抄録
従来,時間地理学の研究は,一部の領域を除いて概念的枠組の検討の段階にとどまっており,特にわが国においては観察された行動を表記する技法として利用されるにすぎなかった.これに対し,本研究は,時間地理学の人間行動の解釈への応用の可能性とそれに当たっての問題点を,事例研究にそって具体的に明らかにすることを試みたものである.
事例として漁師の漁場をめぐる行動をとりあげ,時間地理学の見方からの解釈を示すことを試みた.その結果,一見無秩序に見える行動であっても,時間地理学の見方を適用し,主体(漁師)の行動をその相手(魚)との結合couplingを目標としてなされるものと規定し,当該行動にとって意味のある時間(自然の時間)ということに注目した場合,ある程度まで合理的な解釈が可能となることが示された.