抄録
(1) カツオ,マグロ遠洋漁船の基地として自然的,経済的諸条件にめぐまれた三崎は,漁船動力化を契機として,県内および近県のみならず,遠く三重,和歌山両県より出漁船を吸収し,沿岸漁村よりカツオ,マグロ遠洋漁業の中心地へ変ぼうしていつた.築港工事完成後,さらに徳島,高知,宮城の3県より出漁船を吸収し,旅船を主力とするカツオ,マグロ遠洋漁港の性格を帯びる一方,旅船の一部船主が定着してできた移住船主を中心に少数の三崎所属遠洋漁船が発生した.
(2) 第二次大戦後,カツオ,マグロ遠洋漁業に進出した大会社ならびに多数の新興水産会社の三崎進出と,三崎在住遠洋漁船船主増加のため,三崎所属遠洋漁船総数が急速に増加した.漁業特例法公布後一部の大会社とその系列会社,および三崎在住遠洋漁船船主上層部を中心に進められた漁船大型化のため,三崎所属遠洋漁船は質量ともに飛躍的に増強された.
(3) 水産物統制撤廃後,三崎を基地に操業する他港所属遠洋漁船(旅船)がしだいに復活し,漁業特列法公布後,マグロハエナワ漁業専用に建造された他港所属の大型遠洋漁船は三崎を周年基地として操業している.マグロの好漁場の遠隔化にともなう位置的優秀性の減少にもかかわらず,多数の旅船が三崎へ集結する主因は,漁獲物販売上の好条件にもとずくものと考えられる.
(4) 三崎所属遠洋漁船の発生は遠洋漁夫を直接三崎へ集中させる端緒をひらいた.第二次大戦前,数百名にすぎなかつた出稼漁夫は,三崎所属遠洋漁船増強のため,昭和31年に3,500人余に増加した.とくに多数の遠洋漁夫を供給する町村の大部分は過去,または現在におけるカツオ,マグロ遠洋漁業の盛大な地域と一致する.遠洋漁船乗組員の大部分は船頭を媒介として雇傭されているが,一部の会社における乗組員の計画的養成と,航海技術者の雇傭増加のため,乗組員の供給地は特定地域に限らず全国的に拡散する傾向が認められる.遠洋漁船乗組員の多くは出稼ぎのかたちをとつて三崎に集中しているが,所得の多い幹部船員の一部が次第に三崎に定着しつつある.