地理学評論
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丹波・篠山町における酒造業労働力の変容
松田 松男
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1981 年 54 巻 8 号 p. 405-422

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抄録

本研究は丹波・篠山盆地に進出した大手酒造メーカーをとりあげて,その諸条件および他の製造業との労働力競合の有無について考察を試みた.その際,在宅通勤兼業を行なう農家世帯員を主たる包摂対象とする地域労働市場に分析の重点をおいた.
篠山盆地に進出した大手酒造メーカーには,市場における桶買い取引,自醸酒販売,原酒の輸送費,労働費を勘案した「桶買い系列下」型と「自醸酒分工場・疎開」型がある・酒造業労働力は,従来より季節出稼ぎ者に依存してきたが,就労者不足と高賃金化のなかで,農家主婦労働に徐々に置き換えられつつあり,篠山盆地では季節的な通勤賃労働さえみられる.酒造業労働力の賃金は主として,女子の日給制賃金水準に基づく.
一方,その他の製造業労働力は年間雇用労働であり,主として主婦層に依存する.このうち,一流メーカーの中企業にみられる新規学卒労働力の雇用を除き,多くは中高年労働力である,それは賃金水準の高いものから順に,男子の月給制ならびに日給月給制に基づくもの,女子の日給月給制に基づくもの,女子の日給制によるもの,農家主婦の時間給による内職など四つの賃金支払い形態からなる.地域労働市場の構造は新規学卒労働力と既就業労働力からなり,酒造業とその他の製造業との間の労働力流動の関係は認められない.

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