地理学評論
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以西遠洋底びき網漁業根拠地の盛哀
土井 仙吉
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1959 年 32 巻 1 号 p. 1-23

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抄録

1. 今日のわが国漁業中母船式捕鯨業についで高度化し,技術的にも社会経済的にも工場工業制的段階に進んだ以西底びき網漁業は「舶来=移植漁業のトロール」および「在来漁法が漁船動力化によつて発展した自生的純日本漁業の機船底びき網(手繰)」という系譜を異にする両漁業で構成され,前者は最初から近代資本主義的に経営されてきたのに対し,後者は舟主的(マニユ的)経営から出発した.両者は同一漁場で同一魚種(底魚)を類似の漁法で採捕し競合関係にあるが,技術的・経済的などの理由で後者が完全に前者を圧倒している.
2. 以西底びきの主体をなす手繰にも出雲型と阿波型の発展過程を異にする2系統があり,前者はトロールの場合と同様に,固定給を主とする近代的賃金形態をとるのに対し,後者は現在も歩合制・漁撈長制をとり,経営形態に半封建的=前期的な要素を多分に残存する.
3. 最初栄えた根拠地は下関・長崎と,漁場に近い五島とであつたが,船体・機関の大型化・ヂーゼル化などの技術的進歩・流通事情・資本主義の発展にともなう大資本への集中などの諸条件によつて,漸次漁場的離島根拠地は衰え,流通的都市根拠地が発達してきた.
4. 敗戦による転換資本の進出,漁場の縮小・李ライン設定による漁場喪失,遠距離迂回の強制・築港・出荷事情・都市の性格,政策・漁場荒廃にともなう減船整理,だ捕・経済変動を通じての独占資本の強化および大資本間の性格相違などの諸条件がからんで,大基地・大資本の発展,小基地・小資本の衰退傾向が最近いちじるしい.
5. 4大根拠地間では出雲系に属する下関・戸畑が停滞ないし漸減的,阿波系の長崎・福岡は漸増という対照的な勢力変動傾向がみられるが,これは地理的位置(漁場・市場)や漁港施設などの単なる技術的観点からは説明不可能の現象で,社会経済的な地域差・歴史的発展過程の差異によつて規定された経営形態の相違(歩合制と固定給制)に強く影響され,阿波型に残存する前期的諸関係を利用して最大限の利潤を追求しようとする資本本来の意図をも多分に反映した結果と考えられる.

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