本稿は,従来の諸研究と銚子における調査結果をもとに,日本における近代的な水産業の地理学的研究に対する1つの枠組みを提示した。日本における近代的な水産業は,地理学的には生産の根拠地である漁港を中心に発達してきた。特た,大規模な水揚漁港は,水産地域の中心であり,水産物の流通する空間における最も重要な結節地である。水産物の流通する空間,すなわち水産関連空間は,水揚げされる魚の流通経路の周辺に形成され,漁獲空間,水産物水揚げ・加工空間,水産物消費(市場)空間の3つの亜空間に大別される。この空間構成は,各魚種の単価,水揚量の規模および季節性,鮮魚であるか凍魚であるかなど,水産物の性格に強く依存する。銚子の場合,その水産関連空間の構造的な特徴は,漁業資源の季節性および周期性という限界性を,漁港とその周辺地域における水産関連の技術と設備の集積により克服してきた点にある。
本稿が示した水産業の関連空間モデルは,日本の研究事例を踏まえたものであるが,世界における近代的な水産業の基本的な空間構成を示すものとしても有効である。