抄録
工業用水の諸問題を用水費に集約して,わが国における工業用水費の地域的差異を概観した.地域の水経済と工業立地には密接な関係があり,工業用水費は地域の水経済を表わす一指標と考えられる.工業用水費が地域的に異なる現象は,自然条件に恵まれているかどうかが基礎となつているが,工業の発達程度に関係した「地域の水経済の変化」に対応するものである.わが国主要工業地域の水経済をみると,大規模な重化学工業が集中する京浜・阪神などの工業地帯が劣悪な状況を示し,重化学工桑の発達が比較的おそい北陸・東海地方にすぐれた状況を有する地域がある.自然条件に恵まれていても工場の集積にともなつて淡水取得が困難になれば,工場は水費の高い公営水道へ依存する割合を高める.いわゆる4大工業地帯はこの例に属し,工業用水の加重平均単価は東海・北陸のそれより3-8円も高い.工場が自から取水する淡水分だけをみても,前者地域が2-3円であるのに対して後者は1円以下である.前者には自家取水が不可能となつた地域すらある.近年工業用水問題が重視されるようになつたのは,工業用水の絶対量の不足や,用水費が上昇傾向をたどりつつあることが大きな原因ではあるが,上述のような工業用水費の地域差も,注目しなければならない重要な事柄である.