地理学評論 Ser. A
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小川琢治の中国研究
岡田 俊裕
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1997 年 70 巻 4 号 p. 193-215

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抄録

小川琢治は中国への並々ならぬ関心を終生持ち続けた.その契機は『台湾諸島誌』 (1896) の執筆にあり,その際重用した中国の古地誌・史料への興味が歴史地理研究へと向かわせた.彼は,儒家によって異端邪教視された史料を重用し,中国の地理的知識の拡大過程および古代の東アジア世界と地中海世界との地域交流などを考究した.以後,歴史地理学ないし地理学史研究が京都(帝国)大学における地理学研究の伝統となった.また彼は,情況に対応した中国経営論を展開した.その視点は植民地経営者のものであったが,研究者としての見識も示した.しかし,反日・抗日運動が活発化した蘆溝橋事件以後は一変し,中国との連携志向を失った.このような論策の背景には,自らが先鞭をつけた戦争地理学研究があった.それは当初政治学の分科ゲオポリティクとは区別されたが, 1930年代にはゲオポリティクを政治地理学の分科と規定し,同じ政治地理学の分科である戦争地理学がゲオポリティク的要素を含むことを理論づけた.それを踏まえて中国経営論も変容したと考えられる.

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