抄録
生産活動をめぐる人間一環境関係研究は,もっぱら物質文化や生業活動の問題として文化地理学において取り扱われてきた.しかし Cosgrove (1978)が指摘するように,人間一環境関係とは文化から文化景観への一方向的流れとしてではなく,知と存在との,そして認識と実践との弁証法的関係としてとらえられるものである.本稿は近代阿蘇山麓の牧野利用の分析を通して,そうした弁証法的人間一環境関係を明らかにすることを試みた.その結果,牧野をめぐる社会変化が生態・社会両システムのシステム間関係に依存しているということ,そしてそうした関係が稀少性のさ中での共同主観化された意識と実践との弁証法的展開過程であることが明らかとなった.それは単に研究対象の問題のみにとどまらず,人問一環境関係という問題を設定する地理学者自身の認識論的プロブレマティックにかかわる問題である.