本稿は、自動車産業界のビジネスリーダー、リー・アイアコッカ(クライスラー)とカルロス・ゴーン(日産自動車)が発表したビジネススピーチを対照研究の素材とし、概念メタファーおよびそのメタファー表現の特徴的な役割について考察するものである。両氏のスピーチには、いずれも「工場閉鎖を伴う経営陣の決断を、従業員と地域社会に伝達する」という二者共通の重要な役割がある。今回の研究では、類似の厳しい経営状況下で発表された両スピーチにおけるメタファー表現を手掛かりとし、各概念メタファーの変移傾向を分析することで、両者がいかなるメタファーを用いて、どのように自身の感情を意図通りに伝達(あるいは抑制)しようと試みたのかを考察する。