宝石学会誌
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平成29年度宝石学会(日本)講演会論文要旨
第一原理計算によって求めたエメラルドの色の定量的評価
清岡 洋紀小笠原 一禎
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2018 年 33 巻 1-4 号 p. 47

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抄録

緒言: Cr3+イオンを不純物とした Beryl の結晶は、美しい緑色に発色しており、エメラルドとして広く知られている。このエメラルドの緑色は、 Beryl 中の Cr3+における多重項エネルギーによる可視光の吸収が起因して、発色している。分子軌道計算プログラムである DV-Xα 法と DVME 法[1]を用いて、エメラルドの吸収スペクトルを非経験的に求めることができるが、実際にどのような色に再現されているのか定量的な評価はこれまで行なわれていない。そこで、本研究では非経験的に予測したエメラルドの吸収スペクトルから、標準光源下(D65)での色度座標を計算することによって予測されるエメラルドの色を評価した。

計算手法: Beryl の結晶構造データ[2]から Al3+を Cr3+に置換した 7 原子クラスターおよび、 40 原子クラスターを用いて多重項エネルギーの第一原理計算を行い、吸収スペクトルを求めた。モデルクラスターの周囲の原子位置には点電荷を配置し、有効マーデルングポテンシャルを考慮した。さらに、各クラスターに Shannon の結晶半径に基づいた格子緩和を考慮した場合と、配置依存補正及び電子相関補正である CDC-CC の考慮をした場合、格子緩和と CDC-CC の両方を考慮した場合のそれぞれについて DVME 法により計算を行った。 7 原子クラスターに関しては、 O2-の 2p 主成分軌道を具体的に配置間相互作用(CI)計算に含めた計算と EXAFS で得られた Cr-O の結合距離に基づいた格子緩和を考慮した計算も行った。さらに、これらの計算で得られた吸収スペクトルから色度座標を計算し、実験吸収スペクトルから計算した色度座標との色差 ΔE00 を求めて定量的に評価した。

結果・考察: 計算により求めた(a)7 原子クラスター(格子緩和、 CDC-CC ともに考慮せず)と、 (b)O2-の 2p 主成分軌道を具体的に CI 計算に含めて計算した 7 原子クラスター(EXAFS データに基づく格子緩和、 CDC-CC ともに考慮した)の吸収スペクトルから得られた色度座標及び、実験吸収スペクトルから得られた色度座標を図 1 に示す。複数のデータ点は Cr3+の濃度の違いに対応している。 (a)の結果では、濃度が高くなるにつれて青色に近づき、実験データとの色差 ΔE00 は 55.5 であった。 また、 (b)の結果では、濃度が高くなるにつれて緑色に近づき、 実験データとの色差 ΔE00は 8.69 であった。これらの結果より、 O2-の 2p 主成分軌道を具体的に CI 計算に含めて計算し、 EXAFS データに基づく格子緩和を行なった場合に最も実験値に近づくことがわかった。

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