Geographical review of Japan, Series B
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インド・デカン高原南部の干ばつ常習地域における農村開発
藤原 健蔵中山 修一
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1985 年 58 巻 2 号 p. 130-148

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抄録

干ばつ常習地域における農村開発の研究は,人間居住地域の安定的拡大の視点から,国際的な重要課題といえよう・本稿の目的は,デカン高原南部の干ばつ常習地域での現地調査を通して,現行の農村開発事業における問題点を明らかにしようとした.
現地調査は,1980年秋,エルドナ村及びビダラケレ村の両村で実施された.前者の農村開発は,1957年以降,大規模な潅漑用水計画を通して進められた.他方,後者では,1950年代後半以降,コンター・バンドや用水井戸の建設など,比較的小規模な開発事業が多様に展開された.
調査の結果,両村をめぐる開発事業は,その手法を異にするものの,農業の発展と生活水準の向上に一定の開発効果を上げていることが評価された.他方,今後解決されなければならない課題の幾つかが明らかとなった.エルドナ村では,潅漑用水路による過剰給水が,生態系のバランスを破壊し,耕地の塩性化という深刻な問題を引き起こしていた.また,ビダラケレ村では,農民がコンター・バンドの適正な維持に消極的なため,強度な表土流出によって耕地の荒廃が進みつつあり,加えて用水井戸の開発も,地下水源の限界から伸び悩みの状態であった。
デカン高原南部の干ばつ常習地域における農村開発は,今や開発手法の再検討が求められる.現行の手法の継続は,行政当局と農民の双方による急速な経済成長への強い期待も加って,生態系の破壊を一層押し進め,さらに農民間の社会的緊張関係をも増長することになるであろう.

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