抄録
在来工業産地を形成・存立せしむる条件は,種々挙げうるが,これらのうち,その地域における社会経済構造と一体をなすところの,「生産流通機構」「労働力供給源」の二側面より,知多地方の綿織物業を分析する.知多綿織物業は,形成期においては,問屋制前貸支配下の農家副業として成立するが,のちに工場制生産をとるに至る.工場制生産の成立は,産地商業資本の地位の変化の下地と,織物業による地元労働市場把握の機構とを一体のものとしてつくりだす.「工場」に対する産地問屋の支配力は,生産者の地位の向上により,昭和初期までに弱体化する.地元労働市場の把握は,戦後の他産業との競合の中で困難となっている.現在・産地存立の上に,産地商業資本の支配力や地元労働力は,ともに重要な役割をもっていない.
以上の特色は「工場化をなしとげた(しかし大企業への発展はおしとどめられた)在来工業」という知多綿織物業の基本性格にもとつくものである.