2011 年 8 巻 1 号 p. 14-25
本稿は、スピーチコミュニケーションのメタファ分析における「メタファグラム」(造語)に関連し、話者やスピーチを特定するための技術となる「比喩紋」の可能性を考察するものである。スピーチにおける概念メタファの時系列的な表出傾向の推移は、メンタルディスタンス分析によって描写できることが分かっている。ここでの議論は次の2点に絞られる。まず、(1)時系列的な推移状況を、視覚性に富む「メタファグラム」でとらえたとき、その特徴が、話者を特定しうるほどの有意性を持つのかということ。そして、(2)メタファグラムが時系列的特徴を示すとすれば、それは具体的にどのようなものなのかという疑問である。本稿では、先行研究で考察された2人の発表者による6本のスピーチを再検証の素材とし、メタファグラムを構成する個々の要素について、より詳細な統計分析を施して考察を進めた。援用したのは、相関分析、時系列分析、定常化、自己相関分析、そして交差相関分析である。その結果、得られたメタファグラムには、それだけで人物の特定を実証しうるほど統計的に有意な相関性はみられなかった。しかしその一方、メタファグラムによって記録される各メタファ要素の関連性に、隠された「時系列的周期性」が存在することが明らかになった。