1988 年 61 巻 2 号 p. 170-185
現在の気候条件からみれば森林が成立していても良いと考えられるカメルーン中部および西部の高地では,更新世末の乾燥化(森林の大幅な後退),完新世初頭の湿潤化(森林の回復)を経て, 2,000y. B. P. 頃には人為的な森林破壊が進み,遅くとも1,000y. B. P.頃にはかなり強度の農耕が行なわれていたと思われる.その後, 150y. B. P. 頃から牛牧畜民の侵入をうけて農耕民が急減し,その結果定期的に火入れされる牛放牧地の鉢大をみた地域と,それを免れかなり集約的な農耕が継続された地域とで,表土層の維持・更新状況に明白な差異が生じるようになった.現在両地域には,森林がきわめて少なく自然状態より著しく乾燥したみかけを呈するという景観上の共通点と,かたや低木と高茎草本がさまざまな割合で混在した景観,他方では樹木の極端に少ない草地・農耕地景観が,それぞれ卓越するという相違点とがみられるが,これらはともに,人為の作用の時代的・地域的な変化と良く対応する.さらに表土の人為的削剥の強弱は,更新世の古気候の産物である鉄・アルミナ硬化層や礫質堆積物の露出状況に差異をもたらしているが,それも現在の景観の地域的な差異の形成に関与しているようにみえる.