抄録
黒縞黄血蠶の雄蛾にX線を放射し, 黒縞因子を最劣性の姫蠶因子に變ずることが出來た。この姫蠶因子は恐らく黒縞因子の變化といふよりも寧ろその脱落に依て生じたものらしく, 即ち染色體の小部分缺失である。この新生姫蠶因子は黄血因子と完全聯關するので, 之を表すにpYの記號を以てする。pYが雌雄の兩方に於て完全聯關するのは多分染色體の逆位に因るのであらう。
逆位に關しホモの個體即ちpYpYでは, 交叉が起る筈であるが, それが上蔟期迄若干生殘つても, 發蛾迄には殆ど全部死滅するばかりでなく, たとひ僅少の蛾が繁殖力を有し交叉が起つたとしても, 之を表面的に知る方法がない。またPypYでは勿論逆位即pYに關しホモになる筈がない。
pYはまた蠶の幼蟲期に於ける部分致死因子として作用する。その致死作用はホモのときに最強いのは勿論であるが, ヘテロの状態に於てもなほ相當の作用を保つ, 即ち不完全優性として作用するものと謂はねばならぬ。