Geographical review of Japan, Series B
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中国,西双版納における農業と集落
許衛 東白坂 蕃市川 健夫
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1989 年 62 巻 2 号 p. 104-115

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抄録

雲南省,西双版納倦族自治州は,中華人民共和国の南西端に位置し,南はラオス,ビルマと国境を接している。西双版納は植物資源の宝庫といわれ,中国だけではなく,ひろく外国の研究者にも興味深い地域である。
西双版納は東南アジアのマレーシアやイソドネシアのような,典型的な熱帯多雨林地域と比べると,熱帯の限界的性格が強く,それ故に複雑な自然条件に対応した様々な農業や集落がみられる。
西双版納倦族自治州には,傑族をはじめ,基諾族など10を越す少数民族が独特の生活様式を持って生活している。本稿では,筆者の実地調査をもとに,西双版納における集落立地を含めた農業的土地利用と近年の変化を,民族別に考察した。
1980年代に入るとともに,西双版納では農業において生産責任制が採り入れられたこともあり,かつてない急速な農業変革が進められている。その中心は,西双版納の自然環境に基づいたゴム,茶そして熱帯果樹を中心とした換金性の高い近代的集約農業の拡大である。中でもゴム栽培は,多かれ少なかれ,ほとんどの民族に取り入れられ,その高距限界は海抜1,360メートルにもおよんでいる。この,いわゆる“近代化”農業への移行過程で,盆地においては水田耕作の比重が増し,山地においては焼き畑の比重が低下し,仏教文化を持たない少数民族ほど,伝統的農法や固有の農耕文化要素が衰退し,漢民族化・漢文化化が速いテンポで進んでいる。

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