日本らい学会雑誌
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らい患者剖検例中にみられた原発性気管癌の一症例および文献的考察
小原 安喜子原田 禹雄松本 繁雄北市 正則古田 睦廣
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1984 年 53 巻 2 号 p. 54-60

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抄録
頻度の低い原発性気管癌の一剖検例を経験したので報告する。症例は男子,死亡時68歳,鎮静期のらい腫らい症例。1933年,らいの診断を受け,1941年らい療養所に入所した。山仕事を職とし,喫煙を好む。1950年,喉頭らい病変のため呼吸困難を来たし気管切開が行われた。プロミンによりらいは鎮静し,1964年以後,菌検査は死亡時まで陰性であった。気管切開孔には死亡の20年前頃より廉瀾•炎症がみられたが,喉頭部の癒痕性変形があり,呼吸と痰喀出のため,気管切開孔の外科的閉鎖は見送られた。使用された金属カニューレはその後32年間洗滌のための着脱を毎日1~2回行っていた。1982年2月,呼吸の異常と全身状態の異常を訴えて来診し,月に死の転機をとった。剖検により気管切開孔より気管分枝部に向って6cm位の長さで気管内腔全周を占める腫瘍病変をみた。弾性硬,灰黄色,表面に細かい凹凸のある腫瘍で一部白苔状となっていた。組織学的には癌真珠を形成している高分化扁平上皮癌であった。骨髄には顕微鏡的肉芽腫形成があり,多核巨細胞が出現している。肝内には顕微鏡的らい病変の残存をみた。リンパ節はT-B領域共に荒廃,古い結核結節,脂肪様物質を処理しているとみられる多核巨細胞の出現等多彩な像を示す。睾丸,神経の線維化は著明である。
考按:原発性気管癌は極めて頻度が低い。文献によると男子,60歳代,多喫煙者に発生が多い。本例は男子,68歳多喫煙者であると共に,金属カニューレを連日着脱して局所の機械的刺激を繰り返した部位より発生し,カニューレ使用のまま煙草を多く常用し,煙草成分の刺激増強,刺激の局所滞溜があったと思われる。また,リンパ節所見から,基礎疾患であるL型らいの経過中に免疫系の機能低下があったことが示唆され,上皮細胞の癌化とその進展に際し監視機能が不充分あったでことも,この稀な癌の成立にかかわりがあるものと思われた。
此の研究に関する費用の一部は,国立療養所,治療研究費によって購われました。ここに謝意を表します。
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