地理学評論
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房州濱波太の鰍建網漁業
尾崎 乕四郎
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1935 年 11 巻 7 号 p. 583-599

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抄録

以上の記述に依り本地域の漁業地理部門一部の取扱を終るのであるが,此特殊漁網を通して濱波太の地域性をあらはすと言ふ地誌學的の目的を充分果し得なかつたことは遺憾である。更に他日を待つて補正したい。次に本稿の要約を掲げると次の如くである。
(1) 鰍建網漁業地は房總半島部では調査地52組合中20組合に見ることが出來た。何れも岩礁帶に装置する。全般的には今日この簡易なる定置底刺網が衰弱の傾向にあることが認められる。
(2) 地域に依てこの漁網に對する社會規約の程度が著しく異り,濱波太は調査地域の何れに比較しても最も鋭敏性を發揮してゐると見られた。
(3) 當地域に於けるこの漁網のかかる發育の原因としては,一挺漕卓越地域として其他の優越せる漁法を持たぬこと,資本の貧弱,漁港の不備等の人的要因と,地形的に小屈曲島嶼波蝕岩盤海藻等に恵まれ,特に仁右衞門島の存在に依る一方的風浪の保護等が明かにこの漁網に對する優れた自然性と見ることが出來た。
(4) 夫々の網入場に於ける漁網の張方差等等は海況並に魚類の習性との關係を考究せしめる手懸を與へ,特に沿岸性潮流・底盤との關係等は重要である。
(5) 慣行に依て他海區に迄本地域の網入場の進出が許されてゐることが,ここの純漁部落たる性質を物語ることとなり,且この漁網の當地域に於ける大なる存在價値の一面を説明することともなる。
(6) 魚期として冬場のイナダ夏場のイサキが代表的のものであるが,特に統制された漁網に依る纏まつた漁獲が帝都への送荷を好都合ならしめてゐる。

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