植生史研究
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日本のトウヒ属 バラモミ節樹木の現在の分布と最終氷期以後の分布変遷
野手 啓行沖津 進百原 新
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1998 年 6 巻 1 号 p. 3-13

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抄録

本州のトウヒ属バラモミ節は,最終氷期最盛期に分布拡大して,晩氷期以降現在までに分布縮小した。その分布縮小過程を検討するために,l)バラモミ節の現在における分布環境(水平分布,温度分布,積雪分布,混交樹種,分布量),2)最終氷期以降のバラモミ節球果の形態変化を既存資料から整理した。対象樹種は,最終氷期最盛期の堆積物から化石記録があるイラモミ,ヤツガタケトウ上,ヒメバラモミ,アカエゾマツの4種である。本州に分布するバラモミ節4種は,水平分布範囲が異なるが,いずれも年平均最深積雪深150cm以下の寡雪山岳でなおかつ暖かさの指数41から45の温度域に分布の中心をもつ。混交樹種と分布量から生育立地を検討した結果,これら4種の分布域は,植生帯を優占するオオシラビソ,シラベとブナの分布空白域にあたり,コメツガが優占する岩塊地に点在していることが多い。現在の本州におけるバラモミ節4種の隔離分布は,晩氷期以降の温暖・多雪化とそれに伴うオオシラビソなどの亜高山針葉樹類うブナの分布拡大によって生じたと考えられる。最終氷期最盛期の本州の低地には,現生バラモミ節4種の共通の祖先と考えられるバラモミ節個体群が広く連続的に分布したのが,晩氷期以降の原個体群の分断・縮小とそれに伴う形態変化によって現生バラモミ節4種が生じたと考えられる。

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© 1998 日本植生史学会
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