地理学評論
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鯖江眼鏡枠工業の配置
宮川 泰夫
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1976 年 49 巻 1 号 p. 25-42

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抄録

大都市零細工業的性格をもった眼鏡枠工業は,今日では,その約80%を地方の町鯖江に於て産出している.この地への導入は,大阪へ出稼者や移住者を出しながら絶えず地場産業を求めていた北陸の一寒村の地域性と東京の名工と大阪の問屋がもつ「都」「市」的機能と地場の低廉な労働力の結合を可能にした増永家の家業性を基礎に置く.明治末に生野に定着した眼鏡枠工業は,大正に入ると同様の地域性をもち帳場の親方の出身地である東部地域に分家的独立の形態をもって展開し,技能と低廉労働力に基礎をもつ村の工業となってゆく.それが昭和になり機械化が進み組立工業的性格を強めながら低廉な技能者の集積によって大阪・東京といった大都市産地との競合に打勝って産地規模を拡大してゆくにつれその生産流通機能の展開に適した新興の町に生産拠点を移し町の工業へと転換していった.戦後は繊維や漆器といった地場産業の展開する町を棲み分けつつ,拡充した町の生産流通機能に主導された町から村へ連らなる一大産地を眼鏡枠工業は形成している.このように眼鏡枠工業の配置は工業がその発展段階に応じて性格を異にする地域を棲み分けることによってもたらされたといえる.

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