日本護謨協會誌
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天然ゴム及び合成ゴムの基礎的研究 (其3)
神原 周
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1942 年 15 巻 10 号 p. 743-753

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抄録
前章に於て生ゴムの双極子能率を測定、算出し、夫が精製、紫外線照射、抽出等に依て如何に變化するかを實驗し、其の結果から生ゴムの分子構造に關し結論を下した。本章に於ては其の生ゴムを加硫する時其の双極子能率、重合度、分子構造等が如何に變化するかに就て實驗、觀察せる結果を記述した。先づ恒に一定せるゴムと硫黄との結合状態を與へる如き加硫ゴム標準試料の作製法に就て考究し、所期の試料を得られるに至つた作製法を記し、次に夫を溶解する適當な溶媒を探求した結果、ヂベンヂルエーテル•四鹽化炭素混合溶液が適當せる事を見出し、此の混合溶媒に對する加硫ゴムの溶解度、溶解状態に就て實驗せる結果を記載した。粘度測定、溶解再沈澱前後に於ける結合硫黄量の變化等を實驗せる結果此の溶媒に依り加硫ゴムが略々滿足す可き複作性を以て溶解して居る事を確め得た。
依て次に各種の條件て加硫せる加硫ゴム標準試料を上記混合溶媒に溶解し、其の溶液に就て透電的研究を行ひ基本双極子能率を算出した。
其の結果ゴムの加硫に關與せる硫黄は明かにゴム分子と化學的結合をなし、ゴム分子の自由囘轉性を制限する。從つて結合硫黄量が増し、自由囘轉性が制限される事が多いもの程極性は増大する。加硫時間の延長は斯る硫黄とゴム分子との結合を増して行くが一方此の自由囘轉性を制限された結合部に連接するゴム炭化水素分子の解重合を起し、極性末端其の分離を生じ、極性を低下する。此の極性増大の傾向と、極性低下の傾向とが重り合ひ結果として或る加硫時間に於て極性が最大となる點を生ずる事を實驗的に確めた。此の事實はゴムの最適加硫と密接な關係があると考へられるが、夫に就て後に記述する加硫ゴムの粘度的研究の結果と併せて考察を行ふ事とする。
本研究に用ひた加硫ゴム標準試料が單なるゴムと硫黄のみを原料とする特殊の場合であり、促進劑其他を含む實用的な配合の場合とは縁が遠く實際的な價値に乏しいと云ふ非難は一應は甘受しなければならないが、從來主として實際的な機械的性質のみを對照として行はれて來た加硫ゴムに關する研究を、一歩其の内部に迄押し進めた基礎的研究は其例極めて少く、斯る方向の研究の將來の進展への基礎としても多少は寄與する所あらうと信ずるものである。
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© 一般社団法人 日本ゴム協会
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