植生史研究
Online ISSN : 2435-9238
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仙台市富沢遺跡の モミ属花粉化石からのDNA 増幅と種同定に関する試み
長谷川 陽一鈴木 三男
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2013 年 22 巻 1 号 p. 3-12

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抄録
過去の植物の分布は,当時の堆積物に含まれる植物化石の分類群を形態形質を用いて同定することで明らかにされてきた。しかし,その分類群の同定は種子などの一部を除いて一般に属のレベルにとどまり,種のレベルで過去の植生を明らかにすることは難しかった。そこで本研究では,採集した花粉化石からPCR 法を用いてDNA を増幅し,その塩基配列を現生種のものと比較することで種の同定を試みた。仙台市富沢遺跡の約2 万年前の堆積物から双眼実体顕微鏡を用いてマツ科モミ属・トウヒ属の花粉化石を識別して取り出し,採集した花粉化石から葉緑体DNAのtrnT-trnL とtrnW-trnP の2 つの遺伝子間領域(それぞれ160 bp, 158 bp)を増幅して,種の識別を試みた。その結果,採集した花粉化石61 粒のうち,両遺伝子間領域で1 粒ずつ計2 粒の花粉化石からDNA の増幅が確認された。DNA の塩基配列を決定したところ,共にモミ属のDNA であり,ひとつは現生のモミ属5 種の塩基配列と少なくとも1 塩基の違いで異なった。もうひとつは現生のウラジロモミとシラビソの塩基配列と一致した。この結果,当時の仙台市には,現生モミ属樹種のうち少なくともウラジロモミまたはシラビソが生育していた可能性が示唆された。現在よりも寒冷な氷河期に,温かい南方に分布するこれらの樹種が北上して分布していたという意外な結果が得られた。
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© 2013 日本植生史学会

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