地理学論集
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研究ノート
長崎県における国際観光の動向と展望
北田 晃司
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2015 年 89 巻 2 号 p. 56-66

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抄録

近年,わが国では国際観光が着実な成長を続けている地域と,停滞傾向にある地域の差が拡大している。本研究においては,特に2000 年代以降停滞傾向が続いている長崎県を例に,その背景の分析および停滞状況からの脱却に向けての展望を行った。 長崎県は400 年以上にわたり外国と交易を行ってきた伝統があり,海外との交流の中で形成された独自の文化を持っている。しかし日本を訪問する外国人観光客の多くは大都市でのショッピング,冬の雪景色,あるいは日本独自の文化的伝統などを高く評価する傾向があり,そのことがこれらの観光資源に恵まれない同県の国際観光の停滞に大きな影響を及ぼしていることが明らかになった。また長崎県の観光地は団体観光客への依存率がかなり高いこと,外国人観光客の間での知名度が日本人観光客に比べてはるかに低い観光地が多いことも,同県の国際観光の停滞の大きな要因であると考えられる。 このような状況にある長崎県の国際観光を立て直すためには,外国人観光客が観光地としての長崎県をより高く評価できる観光のあり方を提示することと,同県の観光地のもつ魅力を外国人観光客により積極的にアピールし,かつそれをより高く評価する可能性のある外国人観光客の属性を正確に評価することが重要と考えられる。前者については,2006 年に長崎市が開始した,様々な観光ルートを徒歩でめぐる「さるく」ルートを県内の他に市町村にも広げた上でより多くの外国人観光客に体験してもらうこと,後者については,ちゃんぽんに象徴される中国文化の影響や,ローマ法王からも称賛を受けている隠れキリシタンの伝統,さらにはこれらの様々な文化的伝統が同じ場所に共存し,かつ新たな文化を生み出しているという事実を外国人観光客に積極的に伝えていくことが挙げられる。そして今後は,時間や空間の多様性の確認を自らのアイデンティティとする地理学が国際観光により積極的に参入していくことが望まれる。

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© 2015 北海道地理学会
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