抄録
1. 前報 (森•柳島, 1957) で, コージ培地で飼いつづけてきたショウジョウバエをパール培地に移すと, 産卵数が多くなり, 発育速度が促進され, 産卵培地としてパール餌料を好む程度が強くなることをのべた.
2. この変化が環境の変化と有機的定方向的にむすびついたものであるかどうかを確かめるために, 新たにコージ培地飼育のものを2群にわけ, それぞれからパール培地飼育系統を分離し, その変化を比較研究した.
3. その結果はつぎのとおりである.パール培地飼育系統のものはコージ培地飼育系統のものに比べて,
イ) 産卵数が多い (約2.5倍) (これは前の結果と似ている). 両系統を交配すると F1 は母系の性質を強くあらわす傾向がある (前のばあいには著しい heterosis がみられた).
ロ) 幼虫の発育速度が速い (3~21時間速い) (これは前報と似る). ただし蛹の発育速度は変らない (前のばあいには蛹の発育速度も速くなつた). 両系統を交配すると F1 は大体両親の中間の性質を示し, かつ母系の影響がわずかに認められる (前のばあいにはパール系統に近い性質を示した).
ハ) 産卵培地の好みには変化がない (前にはパール培地系統のものはパール餌料を好む程度が高かつた).
4. 以上のように, 主要な性質の変化-産卵数の変化と幼虫発育速度の変化-において, 前報の実験を裏がきする結果が得られた. これらの変化は, 飼育培地の変化と有機的定方向的にむすびついて (機械的淘汰によつて基本的な制御をうけるのではなく) おこされた, 遺伝的変異であると考えている.
5. この変異のおこる過程においては, まず細胞質が影響をうけ, ついでしだいに核の変化をおこす, という推測も成立ちうることを, 交配の結果から想像した.