地理学評論
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所澤町附近の地下水と聚落の發達 (2)
吉村 信吉
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1941 年 17 巻 2 号 p. 124-138

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抄録

1. 狹山丘陵東北柳瀬川の北の武藏野臺地の68井に於て種々な季節に地下水の測定を行つた。臺地面は東に向ひ緩斜し起伏は小さく,柳瀬川に平行して淺く幅の廣い東川(谷戸川)の谷があるが,冬には流水がない。
2. 附近の地質は10m内外のローム層(下部の1, 2mは屡〓粘土化して黄土と呼ばれる)の下には時々薄い粘土層軸を挾む極めて厚い砂礫層が發達し,南部武藏野臺地のやうに厚い青色粘土又は頁岩は見られない。
3. 1940年春の低水季には地下水面の深さは3種あり,淺いものは8m,中位のものは14m,深いものは24mある。井底の深さも大體これと同じである。掘抜井以外の最深井は28m内外で,武藏野臺地では5番目以下であつて,特に飛び離れて深いものではない。
4. かやうに深さから區別される3種の地下水中最も淺いものはローム層下部の粘土を不透水層としてローム中に帶水し,年中宙水状態にある(上部宙水)。中位のものは砂礫層中に挾まれる薄い粘土層上に帶水し,低水時には宙水,高水時には本水となる(下部宙水又は上部本水)。深いものは柳瀬川の水面と平衡を保つてゐるもので本水の性質を有つてゐる(下部本水)。
5. 本水の地下水面は低水時には柳瀬川の河面と平衡を保ち,地形とは無從關係にある。上部宙水は臺地面の所々,下部宙水は主に東川の谷に沿つて存在する。
6. 低水時の井内湛水は1m内外で渇水したものさへ珍しくないのに,所澤町の西には5~11mに達する水の満々とした深井がある。
7. 地下水位變化は上記3種の地下水によつて異なり,較差は深い本水に大きく,下部宙水はこれに次ぎ,上部宙水は最も小さい。短時間の水位差も地下水の種類によつて獨特の状態をしてゐる。
8. 東川に對する横斷面及縦斷面に於ける地下水變化を述べ,柳瀬川との關係,下部宙水との高水時に於ける接合状態を論じた。
9. 高水時には上部宙水は弱酸性,深井は微酸性である。低水時には一般に多少中性化し,且深さによる差が減少する。
10. 柳瀬川に沿ふ地域では河水を飲料に供し,最も古く平安朝又は鎌倉時代に聚落(驛)が生じた。東川の窪地も宙水を利用して鎌時代頃から所澤其他の部落が出來たが,後交通路の變化に件つて宿場又は市場町として發展し,近年には軍事町となつた。近年には宙水に依存しなくなり寧ろ深井の町として有名となつた。臺地原面の聚落は最も新しいが,大部分は局部的に發達する宙水に依存してゐる。

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