地理学評論 Ser. A
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A. vonフンボルト『コスモス(第1巻)』における「自然画」の思想
田村 百代
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1993 年 66 巻 5 号 p. 253-268

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抄録

フンボルトは晩年の著書『コスモス(第1巻)』 (1845)の中で,宇宙の自然をその壮大な規模で描写する自然的宇宙記述を論じ,宇宙の諸力と諸現象を「自然画」として概観している.天空の星雲から,地上の植物・動物・人類までを包括する「自然画」は,ゲーテ自然研究の精神を踏襲しつつ,近代科学の成果をもとに描写されている.とくに宇宙全体像の究明,恒星系への重力の法則の拡大,諸力の変換に関する研究は,「自然画」の思想の枠組みを決定する役割を果たしていた.自然的宇宙記述すなわち「比較地理学および天文学」は,宇宙の諸力と諸現象を,宇宙のすべての創造物を生命ある自然全体として考察し,天空・地球のいずれの場合においても,諸力と諸現象の空間的分布から普遍的な法則を追究したところに,独立した科学としての固有の性格をそなえていた.自然的宇宙記述の中で,地球の諸力と諸現象に関する記述を行なう比較地理学は,「フンボルトの一般地理学」であることが明らかとなった.

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