小型で密な腺管構造が主体に認められ,明らかな悪性所見は認めず腺腫と診断された.また免疫染色ではMUC2陰性,MUC5AC陽性を呈する.さらにMUC6陽性が腫瘍全体に陽性であり,粘液形質を呈する幽門腺腺腫(pyloric gland adenoma:PGA)と診断され(Figure 4-c~e),このMUC6陽性細胞のびまん性増殖が丈の高い隆起成分を作る要因と考えられる.

a,b:0-Ⅰ型病変のBLI拡大画像.表面微細構造は乳頭状,絨毛状,窩間部は開大傾向も比較的均一である.
c:HE染色.円形核と好酸性の胞体を有する細胞増殖を呈する小型で密な腺管構造を認める.
d:MUC5AC染色.表面を中心に一部陽性.
e:MUC6染色.びまん性に陽性.
一方で0-Ⅱa型病変は通常観察では一部に発赤調を呈することもあるが,褪色調から同色調の扁平かつ均一な隆起性病変として観察され,厚い腺窩上皮を反映しているためとされている 22).BLI拡大観察では非腫瘍周囲粘膜と比べて腺窩上皮の幅が広く,irregular microvascular pattern(IMVP)に加え,vessels within epithelial circle pattern(VEC pattern)を認めることから腺腫と癌の鑑別に苦慮する場合が存在するため,より入念な観察が必要である(Figure 5-a,b).組織学的には粘膜表層から中層にかけて形状不整,大小不同を示す管状,乳頭状腫瘍を密に認める一方で,深層においては胃底ポリープ様の非腫瘍腺管を認める.免疫染色では表層でMUC5AC陽性が,深層ではMUC6が陽性であり(Figure 5-c~e),胃型の粘液形質を呈する腺窩上皮型腫瘍(foveolar type adenoma:FA)と診断された.

a,b:0-Ⅱa型病変のBLI拡大画像.腺窩上皮の幅が広く,IMVP(irregular microvascular pattern),VEC(vessels within epithelial circle)patternを認める.
c:HE染色.粘膜表層から中層にかけて形状不整,大小不同を示す管状,乳頭状腫瘍を,深層においてはFGP様の非腫瘍腺管を認める.
d:表層を中心に陽性.
e:深層を中心に陽性.
岡本らは自験例12例のうちFAを9例,PGAを3例に認め 16),FAはKi-67 Labeling index上昇が顕著であり,強い増殖能を呈することを報告しており,また矢野ら 5)は褪色調の表面隆起性病変内に一部発赤を伴う部位をNarrow Band Imaging(NBI)拡大したところ上皮下微細血管に異常増生を認め,さらに同部位で病変に厚みを認めることから粘膜下層深部浸潤癌を疑い胃全摘術を施行したところFAを背景に発赤部位に一致して粘膜下層の線維性増生を伴う低分化型腺癌を認め,一部で筋層までの浸潤(T2相当)を認めたことからFA病変において腫瘍部の拡大観察を含めた詳細な内視鏡検査の重要性を述べている.さらにMitsuiら 4)は表面隆起性病変の多発する体部に潰瘍形成を伴う3型腫瘍の形態を呈することを報告している.以上よりFAはGAPPS関連胃癌の前癌状態で,浸潤癌へと進展し予後に直接影響を及ぼす可能性が示唆される.
診断確定時に胃癌を発症している場合には原則胃全摘術を行い概ね良好な予後が報告されているが,すでに発見時に遠隔転移をきたしている場合には化学療法の奏効例の報告は未だなく,現時点では極めて予後は不良であるといわざるを得ない.また注目すべきはRepakらの報告 10)で,初診時に胃癌を認めずその後定期的な内視鏡検査によるサーベイランスを行ったところ,発端者が19カ月後に胃癌と肝転移を同時に発症,さらにその娘一名が5年後に胃腫瘍増大のため内視鏡切除を予定していたところ肝転移及び腹膜播種を認めたとしており,胃癌の有無によらず積極的な予防的胃切除を施行することを提案している.一方で予防的切除は原則胃全摘術とならざるを得ないため,発癌が明らかでない時点で施行するには過大侵襲であるとの意見もある 16).
われわれは同一家系4症例において将来の発癌の可能性を考慮し予防的胃切除を原則勧めるも拒否されたため,内視鏡的に半年~1年毎の長期サーベイランスを行い,約6年の長期経過を観察し得た例を報告している 23).4例全例において初診時に腫瘍性病変を認める一方,病理組織学的には腺腫の診断であり,胃癌の診断には至らず本原稿執筆時点で初回診断から約7年が経過しているが,胃癌は発症していない.一方で3例において0-Ⅰ型のPGA病変が経時的に腫瘍量の増大を認めており,患者本人の強い希望にて姑息的に内視鏡治療を施行し,経過観察中である.内視鏡治療を施行した病変のうち最も大きくBall-valveをきたした症例においても局所再発は認めておらず 9),こうした病変における局所制御目的の内視鏡的切除は一定の効果を認める可能性が示唆される.一方でFAと診断される0-Ⅱa部分は概ね肉眼的変化は認めておらず,生検でも腺腫の診断のままであるため,引き続き経過観察の方針としているが,前述のとおりFAから浸潤癌へと進展し,予後に直接影響を及ぼす可能性があり,厳重な経過観察が必要と考えられる.さらにPGA病変が増大することで特に体部大彎のFA部分の詳細な観察がしづらくなることがあるため,適宜増大病変は内視鏡切除を併用しながらの慎重な経過観察が必要と考えられる(Figure 6-a~c).

a:体部大彎にPGA病変を多数認める.
b:3年後.腫瘍は全体に増大し,体部の襞の観察が困難になっている.
c:粗大病変を内視鏡切除後半年.大彎の観察が容易になり,FA病変が観察されるようになった.
GAPPS診療における問題点は,治療方針がその希少さからして十分なエビデンスは得られていないのが現状である.特に胃切除を行っていない症例のサーベイランス方法や長期予後については個々の症例に応じた柔軟な対応をせざるを得ないことである.比較的長期に経過観察し得た自験例4例において,母親を除く3名は全員30代の若年女性であり,さらに2名はGAPPSと診断後に出産を経験している.胃全摘術後の妊娠においては微量元素の低下などより厳重なケアが必要との報告もあり 24),予防的切除を躊躇する懸念材料となっており,引き続き注意深く経過観察をしていく予定である.
本疾患は遺伝性疾患であるため遺伝カウンセリングの介入も必要不可欠である.本疾患が疑われる場合,遺伝子検査は受けるべきか否かに始まりその検査方法や目的,性能(発見率・正確さ)を患者に話す必要がある.そのうえで検査結果の解釈,子どもや家族の検査はどうするべきかなど多くの医学的な問題が山積する.特に本疾患は初めて提唱されてからの日が浅く,本邦はもとより世界的にも報告が非常に少ない疾患群のため長期予後についてのエビデンスが極めて乏しい.今後本疾患に対する認知度が高まることでより多くの症例を集積した報告,さらには長期治療成績の報告が待たれるところである.
新たな遺伝性消化管ポリポーシスであるGAPPSについて内視鏡画像所見及び溶離組織学所見を中心に概略,臨床的特徴や問題点について概説した.本疾患は現時点では希少疾患であるが,その概念についての知識があれば診断にはそれほど苦慮しないと思われるため,今後国内外において報告は増加すると思われる.このため消化器内視鏡診療に関わる医師にはぜひ本疾患の現状について認識していただき,それらを大規模的に集計することで治療方針や予後についてのエビデンスの構築が期待される.
謝 辞
本稿を執筆するにあたり,遺伝子解析を頂いた徳島大学大学院 消化器内科学分野 岡本耕一先生,高山哲治先生に御礼申し上げます.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし