地理学評論
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奈良盆地馬見丘陵の溜池灌漑に関する研究
掘内 義隆
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1957 年 30 巻 10 号 p. 947-962

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抄録

a. 馬見丘陵は全国的に珍しい小溜池の密集地域で,溜池個数による密度は非常に大きいが,水田面積に対する溜池全面積の比率は小さい.これがため,用水確保に種々工夫をするとともに,多大の労力を費しているが,稲作経営は不安定である.溜池は,所有個人池が圧倒的に多いことは,奈良盆地底と著しく異なる点で,個人的開発が中心となり,小溜池もこれに応じて築造された.
b. 灌漑用水としての利用価値は,部落池,組合池,個人池の順となる.水利労力はこの逆であり,維持費も部落池は概して少い.用水価値の少い個人池のみに依存する稲作経営は,最も木安定で,これに頼る農家は,比較的部落の下級的農家に多い傾向である.
c. 丘陵地の土地利用橘よく行われているが,技術的には劣る点があつて,盆地底農業に比較して,停滞的な傾向が大きい.更に用水源の複雑性は,農業経営を制約するとともに,副業や象業の発達を促している
. d. 戦前より用水確保のため,地下水や河水の動力揚水が行われ,用水の豊富になつた部落では,稲作が安定するとともに,水田化が行われている.また土地利用も,次第に集約化されつつある.

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