抄録
心理学における尺度構成法の一つである多次元尺度構成法 (MDS) は,距離メトリックの変換による空間分析を可能とするものである.本稿では,まず,認知空間 (Cognitive-space),時空間 (Time-space) 等の多次元表現に用いられてきた,ノンメトリックな(非計量的) MDSの一種であるM-D-SCALを紹介した.続いて,名古屋とその隣接主要都市でのアジアかぜ(1957年)の流行を事例としながら,時空間において拡散問題を検討してみた.M-D-SCALによって復元された2次元の時空間座標を用い,アジアかぜ発生月日の地:域傾向面分析を行なった結果,2次地域傾向面によって全変動の約75%が説明されることがわかった.これは,物理空間 (Physical space) において十分抽出しえなかった距離成分の抽出を可能にしたことを意味するとともに,空間的枠組に現象を近づける従来の分析とは異なり,現象に空間的枠組を近づけるといった,距離メトリックの変換による空間分析の有効性を示すものである.