2023 年 30 巻 p. 13-20
もみじ饅頭餡剰余物「小豆皮」の菓子原料化技術開発
今井 佳積1,梶原 良2,谷本 昌太3,
西井 政隆4,空 一成4,柴田 賢哉5
Development of a technology for converting azuki bean skins, a surplus material of momiji-manju bean paste, into a confectionery ingredient
Kazumi IMAI, Ryo KAJIHARA, Syota TANIMOTO,
Masataka NISHII, Kazunari SORA, Kenya SHIBATA
Aiming to create a new confectionery produced locally for local consumption using a by-product of Hiroshima Prefecture (azuki bean skins), we developed processing technologies such as creating paste and creating powder, and evaluated the suitability thereof as a confectionery ingredient.
For the conversion of azuki bean skins into a confectionery ingredient, we investigated the particle size and physical properties of the crushed azuki bean skins through wet milling tests to confirm the suitability thereof as a confectionery ingredient, and then examined conversion into powder and paste. The functionality of azuki bean skins was evaluated, and the results showed that approximately 600 mg of polyphenol was contained per 100 g of powder, suggesting the possibility of added value when used in confectioneries.
An efficient processing method was devised to grind the bean skins after drying instead of wet grinding, and equipment was introduced to a company. As a result, high-quality powder with a stable particle size was obtained, and the technology transfer to the company factory was completed.
Keywords; by-product of Hiroshima Prefecture,azuki bean skins,polyphenol,confectionery ingredient
キーワード:広島県特産品副産物,小豆皮,ポリフェノール,菓子原料
近年の全国的な産業廃棄物や食品ロス削減の取り組みに伴い,広島県でも廃棄物の削減,適正処理及びリサイクルの促進による持続可能な循環型社会の構築を目指す動きが高まってきている. NPO法人広島循環型社会推進機構では「循環型社会形成推進技術研究開発事業」として理想とする循環型社会構築に将来的に貢献する研究を支援しており,県総合技術研究所でも各センターが其々の専門分野に係るリサイクル関連の研究を行っている.この中で県内菓子業界では,和菓子の漉し餡製造工程で排出される小豆の皮を菓子材料等に加工し有効活用することについて関心が高まってきた.
広島県の代表的土産銘菓として知られる「もみじ饅頭」は主として漉し餡を使用しており,菓子製造企業や製餡
所では日々大量の漉し餡が製造されている.原料の小豆は昔から日本で食べられていた豆類の中でもタンパク質含量が比較的高く,食物繊維やポリフェノールも豊富であり,体に良い栄養素を多数含む食品として従来から注目度の高い食材である1).小豆ポリフェノールに生体への酸化防止効果や肝臓保護作用があることや2),小豆に含まれるスタキオースが整腸効果を示すプレバイオティクスオリゴ糖として注目されており,小豆摂取による整腸作用に加えビフィズス菌増殖作用によるプロバイオティック効果も期待されている3).
この小豆を煮て皮を取り除き,実の部分を晒し水分を絞ったものが漉し餡となり皮が排出されるが,食物繊維やポリフェノールは主に皮の部分に含まれ,近年では小豆皮の抗酸化性等の健康機能にも注目が集まっている4). 実際に小豆皮成分をマウスに投与した研究報告でマウス血管中の活性酸素が抑制され,動脈硬化症予防改善剤としての効果が示された等5),健康補助食品としての活用も期待されている. そこで,本県でも小豆皮の有効活用に向けて,ペースト化や粉末化による菓子原料への利用の可能性を検討した.
和菓子企業の中には,小豆皮を練り込んだ焼き菓子や,小豆皮粉末を最中種(最中の皮部分)に混ぜ込んだ商品製造例も見受けられる.しかし,漉し餡製造時に回収される小豆皮は大量の水分を含むフレーク状で,保存性やハンドリングが悪く,菓子原料等の食品素材として活用するには 乾燥や粉砕等の加工処理が必要である.
本研究では,最初に湿式粉砕装置を用いた小豆皮の微粉砕技術と,粉砕物のペースト化や粉末化技術を開発し,ペーストや粉末を用いた菓子の試作とその評価を行った. 菓子材料として扱いやすい粉末への加工について,さらに簡便で効率的な工程を実験室規模で確認した後,工場規模の機器導入による加工実証とともに,加工品を用いた菓子の試作を重ね,実際の販売商品に活用することを目標とした.さらに,小豆皮の加工品を用いた製品の消費者への訴求力向上や食品素材としての有用性について明らかにするため,小豆に含まれる機能性成分や栄養成分を調査し,全粒小豆や生餡との比較を行った.
実験方法
1.湿式粉砕加工試験と菓子原料適性調査
(1)試料
広島県菓子工業組合員企業の製餡工場で漉し餡製造時に排出された脱水処理済(水分70-75%)の小豆皮を1kgずつ真空包装し-20℃で保管した. 使用直前に流水解凍し試験に用いた.
(2)試験方法
ⅰ)粉砕試験
粉砕には石臼式粉砕装置(スーパーマスコロイダーMKCA6-2Jα,増幸産業(株))を用いた.マスコロイダーは2枚の砥石の一方を固定し,もう一方を高速(3,000rpm以下)で回転させ,上下の砥石の間に水分を含んだ試料を通過させてすり潰しながら粉砕する湿式粉砕装置で,砥石の隙間を10μm間隔で調整でき,砥石間隔や回転数を調整することで様々な粒径に粉砕することが可能である.本研究では目の細かさが異なる2種類の砥石を用い,一定の回転数(本試験では2,000rpm)で砥石間隔を変えて3段階の粒径を想定し粉砕試験を行った.流水解凍した小豆皮約1kgに適量の水を加えて小豆皮懸濁液を作成し,まず粗粉砕処理として目の粗い石臼(46番)で砥石間隔100μmで粉砕した後,間隔を0μmとし,100μm粉砕液をさらに加水しながら粉砕処理した.この粗粉砕液について,微粉砕用の石臼(80番)で砥石間隔-200㎛で処理し,約11Lの微粉砕処理液を得た.
ⅱ)粒度分布評価
粉砕品質を確認するため,レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2200,(株)島津製作所)を用いて懸濁液の粒度分布測定を行った. 測定試料はマグネティックスターラーで攪拌しながらピペットで採取し流動相へ滴下した.物質名を「澱粉」として測定条件を自動設定し,屈折率1.40-0.20i,粒子径の出力範囲は0.1~500㎛であった.
ⅲ)湿式粉砕物の乾燥,粉末化及びペースト化
ⅰ)の小豆皮微粉砕処理液を粉末化とペースト化の試験に供した. 粉末化では噴霧乾燥装置(ニロ.アトマイザ-社製ポ-タブルマイナ-型)を使用した.作動条件は入口温度180℃,出口温度70℃から90℃とし,流水速度1,500mL/hで稼働させた.得られた乾燥粉末を回収し品質確認のための粒度分布測定を行った.次に,粉砕処理液の水分を除去するペースト化を試みた.大型高速冷却遠心機(KUBOTA,Model 7000)に連続ローター(C850)を取り付け,ローターには試料注入用と水分排出のチューブを取り付け,室温条件で遠心(3,000rpm)しながら粉砕処理液をローター内に連続注入した.チューブから水分を排出させローター内部に蓄積したペースト状の小豆皮粉砕物を回収した.
ⅳ)菓子試作と評価
菓子組合員企業で小豆皮ペーストを生地に用いた饅頭及び煎餅の試作品を製造した.饅頭では生地に重量の2.6%の小豆皮ペーストを配合し,他は通常の工程で焼成した.煎餅は通常品で用いる煎餅用餡の10%を小豆皮ペーストに置き換えて焼成した.
ⅴ)冷蔵保存時の品質検査
小豆皮原料,加工後のペーストいずれも冷凍保存(-20℃以下)が基本であるが,現場での取り扱いを想定し,冷蔵(4℃)保存時の一般生菌数を測定し保存品質を確認した.小豆皮は製造(回収)日および冷蔵保存4,7,14及び21日目,ペーストは製造日及び冷蔵保存後7日目に,標準寒天培地による希釈平板法で38℃,48時間培養後,コロニー数をカウントして一般生菌数を求めた.
2.小豆皮原料乾燥および粉砕による粉末化試験
(1)試料
小豆皮は,2016年6月(採取時平均含水率76%)と,2017年11月(採取時平均含水率69%)に製餡工場で採取し-20℃で保存しているものを用いた.
(2)試験方法
ⅰ)実験室規模試験
①乾燥試験
食品乾燥装置(パ-フェクトオ-ブンPV-210,タバイエスペック(株))を用いた.内部は棚板60cm×60cm,2段仕様であり,各段にステンレス網トレーを4枚ずつ,計8枚並べ,トレー1枚に0.25kgの小豆皮を広げ1段1.0kg,1回2.0kgの乾燥条件とした(図3).70℃6時間の熱風乾燥処理を2回実施し,1回目は各トレーでの2時間毎の含水率測定,2回目はトレー全体の重量測定による蒸発水分量算出により,時間経過に伴う各トレーでの乾燥状態を観察した.含水率測定は赤外線水分計(FD-800,(株)ケット科学研究所)を用い,各トレーのサンプル約3.0g用いて3回測定し平均含水率を算出した.
②粉砕試験
小型微粉砕装置(ファインパウダーミルFM-100,ラボネクト(株))を用い,①で得た乾燥小豆皮の粉砕試験を実施した.電圧100Vで電流最大12.5Aに保ち,1回につき約100gの乾燥品をホッパーに投入し排出粉末を回収した.実験1(2)ⅱ)と同様に粒度を確認した.
ⅱ)実規模試験
乾燥設備として,大型食品乾燥装置(DSK-10-3,静岡製機(株))を製餡工場に導入した(図7).棚板にカゴトレー(666mm×482mm×55mm)を10段セットでき,最高温度70℃でプログラム運転が可能な仕様であった.条件検討の結果,カゴトレー1枚に約1.0kgの脱水済小豆皮を広げて10段全てにセットし,70℃で6時間送風乾燥した後,室温(20-30℃)で送風を持続し,回収時まで乾燥状態を保持するプログラムでの乾燥実証試験を行った.試験に用いた小豆皮試料の水分含有率が70~75%とばらつきがあったため,乾燥度合いは触手確認し,乾燥が不完全な際は送風乾燥時間を延長した.
粉砕装置は宝田工業(株)の小型高速微粉砕装置(SA-2CS-2)を導入した(図8).繊維質の多い素材に対応し,ピンミルの外側に設置した特殊なスクリーンを通過した微粉末だけが回収される構造であった.
ⅲ)試作試験
菓子組合員企業で,もみじ饅頭や煎餅で工場の実機による試作を行い,生地への混ぜ込み易さ,焼き上がり時の状態,食感等を調査した.饅頭では生地重量全体の約5%,煎餅は生地重量全体の10%以上および5%以内での割合で小豆皮粉末を配合し,通常工程で製造した.
3.加工品の各種成分調査
(1) 小豆皮の機能性評価
ⅰ)試料
①小豆原料
組合員企業で漉し餡原料として使用している普通小豆はそのままで,漉し餡製造時に回収した小豆皮は乾燥後,カッターミル粉砕して用いた。
②小豆皮加工品
小豆皮をマスコロイダーで湿式粉砕処理した試料(粉砕処理液)をフリーズドライ(以下FD)及びスプレードライ(以下SD)しその粉末を用いた.小豆の煮汁(菓子組合員企業で漉し餡製造時に回収)はFD処理した粉末試料を用いた.
ⅱ)測定方法
①DPPHラジカル消去活性の測定
試料の抽出は,粉末試料0.1gに対して80%エタノール1.5mLを加え撹拌した後超音波洗浄機(ULTRA sonic 28X,KEY DENTAL INTERNATIONAL)で5分間処理し,氷上で5分間静置後再度撹拌した.その後,遠心分離(0℃,15,000rpm,15分)し上清を5mLチューブに移し,残渣に再度80%エタノールを1.5mL追加して遠心分離まで同様に行い,それぞれの上清を合わせて試料とした.測定は,濃縮した試料及びTrolox標準液(0~1.0mM)30µLをマイクロチューブに採取し,DPPH working solution(400mM DPPH水溶液,400mM MES緩衝液,超純水=4:1:3)570µLを添加し,撹拌後遠心分離した(室温,10,000g,2分). 反応試料を96穴マイクロプレートに200µLずつ分注し,20分以内にマイクロプレートリーダー(SPECTRA max 340PC,Morecular Devices)で520nmの吸光度を測定した.DPPHラジカル消去活性の単位は,既知のTrolox濃度を用いて作成した検量線から算出した各試料のTrolox当量とした.実験は1試料につき3回行い,その平均値として表した.
抽出は試料0.1gにヘキサン-ジクロロメタン溶液(1:1)を4mL加えて撹拌し遠心分離(室温,5,000rpm,10分)後,上清を新しい試験管に移して沈殿で同操作を繰り返した。上清を合わせ窒素ガスで揮発乾固させ,アセトンを添加し溶解混合したものをL-ORACの分析試料とした.沈殿部分は暗所,常温で数日間静置し溶媒を完全に揮発させた.この乾燥物にAWA溶液(アセトン:超純水:酢酸=70:29.5:0.5)を5mL加え30秒撹拌後,5分間超音波処理を行った.室温で10分静置後30秒撹拌し,遠心分離(室温,10,000rpm,10分)した.上清を新しいプラスチックチューブに移し,沈殿部分は上記の操作を再度行い,上清を同じプラスチックチューブに移し,H-ORACの分析試料を抽出した.分析は抽出試料と標準溶液(Trolox)に蛍光プローブFluoresceinを添加し,ラジカル開始剤であるAAPH(2,2'-Azobis(2-methylpropionamidine) dihydrochloride)を用いて活性酸素を発生させた.活性酸素でFluoresceinが酸化されると酸化物は蛍光を有しないため蛍光強度が継時的に減少するが,試料が抗酸化力を有すると活性酸素が消去されFluorescein酸化が抑制されるため,蛍光強度が持続する.この強度変化を蛍光マイクロプレートリーダーで測定した.96穴マイクロプレートにTrolox標準液(L-ORAC:25µl,H-ORAC:20µl),分析試料(L-ORAC:25µl,H-ORAC:20µl),Blank, Fluorescein溶液を分注撹拌し加温後,AAPH 溶液を分注・振とう撹拌し,37℃に加温した蛍光マイクロプレートリーダー(FLUOROSKAN ASCNT FL,Thermo SCIENTIFIC)で蛍光強度の経時変化を90分間測定した.測定後,蛍光強度を経時的に記録したグラフの曲線下の面積(AUC)からブランクのAUCを差し引いた値(netAUC)を求めた.各試料の定量値は,同様の方法で求めた既知の濃度(L-ORAC:0~100µM,H-ORAC:0~50µM)のTroloxを用いて作成した検量線から算出した各試料のTrolox当量とした.実験は1試料につき3回行い,その平均値として表した.
③ポリフェノール含有量
①の方法で試料を調製し試料と蒸留水を各150µL混合した.一方で没食子酸標準液(0~1.0mg/mL)は80%エタノールに溶解し作製した. 標準液および試料に10倍希釈したフェノール試薬を300µL添加し,5分間室温静置後10%炭酸ナトリウム溶液300µL添加・撹拌し,室温で1時間放置後,遠心分離(室温,10,000g,1分)し反応試料を96穴マイクロプレートに300µLずつ分注し,マイクロプレートリーダーで750nmの吸光度を測定した.各試料のポリフェノール含有量は,没食子酸による換算当量で示した.実験は1試料につき3回行い,その平均値として表した.
④アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性
粉末試料0.1gに超純水4.0mL加えて撹拌後,室温で1時間振とう後,遠心分離し得られた上清を分析試料とした. 測定は,96穴マイクロプレートに希釈した分析試料50µLまたは超純水(Control)50µLを加え,次にプレート左半分にACE溶液(10mU/mL,ウサギ肺由来,Sigma社製),右半分に超純水(Blank)を各100µLずつ添加し,振とう撹拌し,37℃,10分加温した. 次に基質として25mM Hip-His-Leu(HHL)溶液を添加し撹拌後,37℃で40分間反応させ,1N NaOH溶液を加え反応を停止させた. O-フタルアルデヒド溶液10µLを添加し15分反応させた後,蛍光マイクロプレートリーダーを用いて蛍光強度を測定した. 試料液使用時の蛍光強度と超純水(Control)使用時の蛍光強度の比率をもとに阻害活性を算出し,試料添加量を横軸,阻害活性を縦軸にプロットし,ACE阻害活性を50%阻害する試料重量をIC50として算出した.実験は1試料につき3回抽出しそのIC50を求め,平均値として表した.
⑤統計解析
平均値の差の検定は,IBM SPSS Statistics 23を用いTukeyの多重比較検定(p<0.05)を行った.
(2)栄養成分分析値の比較
小豆皮加工品の菓子材料への使用に当たり,栄養面や機能性でのメリットについて検討するために,原料小豆皮の栄養成分を依頼分析した(一般財団法人食品分析開発センター(SUNATEC)).依頼試料として試験2-1)の乾燥試験で得た乾燥品約1㎏分を送付した. 分析項目は一般栄養成分のほか,小豆に特徴的な成分を考慮し,エネルギー(熱量),水分,たんぱく質,脂質,炭水化物,灰分,糖質,ナトリウム,カリウム,亜鉛,ビタミンB1,B2,B6,食物繊維(水溶性及び不溶性),ポリフェノール及び食塩相当量(ナトリウムからの換算)とした.得られた各栄養成分値について,日本食品標準成分表(2020)に掲載されている,全粒小豆及びさらし餡の栄養成分値と比較した.
実験結果および考察
1.湿式粉砕加工試験と菓子原料適性調査
石臼式粉砕装置の設定条件別粒度分布を表1に示した. 砥石の番手が大きくなるに従い細かい粉砕物ができるため,全体的な粒度も小さくなる傾向が認められた. 石臼式粉砕装置では目的別に条件を変えて小豆皮を粉砕処理することが可能であり,広範囲な用途での粉砕加工の可能性が示された.
小豆皮に加水して湿式粉砕した懸濁液を噴霧乾燥処理して得られた小豆皮粉末の最終的な回収率(回収粉末/小豆皮1kg固形分)は約64%であった.得られた粉末の粒度と,対照として一般的な市販の漉し餡粒度を測定した(図1),微粉砕処理液の粒度分布は市販の漉し餡に比較して広範囲であるが,平均粒度は微粉砕処理液86㎛,市販漉し餡117㎛,メディアン径(全体の真ん中の大きさ)
連続ロータ―で脱水処理して得られた小豆皮ペーストの水分量は約85%で市販の漉し餡に近い物性であった.
粉末加工品及び湿式粉砕液を脱水処理して得られたペーストを用いて製造した試作品を図(写真)2に示した. 饅頭,煎餅とも,通常品と比較して色が濃くなり,小豆皮の特色を生かせるものと考えられた.一方でペーストの水分を考慮し,饅頭や煎餅生地の水分量を調整する等,菓子原料へ活用するには使用材料の全体的な配合を再構成する必要があると考えられた.
小豆皮原料の菌数測定の結果,工場での脱水回収直後の一般生菌数は104CFU/gであった. その後冷蔵保存下で2,4,7,14及び21日(3週間)目に菌数測定した結果,7日経過頃から菌数が106CFU/g以上となり,以降増加傾向が続いた. ペーストでは加工直後の菌数が105~107CFU/gであり,1週間後さらに増加傾向を示したことから,小豆皮原料,ペーストとも即時冷凍保存が必要であると考えられた.
2.小豆皮原料乾燥処理と乾燥品粉砕による粉末化試験
湿式粉砕処理によるペースト化や,噴霧乾燥による粉
末化での,加工品品質や工程の煩雑さ等の課題を踏まえ,小豆皮を熱風乾燥し粉砕する方法について,乾燥・粉砕条件の検討や加工品の品質評価を実施した.さらに,工場規模での実証と菓子試作により,小豆皮粉末を用いた菓子の商品化と,加工品の菓子材料としての活用に向けた技術移転や普及に取り組んだ.
(1)実験室規模試験
①乾燥試験
食品乾燥装置内部とトレー位置を図3,トレー位置別含水率の測定結果を図4,トレー位置別水分量変化を図5に示した.使用した脱水小豆皮試料は, 1回目試験では脱水時間1.5分,含水率76%,2回目試験では脱水時間5分,含水率69%であった.1回目は棚板上段奥側の①,②で乾燥が早く,下段手前⑧で4時間後も比較的水分量が高い等場所により乾燥の傾向は異なったが,6時間後にはいずれの場所も4%台に低下し,平均含水率は4.4%であった. 2回目は含水率の低下が早く,3時間乾燥後の
板面積は工場導入予定の大型食品乾燥機の棚板とほぼ同じであるが,棚板が10段となるため,同様に一段に1.0kgの脱水小豆皮をセットし,1回10kg程度の脱水小豆皮乾燥処理を想定し現場での乾燥条件を検討することとした.
②粉砕試験
乾燥処理した小豆皮の小型微粉砕装置での平均粉砕速度は約0.60kg/hであった. 粉砕品の粒度分布測定結果を図6に示した.平均粒子径は約38.8㎛であったが,粒度分布が広く,研究用の小型機で粉砕効率も低いため,工場には均一な粒度の加工品を効率的に製造できる大型食品乾燥装置(図7)と高速微粉砕装置(図8)を導入した.
微粉砕装置は細かい粒子を選別するスクリーンを装備した機器で粉砕テストを依頼した.テストでの処理速度は約3.3kg/hであった.加工品の平均粒子径は111μmで粒度分布も一定し,ロスもなく均一な粒子を効率的に製造できることが判明したため(図9),企業工場へ導入し実証試験を行った.
大型食品乾燥装置での乾燥品含水率は約4.0~6.0%であり,そのまま粉砕処理に用いた.粉末処理時間は乾燥品10kgあたり1.5時間であった. 乾燥・粉砕の一連の加工を1セットとして,脱水小豆皮10kgの乾燥及び粉砕処理,に係る光熱費を試算した. 工場導入した食品乾燥装置と高速微粉砕装置の乾燥・粉砕各条件下の消費電力を算出し,工場での契約種別電気料金(1kWh13.37円)から電気代を試算した結果,乾燥機では1.6kW/h,6時間 で132円(小豆皮乾燥品3kg分),小型高速微粉砕機では2.7kW/h,1時間半で54円,乾燥機と合わせて計186円となり,粉末1.0kgの製造コストは約62円であった.
(2)試作品製造
小豆皮粉末を使用し試作した饅頭を図10,煎餅を図11に示した. いずれも生地に小豆らしい色づきがみられた.煎餅では生地重量全体の10%以上の小豆皮粉末配合品では生地が固くなり粉末の2倍重量の加水を要し,配合5%以内では,少量の加水で軽い食感で小豆らしい色の煎餅が出来た. 商品化に向けた試作の結果,饅頭生地に使用した場合,小豆皮は水分を吸いやすく,他の材料との均一な混合が難しい為,水分量の調整が必要であることや,製造後日数に伴う食感の変化も見られたことから,配合量等の改良が必要であると考えられた.煎餅では適度な小豆らしい色合いと軽い食感が得られたため,粉末の配合量を確定し商品化する計画がすすめられた.
3.加工品の各種成分調査
(1) 小豆皮の機能性に関わる各成分調査
小豆皮に含まれる可能性がある機能性として,体内活性酸素を抑制・除去する働きのある抗酸化性や抗高血圧
機能に着目し,小豆皮の機能性評価を実施した.
DPPHラジカル消去活性測定結果を図12,総ORAC測定結果を図13に示した. いずれも煮汁で高く,ついで原料小豆が高い値であった. 小豆皮については原料,加工後,加工法に関わらず低い値であった. ポリフェノール含有量(図14)も小豆煮汁で高かった(177mg/g乾物).
また小豆皮乾燥品でのポリフェノール含量が367mg/100gであったのに対し,小豆皮処理液のFD,SDにおけるポリフェノール含有量は約600~700mg/100gであった. 一般食品に含まれるポリフェノール含有量と比較すると,「煎茶」浸出液では160mg/100g,リンゴ,柿,温州ミカン等の果物は40-80mg/100gであり6),小豆皮の粉末加工品を食生活に取り入れることでお茶や果物と同様にポリフェノールを摂取出来ることが期待された.
ACE阻害活性値は皮を含む試料ではいずれも検出限界以下であった.煮汁のIC50値(mg DW)が低く,煮汁のACE阻害活性が高いことが示された.
(2) 栄養成分分析値の比較
依頼分析による小豆皮乾燥品の分析結果と日本食品標準成分表掲載の全粒小豆及びさらし餡の栄養成分値を表2に示した. 全粒小豆やさらし餡と比較して,皮の栄養成分はエネルギーの値が低く,食物繊維は3倍近い値となっていた.
日本人の食生活における食物繊維の必要量は,2015年国民栄養健康調査によると,生活習慣病の発症予防の観点から,成人で1日24g以上,できれば1,000kcalあたり14g摂取するのが理想とされている. しかし実際の摂取量は20歳以上で1日平均15gであるため,理想的な値と実際の摂取量の中間的な値を目標摂取量として成人男性は1日20g以上,女性は1日18g以上が設定されている7). 前述の試作品のように菓子材料の一部を小豆皮粉末に置き換えた場合には熱量や糖質が抑えられると同時に食物繊維を豊富に摂取できるなど,栄養成分の観点から商品力を高めることも可能になると考えられた.
本研究で得た小豆皮の粉末化技術を菓子業界へ情報共有し技術移転することで,菓子材料への活用と商品化に寄与することができた. また,こうした食品副産物について,菓子以外の食品企業も視野に入れた新たな食品素材としての幅広い活用を目指し,公設試として,今後も継続的な技術支援が必要であると考えている.
要 約
広島県特産品の副産物(小豆皮)を用いた新たな地産地消菓子の創造に向けて,ペースト化や粉末化等の加工技術開発及び菓子原料としての適性評価を行った.
小豆皮の菓子原料化に向けて,湿式粉砕による微粉砕試験により粉砕物の粒度や物性を調査し菓子材料としての適性を確認した上で,粉末化やペースト化を検討した.小豆皮の機能性を評価した結果ポリフェノールが粉末100gあたり600mg程度含まれ,菓子利用時の付加価値となる可能性が示唆された.
湿式粉砕でなく皮を乾燥後粉砕する効率的な加工方法を考案し企業への機器導入を行った結果,粒子径の安定した良質な粉末が得られ,企業工場への技術移転を完了した.
本研究はNPO法人広島循環型社会推進機構の公募事業「循環型社会形成推進技術研究開発事業」(平成27~29年度)の受託研究を中心に実施したものである.研究の遂行にあたり多大なご協力をいただいた,株式会社にしき堂および広島県菓子工業組合員企業の皆様に深謝する.
文 献
機能性成分・評価情報データベース,農研機構(2020)