地理学評論
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南佐久における高冷野菜の生産
加藤 武夫
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1967 年 40 巻 9 号 p. 459-475

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抄録

高冷地域ではその気候条件と隔絶性によって,低暖地のそれとは異なった農業経営が行なわれてきた.本州中央高地の高冷地には従来より僻地山村が多く,農家では夏一作の自給作物を栽培し,それと仔馬の生産を目標とする馬の飼育を結合させた自給的混合農業の形態をとるとともに,他方では林業による現金収入の獲得を図ってきた.しかし最近の産業構造の変化にともなう巨大都市の急激な膨張と食生活の質的変化に加えて,交通手段の革命的な進展によって,このような山村の営農形態は変質せざるを得なくなった.かくして輸送園芸として高原野菜を基幹作目としてとりあげる農家集団が形成された.高冷野菜の栽培は第二次世界大戦前から行なわれていたけれども,その規模は小さかった.しかも,戦中・戦後を通じての統制期には不急作物としてその生産は中止させられていたが,その後の疏菜統制令の廃止(1949年)によって復活したばかりでなく経営面積が拡大され,水田稲作の上限界以上の高冷地にその主産地を形成するにいたった.冷涼な気候のため他の作物では成育不可能な不利な自然条件を逆に活用し,ここに一躍して新らしい形態の輸送園芸地帯を形成した.本稿で述べる南佐久地域の1,000mを越える高冷地域はハクサイ・レタス・キャベツなどの一大主産地であるが,詳細に観察するとその中にある自然条件のわづかな差異が農地経営ならびに作目に敏感に作用し,他方主産地形成の起源と発展過程にも特色がみられ,これが農家の経営方針とその土地利用に反映している.本論ではこの地域の主産地を段丘面を利用するものと火山裾野高原に立地するものとに大別して,それぞれの実態の分析を行なってその農業経営と生産性の関係を考究するとともに,他方では新らしい輸送園芸地域としての高冷地山村の変貌の過程を明らかにしようとした.

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