地理学評論 Ser. A
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Humboldt自然地理学の本質とその思想的背景
田村 百代
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1998 年 71 巻 10 号 p. 730-752

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抄録

『コスモス』において具体的に論じられた「地球の物理学」という自然地理学思想を対象とし,その形成過程,コスモス論および「自然画」との関係を取り上げる中で,Humboldtが主張する自然地理学の本質とその思想的背景を考察した.その結果,Humboldtの自然地理学の本質は,ニュートン主義の物質理論を基盤とした空間内の自然諸現象の力動論的考察にあることが明らかとなった。Humboldtの自然地理学は,基本力(引力・斥力)を持つ物質微粒子(原子)の運動を前提とし,空間内に共存する自然諸現象を物質のレベルでとらえ,数量化に基づきながら自然諸力(重力・熱・光・電気・磁気・化学親和力)の作用に還元するという力動的機械論の地理学であった.Humboldtが主張する力動論の地理学思想の背景には,宇宙はすべて力学の諸法則に従って運動する物質から成り,自然界のすべての結果は物質上の原因によるというニュートン力学影響下の物理学思想が存在している.

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