抄録
東京,本郷台,白山において, 1967年4月から1968年3月までの一年間,中性子水分計による土壌水分の観測を中心に水文諸要素の測定を行ない,これを水収支の手法で解析して,降水による不圧地下水の洒養機構を明らかにした.白山における地下水位の変動は,降水量とその季節的配分によって決定される地下水位の局低には1~2ヶ月前の降水を中心に約半年前までの降水の積算が強く影響しているが,地下水位の上昇下降は個々の降水に10日以内で対応している.各収支項の年間総量は,年降水量約1,000mmに対し,表面流出量210mm, 蒸発散量500mm, 地下水滴養に有効な降水量290mm, このうち帯水層への自然涵量280mm, 人工的酒養量 410mm, 地下水への全滴養量690mm, 地下水の年流去量670mmであった.都市域における不圧地下水が多量の人工的洒養(漏水)の存在によってバランスしていることは注目すべきことである.関東ローム層および山ノ手粘土層(深度0~8m)中の土壌水分の季節的変動は大きく,最大値(春季)と最小値(夏季)の差は100mm以上に達し,関東ローム層深部においても,激しい水分変動が認められた.自然涵養量は冬季から春季にかけては少なく, 0.5mm/day以下であった.夏季には平均0.6~1.0mm/day, 秋季には平均1.0~2.Omm/dayの自然涵養量は,降水直後の急速な降下浸透によってもたらされたものであることがわかった.関東ローム層中の土壌水分の降下浸透機構には二重構造性があることが予察された.すなわち,関東ローム層中の降下浸透には,土壌体一般の水分を増加させつつ緩かに浸透するものと,中層の圭壌体一般の水分に大きな変化を与えることなく,また,その層の圃場容糧とは無関係に急速に深層まで浸透するものとが存在する.緩やかな浸透は,土壌体の大部分を占める小間隙を乱て行なわれ,急速な浸透は,土壌の断面積中数%以下を占めるにすぎない大間隙を通じて行なわれる.前者が,みかけ上1~2ヶ月の遅れをもって降水と地下水位を対応させ,後者が,降水直後の日単位の地下水位変動に関与すると推定される.