地理学評論
Online ISSN : 2185-1719
Print ISSN : 0016-7444
ISSN-L : 0016-7444
東北地方に於ける出作及び出稼聚落の經濟地理 福島縣南會津郡檜枝岐村の出作 岩手縣二戸郡田山村の出稼
田中 館秀三山口 彌一郎
著者情報
ジャーナル フリー

1936 年 12 巻 3 号 p. 218-247

詳細
抄録

1. 檜枝岐は狭き谿間の山村なるが故にその耕地は聚落と一致せず,從つて夏季出作を餘儀なくされて居る。それ故村の集團生活は冬季行はれる。田山村はその名の示す如く山地の聚落であるが田地を有する。然しこれ丈けでは村の生活を維持することが出來ぬため冬期樺太に出稼する.從つて村の集團生活は夏季に行はれる。
2. 檜枝岐は水田を有せず畑地の産物及び繭を米に換へ近來は家内工業が漸次發達して來た。田山村は米を産するが全住民の需要を満たし能はず,又米作は冷害,干害を受け易き故,これ等に對しても被害少なき稗及粟を畑に植えて,これを以つて常食物を補給する.なほこの外炭焼きが行はれ,又牛馬の飼養が近來發達し始めた。
3. 檜枝岐は夏は留守聚落で火災,盗難の抵抗弱く從つて家屋は密集より粗散の傾向を辿りつつあり,又村端れに板倉の密集がある。田山村は定住聚で出作小屋は全村唯1軒を有するのみである。又聚落の増加は山麓部に新に生ずることあれど多くは分家によりて聚落は散居より追々密集に傾く
4.田山では「やどこ組合」があり「むろ」「水車」「糸にがま」等の共有が行はれて居る。檜枝岐に於ては共同娯樂機關として地芝居小屋などがある。
5。檜枝岐は冬とお盆に神佛を祭し,又は色々の「講」を行ふ。田山は「當っ子」で毎月集まり,「賽」で春〓酒をやる。
6.人口増加,兩村とも生活の向上は漸次農業者を離村せしめ,檜枝岐にては生産人口が減少する。なほ田山に於ては定期出稼が行はるれ結果として月別の出生兒の數に著しき差がある。而して田山は最近交通の便に依り急に移入人口が増加した。
終りに仙臺齋藤報恩會より研究費の補助を受け,檜枝岐村調査にては星美雄,川島武,橘正路の諸氏,田山村にては瀬川昇氏,安保廣吉氏及び盛岡友の會,田山セットルメントの御援助を受けた事に對し深謝の意を表する次第である。

著者関連情報
© 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top