抄録
近世西三河地域の綿作の地域的特色を,先進地である畿内と比較して検討した.その結果,西三河地域においては,田方綿作・自然堤防地帯の畑方綿作・洪積台地上の畑方綿作・新田砂畑綿作の四つの立地類型がみられた.そのうち,自然堤防地帯の綿作が生産規模の点において,最も中心的地位を占めていたことがわかった.次に,ある上層農の農業経営の分析を通して,西三河地域の綿作の諸側面を明らかにした.上層農の例をもってしても,西三河地域の綿作の生産力は,畿内地域に比べてかなり低いこと,綿の生産量には年々大きな変動があること,水田での綿作では4年に1度田に戻す稲綿輪作が行なわれていたこと,畑方綿作は雑穀との輪作ないし綿の連作として行なわれていたこと,などが明らかになった.西三河地域の綿作は古い歴史を有するにもかかわらず,畿内地域ほどの先進性を示すことがなかった.その最大の原因は,畿内綿作が多様な商品作物生産の一環としての近郊・集約的綿作であったのに対し,西三河綿作が綿単.の商品作物生産を行なう遠郊・粗放的綿作であった点に求められる.