抄録
温泉観光集落の発達と構造に関する一般的傾向の把握を目的とし,東京観光1次圏内の温泉観光地のうち,俳香保・鬼怒川の両温泉を選定して研究を進めた.本稿では,とくに観光資本の性格の差異とその変質過程とを注目するとともに,温泉観光集落の経済的機能の実態把握に努めた.
近世初期に確立し,歴史性を有した伊香保は,少数の有力地元資本や町当局が温泉地開発のイニシアチブを握って,外来資本に対して閉鎖的姿勢を示し,それゆえ観光産業化のテンポが遅れがちで,観光市場もローカル性で特色づけられた.これに対して,昭和初期に成長した新興の鬼怒川は,地元資本の外来資本導入の開放的姿勢のもとに,交通資本をはじめとする中,観光資本の積極的な観光開発や宣伝活動が展開され,観光産業の高度化や観光市場の広域化を促進させたことが明らかとなった.