2025 年 67 巻 4 号 p. 300-304
症例は76歳男性,吐血を主訴に受診した.緊急上部消化管内視鏡検査で十二指腸球部前壁に頂部から出血するなだらかな粘膜下隆起を認め,内視鏡的止血術(エピネフリン局注)を施行した.その後胆道出血を契機として胆囊動脈の仮性動脈瘤破裂を診断し,血管塞栓術で止血した.十二指腸への塞栓物質の露出や十二指腸浸潤部からの生検で胆囊癌を認めたことから,消化管出血は胆囊癌に合併した胆囊動脈仮性瘤および十二指腸への穿破であったと考えられた.胆囊癌によって形成された胆囊動脈仮性瘤の十二指腸穿破はきわめてまれであるが,球部における出血性十二指腸潰瘍の原因として本病態も鑑別診断として念頭におく必要性が示唆された.
A 76-year-old man presented with hematemesis. Emergency endoscopy revealed a gently sloping submucosal bump on the anterior wall of the duodenal bulb with active bleeding from the apex, which was managed with local injection of epinephrine for hemostasis. Further investigation identified a pseudoaneurysm of the gallbladder artery as the source of biliary hemorrhage, which was successfully treated with vascular embolization. The duodenal hemorrhage was attributed to a perforation caused by the pseudoaneurysm. A biopsy of the duodenal lesion revealed gallbladder cancer, and the pseudoaneurysm was deemed a complication of the cancer. Although duodenal perforation from a pseudoaneurysm of the gallbladder artery due to gallbladder cancer is extremely rare, this condition should be considered in the differential diagnosis of bleeding duodenal ulcers in the duodenal bulb.
十二指腸は出血性消化性潰瘍の好発部位であるが,医原性や膵炎など種々の原因を背景とした仮性動脈瘤の穿破による出血を来すこともある.今回,胆囊癌に合併した胆囊動脈の仮性動脈瘤が十二指腸に穿破し,吐血で発症した1例を経験したため報告する.
患者:76歳.男性.
主訴:心窩部痛,嘔気,吐血.
既往歴:49歳時に脳梗塞,69歳時にパーキンソン病.70歳時に前立腺癌.
手術歴:74歳時に左腎癌手術.
内服歴:オメプラゾール10mg/日,シロスタゾール100mg/日,レボドパ・カルビドパ水和物配合錠(100mg/10.8mg)/日.
生活歴:喫煙なし,飲酒なし.
現病歴:夕食後に心窩部痛,嘔気があり,嘔吐したところ吐物に血液が混じっていた.一晩様子を見たが朝まで嘔気が持続し近医受診した.近医受診時にも凝血塊を混じた鮮血を吐血し,上部消化管出血の診断で当院へ救急搬送された.
入院時現症:JCS 0,血圧 171/82mmHg,心拍数 90/分,体温 37.1℃,SpO2 96%,眼瞼結膜貧血なし,心窩部に圧痛あり.
臨床検査成績:WBC 11,900/μL,Hb 9.0g/dL,Plt 27.5×104/μL,TB 2.1mg/dL,AST 811U/L,ALT 526U/L,LDH 1,008U/L,ALP 904U/L,CRP 10.4mg/dLと貧血,肝胆道系酵素および炎症反応高値を認めた.
入院後経過:入院時単純CTでは,胆囊に連続して内部に石灰化結石を容れる不整形の壁肥厚を認め,さらに総胆管結石を認めた.入院当日に緊急上部消化管内視鏡検査を施行し,十二指腸球部前壁に頂部から湧出性の活動性出血を伴うなだらかな粘膜下隆起を認めた(Figure 1).出血性十二指腸潰瘍と診断し,出血部周囲に0.01%エピネフリン2ml局注のうえ,出血部に対し焼灼鉗子を用いて高周波凝固止血を行った.肝機能障害は総胆管結石によるものと考え,抗菌薬(Cefmetazole)にて治療を開始し,待機的に内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を予定した.第2病日にセカンドルック内視鏡検査を施行し,止血を確認した.第4病日にERCPを施行した際,胆管造影にて総胆管内に充満する陰影欠損を認めた.内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)(中切開)を施行し,バルーンカテーテルで結石を排石したが,同時に多量の凝血塊も排出されたため,胆道出血と診断した(Figure 2).第2病日に施行した造影CTでは当初仮性動脈瘤は指摘されていなかったが,ERCP所見をふまえて再検討し,不整な胆囊壁肥厚の内部で結石と近接した部位に仮性動脈瘤を認めた(Figure 3).そのため第4病日に緊急血管造影検査を施行し,固有肝動脈分枝の胆囊動脈と考える部位に13mm大の仮性動脈瘤を同定し,コイルおよびn-ブチル-2-シアノアクリレートを用いて塞栓止血した(Figure 4).第10病日に超音波内視鏡検査(EUS)を施行し,胆囊に層構造の消失した低エコー腫瘤を認め,CTで指摘されていた不整な壁肥厚は胆囊癌に矛盾しない所見と考えた(Figure 5).さらにその際,十二指腸球部に血管塞栓治療時に使用した塞栓物質が露出した所見を認め,第16病日に施行したCTでも十二指腸に塞栓物質がはみ出している所見を認めた(Figure 6).そのため入院時の上部消化管出血は胆囊癌に合併した仮性動脈瘤が十二指腸に穿破した病態であったと考えた.第18病日に上部消化管内視鏡検査を再検し,十二指腸球部に境界明瞭で発赤調の不整な組織の露出を認めたため腫瘍浸潤が疑われた(Figure 7).同部の生検で扁平上皮癌を認め(Figure 8),胆囊癌・十二指腸浸潤(cStageⅢA)と診断した.脳梗塞後遺症やパーキンソン病のためパフォーマンスステータス3程度であり,手術治療を希望しなかったため,緩和治療の方針となった.第41病日に療養型病院へ転院となった.

緊急上部消化管内視鏡像.十二指腸球部前壁に頂部から湧出性の活動性出血を伴うなだらかな粘膜下隆起を認めた.

ERCP像(第4病日).総胆管内に充満する陰影欠損を認め(左図矢印),総胆管内から多量の凝血塊が排出された(右図).

造影CT画像(第2病日).胆囊壁は不整に肥厚しており,肝との境界は不明瞭化していた.肝内胆管の拡張は認めなかった.胆囊内に胆囊結石(矢頭)を認め,近接した尾側に仮性動脈瘤を認めた(矢印).仮性動脈瘤は十二指腸に隣接しており,十二指腸壁と胆囊の境界は不明瞭化していた.肝内胆管の拡張は認めなかった.

緊急血管造影像(第4病日).固有肝動脈の分枝で胆囊動脈と考えられる部位に13mm大の造影剤プーリングを認め,仮性動脈瘤が描出された(矢印).検査中に仮性動脈瘤からの血管外漏出像は認めなかった.

EUS像(第10病日).胆囊に48×29mm大の低エコー腫瘤を認め,内部に結石を認めた(矢印).層構造は消失しており,肝との境界は不明瞭であった.

造影CT画像(第16病日).胆囊結石の尾側に血管塞栓治療時の塞栓物質と思われる高吸収物質を認め,十二指腸内腔にはみ出していた.

上部消化管内視鏡像(第18病日).十二指腸球部前壁の塞栓物質と思われる突出物は脱落しており,同部に境界明瞭で発赤調の不整な組織の露出を認めた.

十二指腸生検所見.扁平上皮癌を認めた.
胆囊癌に合併した胆囊動脈の仮性動脈瘤が十二指腸に穿破し,消化管出血にて発症した1例を経験した.本症例は吐血が主訴であったため緊急上部消化管内視鏡検査を施行し,当初は出血性十二指腸潰瘍と診断した.しかし胆道出血の併発を契機として仮性動脈瘤を診断し,血管塞栓治療を追加して止血することができた.
本症例の仮性動脈瘤は血管造影所見から胆囊動脈に生じたものと考えられた.仮性動脈瘤は肥厚した胆囊壁の内部に描出されており,この時点ですでに本来胆囊壁外に存在する胆囊動脈が胆囊癌により障害され,破綻していたものと思われた.初回内視鏡検査時には,十二指腸出血部位の周辺に発赤や粘膜不整像といった腫瘍浸潤を示唆する所見を認めなかったことから,出血の原因は腫瘍浸潤よりも仮性動脈瘤穿破によるものであったと推測された.しかし2週間後には十二指腸に明らかな腫瘍浸潤像を呈しており,焼灼止血による修飾も加わっていると思われるが,胆囊癌の急速な増大が示唆された.また,ERCP時に認められた胆道出血は,胆囊癌そのものからの出血と仮性動脈瘤からの出血の両者が考えられたが,その鑑別は困難であった.
医学中央雑誌で「胆囊癌」「仮性動脈瘤」をキーワードに検索したところ,1996年から2023年8月までで会議録および医原性を除くと,自験例を除き既報は鈴木らの1症例のみであった 1).既報では,胆囊癌の肝直接浸潤により右肝動脈に仮性動脈瘤を生じており,それが胆囊内に穿破して胆道出血を来していた 1).本症例と同様に消化管出血を呈していたが,血管塞栓により止血が得られていた.本症例は胆囊癌により胆囊動脈に動脈瘤が形成され,それが十二指腸に穿破・消化管出血をした初めての症例である.本症例でこのような進行を来した要因として,胆囊癌の組織型が扁平上皮癌であったことが推察される.胆囊癌における扁平上皮癌の発生頻度は0.5-2.4%とまれであり 2),3),腺癌と比べて予後不良で,隣接臓器に直接浸潤することが多いとされている 4).本症例では,十二指腸浸潤部からの生検組織での診断であり腫瘍全体が検討できていないため,腺扁平上皮癌である可能性は否定できない.しかし少なくとも生検部分には扁平上皮癌の成分のみが認められており,浸潤傾向が強かったことが本症例における胆囊動脈の仮性動脈瘤や十二指腸浸潤に関与していたと考えられた.
十二指腸は解剖学的な理由により,様々な動脈にできた動脈瘤破裂の穿破先となりうる.医学中央雑誌で「十二指腸」「仮性動脈瘤」をキーワードに検索し,1996年から2023年8月までで会議録および医原性を除き,十二指腸に動脈瘤穿破した症例は21例認められた.十二指腸への穿孔部位は,部位の記載がある14例のうち,球部5例,下行部6例,水平部以深3例であった.球部では胆囊炎や膵炎,膵頭部癌が原因疾患となり,胆囊動脈および胃十二指腸動脈に仮性動脈瘤を認めていた.下行部では,下部胆管癌の浸潤や慢性膵炎が原因となり,胃十二指腸動脈や膵十二指腸動脈に仮性動脈瘤を認めていた.水平部以深では,腹部大動脈瘤からの穿破の症例もあり予後が不良であった.
本症例における後方視的な内視鏡像の検討では,初回内視鏡検査時に活動性出血のため潰瘍部分が十分に観察できておらず,出血性十二指腸潰瘍と診断してしまったことが反省される.既報において仮性動脈瘤の消化管穿破では出血点の周囲になだらかな隆起が観察されており 5),6),本症例でも同様の所見を認めたため,通常の消化性潰瘍とは異なる印象を持ち得たと考えられた.仮性動脈瘤破裂では血管径が太いため内視鏡的止血術が困難であることが多く 7),内視鏡的止血術で一時止血が得られたとしても再出血リスクが高いため追加処置を行う必要がある.また,内視鏡的止血処置は出血を増悪させる可能性があることから,内視鏡所見で仮性動脈瘤が疑われるときは安易に内視鏡的止血処置を行わずに造影CTによる評価を十分に行ったうえで止血方法を検討することが望ましい.
胆囊癌によって非医原性に形成される胆囊動脈仮性瘤やその十二指腸穿破はきわめてまれであるが,球部における出血性十二指腸潰瘍の原因となりうる.
内視鏡検査が診断契機となる可能性があるため,内視鏡観察時に消化性潰瘍と異なる粘膜下隆起を伴う出血を認めたときは,頻度は低くとも本病態の可能性も念頭におくべきであると考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし