Public Health Nursing Education
Online ISSN : 2433-6890
Research Article
Relationship between Essential Skills, Training Systems and Achievement Levels in Municipalities Public Health Nursing Practical Training
Shizuko OmoteEmiko KishiSachiko YoshiokaTakashi NaruseWaka ItoiYukiko MochizukiMisako SakamotoHumie TsuchiyaChiyo Igarashi
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2019 Volume 3 Issue 1 Pages 72-82

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Abstract

目的:市区町村の公衆衛生看護学実習における技術項目の体験が実習体制や実習終了時の到達割合と関係するかについて明らかにする.

方法:全国704市区町村の実習指導者1名に,郵送で質問紙調査を実施した.体験を8割以上と未満に分類し,体験割合を従属変数,実習指導体制を独立変数とする多変量ロジスティック回帰分析(強制投入法)により解析した.

結果:180機関を分析対象とした(有効回答率25.6%).実習生数は平均6.4±9.4人,実習日数は平均12.4±6.5日であった.実習日数は「家庭訪問/1例以上の主体的な継続訪問」,「健康診査/主体的に実施」など9項目の体験割合と有意に関連した(Odds rate=1.301から1.104).養成所の教員と連携がよく行えていることは,「健康診査/見学後主体的に実施」と有意に関連した(Odds rate=8.698).

考察:体験割合を高めるには,実習日数の延伸,市区町村保健師と教員の連携の強化,実習中の教員の指導の充実が重要であると示唆が得られた.

Translated Abstract

Purpose: To clarify the relationship between essential skills, training systems and achievement levels in municipality public health nursing practical training.

Method: A questionnaire was sent to 704 municipalities nationwide, and one trainer per facility that accepted practical training was asked to fill it out. Practical experience was classified as 80% or more, and the relationship between the practical training system and each experience item was analyzed by multivariable logistic regression analysis.

Results: Data from 180 organizations were analyzed (effective response rate 25.6%). The average number of students was 6.4 ± 9.4, and practice period was 12.4 ± 6.5 days. The experience rate of 9 items such as “home visit/one or more actual continuing visits” and “health examination/actually experience” was related to the period of practice (Odds rate=1.301 to 1.104). With good collaboration between the practical trainer and teachers, the rate of “health examination/acting independently following involved observation” increases significantly (Odds rate=8.698).

Discussion: In order to increase the rate of experiences; longer period of practice, better collaboration between public health nurses and teachers, and better instruction during practical training by teachers were suggested to be an important approach.

I. 緒言

保健師助産師看護師学校養成所指定規則(以降,指定規則)の改正により,2011年に公衆衛生看護学実習の単位数は4単位から5単位に増加した.さらに,個人と地域全体を連動させながらとらえ,地域全体にPDCAを展開する過程を学ぶ実習,家庭訪問を通して地域の健康課題を理解することができる実習とすることが留意点として記載された(文部科学省,2011).厚生労働省は,保健師基礎教育修了時に獲得すべき能力として「保健師に求められる実践能力と卒業時の到達目標と到達度」を示しており(厚生労働省医政局看護課,2008),2010年の改正に伴い目標は61項目から71項目に増加した(厚生労働省,2010).臨地での教育は保健師活動実践能力の基礎的能力を培うために重要であり,これらの目標に到達するためには,実習で様々な体験を積むことが求められる.

実習における学生の体験については,保健師学校養成所(以下,養成所)の教員や学生を対象とした調査報告がある(岡本ら,2011西田ら,2017).鈴木ら(2016)が東京都特別区内7大学の学生を対象に実施した実習体験に関する調査では,家庭訪問の同行や健康教育は全員が体験し,体験割合が8割以上の項目は15項目中10項目と半分以上を占めていた.一方で,実習指導者を対象とした調査において保健師は,卒業時の到達目標に到達した割合が8割以上の小項目は全くなかったと評価しており,最も高く評価された項目でも達成した学生の割合は77.6%に留まっていた(鈴木ら,2015).対象と地域が限定されているものの,目標達成に関して保健師のほうが厳しく評価している様子が窺える.

2017年度厚生労働省医政局看護課看護職員確保対策特別事業として「保健師学校養成所における基礎教育に関する調査(以下,保健師基礎教育調査)」が行われ,その一部として「保健師実習機関における教育方法と教育成果の実態調査(以下,実習機関における実態調査)」(全国保健師教育機関協議会,2018)が行われた.全国の養成所の実習機関を対象とした初めての調査であるが,行政機関の実習において学生が体験した技術項目,専門領域は保健所・市区町村を統合した各項目の平均では8割を超える項目がないという結果であった.行政機関は保健所・市区町村それぞれが実習施設となっており活動領域や業務の特徴が異なることから,別々に検討が必要である.

実習において学生の体験や到達割合を高めるためには,養成所の教員が実習指導に携わる保健師と十分に連携することが不可欠であるが,連携に関する報告は見あたらない.また,実習指導者が学生の体験をどのように評価しているかについても明らかではない.

そこで本研究では,技術項目の体験が実習体制や実習終了時の到達割合と関係するかについて明らかにすることを目的とした.本研究は,技術項目の体験に焦点をあて,体験の程度に関わる要因を検討した初めての報告である.結果は,公衆衛生看護学実習における学生の実習体験の充実と,保健師基礎教育終了時に獲得すべき能力の向上を検討するための資料になると考える.

II. 方法

1. 調査対象

本研究は,実習機関における実態調査(全国保健師教育機関協議会,2018)のデータを用いて行った.この調査のデータ収集の方法は下記のとおりである.

対象は全国の483保健所と,人口2,000人以上の自治体から無作為抽出した704市区町村を対象機関とした.養成課程のなかでも大学院は少数であるため,無作為抽出とすると実習を受け入れた施設が抽出されない可能性がある.そのため,大学院の実習を受け入れている自治体は,上記の無作為抽出から除外し対象機関とした.2017年度に養成所の実習を受け入れた実習指導者1名に回答を依頼し,該当者が複数いる場合は1名の選択を所属長に依頼した.本研究では,公衆衛生看護学実習における学生の技術体験について検討を行う目的から,市区町村から得た回答を分析対象とした.

2. データ収集方法

郵送による無記名自記式質問紙調査を実施した.調査期間は,2017年12月~2018年1月であった.

3. 調査項目

1)回答者の概要は,性,年齢,保健師経験年数を問うた.

2)実習指導体制は,2017年度に市区町村が実習を受け入れた1養成所の,実習生数,実習日数,実習依頼方法を問うた.実習指導者がとらえる養成所との実習準備,実習生の学習準備状況,実習中の教員の指導,教員との連携については,「よく行えている」,「まあまあ行えている」,「あまり行えていない」,「行えていない」の4択とした.実習指導に関する所属機関内の保健師同士の連携は,「とてもよくできている」,「まあできている」,「少しはできている」,「あまりできていない」,「ほとんどできていない」の5択とした.また,実習体験として必要と考える機関や領域について自由記述での回答を求めた.

3)技術項目の体験については,全国保健師教育機関協議会保健師教育検討委員会の保健師教育におけるミニマム・リクワイアメンツ(2015)を満たす公衆衛生看護学実習の必須体験項目を参考にした.技術項目16項目について,学生の何割が体験したかを0から10で尋ね,各項目の体験割合を百分率で示した.

4)実習終了時の到達度は,「看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン」(厚生労働省,2010)の71項目の到達度を用い,回答対象として選択した養成所の学生が実習終了時に到達していた割合について回答を求めた.中項目ごとに小項目の回答の加算平均をとり,その中項目に関する達成度スコアを算出した.中項目ごとに,一部の小項目に欠損がある場合,その他の項目のみで加算平均を算出することとし,すべての小項目が欠損していた場合には,その中項目に関するスコアは算出せず欠損としてあつかった.

2),3),4)で回答の対象とする実習は,養成所が大学院,4年課程,大学(選択制),その他の優先順で,かつ直近であるという条件に合致する1実習を選択してもらった.

質問紙は,関東及び中部地方の保健所,市区町村保健師14名に機縁法で予備調査を依頼し,予備調査後に修正を加えて完成させた.

4. 分析方法

技術項目の体験については,到達度の基盤とされた麻原ら(2010)の調査において「保健師教育機関の卒業時点で8割以上の学生が到達できていること」が基準とされていること,厚生労働省の「保健師教育の技術項目の卒業時到達度」(2010)においても,指標は8割以上の学生が到達できているとの想定で設定されていること,先行研究(鈴木ら,2015;大宮ら,2017)でも同様の基準で検討されており比較が可能になると考え体験割合「8割以上」と「8割未満」の2値で取り扱うこととした.

養成所との実習準備,実習生の学習準備状況,実習中の教員の指導,教員との連携は,「よく行えている」とそれ以外の2値で分析に用いた.

全ての技術項目について,項目ごとに,実習指導体制と体験割合の関連を明らかにするため,χ2検定を用いた単変量解析で全体の傾向を俯瞰した後,体験割合を従属変数,実習指導体制を独立変数とする多変量ロジスティック回帰分析(強制投入法)を行った.さらに,体験割合と実習終了時の卒業時到達度の関連を明らかにするため,Spearmanの相関係数を算出した.分析はSPSS Statistics ver. 24を使用し,有意水準は5%とした.

5. 倫理的配慮

本研究は金沢大学医学倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号802-1,2017年11月15日承認).実習機関代表者ならびに実習指導者宛てに送付した依頼文書には,本研究への協力は任意であること,調査は無記名で行い回答者・回答機関の匿名性を確保すること,調査で収集したデータは目的外使用しないこと,協力しない場合に不利益がないことを明記した.調査票の返送をもって同意を得たものとした.

III. 結果

1. 回答者の概要

市区町村は245機関(回収率34.8%)から回答があった.回答者の平均年齢は44.9±8.9歳,性別は女性が242名(98.8%),平均保健師経験年数は21.3±10.0年であった.

2. 2016年度の実習指導体制(表1

市区町村の2016年度実習受け入れは189機関がありと回答し,うち未記入を除く180機関を分析対象とした.平均実習生総数は6.7±9.4(範囲:1–72)人,平均実習日数は12.4±6.5(範囲:2–41)日であった.実習日数1~5日は18機関(10.3%)であった.

表1  市区町村における実習指導体制(N=180)
平均±標準偏差(範囲) n %
総実習生数 6.7±9.4(1–72)
受け入れた実習の日数 12.4±6.5(2–41)
保健師学校養成所が実習を依頼した方法 都道府県を通して 85 48.3
養成所間で調整した後 22 12.5
養成所単独で直に 52 29.5
その他 17 9.7
保健師学校養成所との実習準備を行えている程度 よく行えている 45 25.0
まあまあ行えている 122 67.8
あまり行えていない 13 7.2
行えていない 0 0.0
学生の実習前までの学習準備を行えている程度 よく行えている 38 21.1
まあまあ行えている 116 64.4
あまり行えていない 25 13.9
行えていない 1 0.6
実習中の教員の指導を行えている程度 よく行えている 45 25.0
まあまあ行えている 115 63.9
あまり行えていない 20 11.1
行えていない 0 0.0
保健師学校養成所の教員との連携を行えている程度 よく行えている 39 21.8
まあまあ行えている 120 67.0
あまり行えていない 18 10.1
行えていない 2 1.1
実習指導に関する所属機関内の保健師同士の連携 とてもよくできている 57 23.5
まあできている 155 63.8
少しはできている 27 11.1
あまりできていない 4 1.6
ほとんどできていない 0 0.0

全国保健師教育機関協議会(2018):平成29年度厚生労働省医政局看護課看護職員確保対策特別事業,保健師学校養成所における基礎教育に関する調査報告書p. 105,p. 106より一部転載

養成所が実習を依頼した方法は,都道府県を通してが85機関(48.3%),次いで養成所単独で直にが22機関(12.5%)であった.養成所との実習準備は45機関(25.0%)が,学生の実習前までの学習準備は38機関(21.1%)がよく行えていると回答した.実習中の教員の指導は45機関(25.0%)が,養成所の教員との連携は39機関(21.8%)がよく行えていると回答した.

保健師課程の実習指導は141機関(59.5%)が1名の指導者で担当し,実習指導に関する所属機関内の保健師同士の連携は,とてもよく出来ていると57機関(23.5%)が回答した.

実習に必要であると考える施設や領域は,保健所153(85.0%),次いで地域包括支援センター136(75.6%),産業保健76(42.2%),都道府県庁36(20.0%),学校保健54(30.0%)と回答があり,その他には訪問看護ステーション,病院の地域連携室があった.

3. 技術項目における体験項目割合(表2

技術項目16項目について,2016年度に市区町村で受け入れた養成所1校について,実習時に何割の学生が体験したかを表2に示した.

表2  市区町村実習において学生が体験した技術項目の割合 (N=180)
技術項目 8割未満 8割以上 全体
n % n % n %
項目1  家庭訪問/2例以上の見学訪問 100 61.3 63 38.7 163 46.1
項目2  家庭訪問/1例の見学訪問 24 15.0 136 85.0 160 87.3
項目3  家庭訪問/1例以上の主体的な継続訪問 119 74.8 40 25.2 159 30.4
項目4  健康相談/見学もしくは参加 40 23.0 134 77.0 174 83.6
項目5  健康相談/見学後,主体的に実施 141 88.7 18 11.3 159 18.4
項目6  健康診査/見学もしくは参加 33 18.9 142 81.1 175 84.7
項目7  健康診査/見学後,主体的に実施 136 85.5 23 14.5 159 18.9
項目8  健康教育/主体的に実施 34 19.2 143 80.8 177 83.4
項目9  事例検討/主体的に実施 137 83.0 28 17.0 165 24.6
項目10 事例検討/見学後,主体的に実施 145 89.5 17 10.5 162 16.2
項目11 地域診断/実施(一地域にて) 31 17.7 144 82.3 175 86.1
項目12 事業計画立案・評価/説明もしくは見学 78 44.3 98 55.7 176 63.9
項目13 地区活動計画立案/説明もしくは見学 96 55.2 78 44.8 174 54.8
項目14 組織活動/見学あり 80 45.7 95 54.3 175 65.4
項目15 連携調整会議/見学あり 128 74.0 45 26.0 173 36.1
項目16 健康危機/災害と感染症の説明もしくは見学 116 67.4 56 32.6 172 39.6

注)欠損値を除外した

学生の8割以上が体験したと回答した機関が多かったのは,多い順に項目1「家庭訪問/1例の見学訪問」が85%,次いで項目11「地域診断/一地域にて実施」が82.3%,項目4「健康診査/見学もしくは参加」が81.1%であった項目1「家庭訪問/2例以上の見学訪問」は38.7%,項目3「家庭訪問/1例以上の主体的な継続訪問」は25.2%であった.見学後に主体的な実施とされている技術項目では,技術項目では,「健康診査」が14.5%,次いで「健康相談」が11.3%,「事例検討」が10.5%であった.

4. 実習指導体制と技術項目の体験割合

1) 実習指導体制と技術項目における体験割合の比較

実習指導体制との間にχ2検定で有意差のあった技術項目の体験割合について述べる.養成所との打合せ等の実習準備がよく行われていたという回答は,「事業計画立案・評価/説明もしくは見学」(P<.05),「地区活動計画の立案(地区管理)」(P<.01),「組織活動」(P<.05)の体験割合が8割以上と回答した者に有意に多かった. 実習中の教員の指導体制がよく行えていたという回答は,項目12「事業計画立案・評価/説明もしくは見学」(P<.01),項目13「地区活動計画の立案(地区管理)」(P<.05)の体験割合が8割以上と回答した者で有意に多かった.また,実習指導業務に関する養成所の教員との連携についても,「よく行えている」という回答は,項目12「事業計画立案・評価/説明もしくは見学」(P<.05),項目13「地区活動計画の立案(地区管理)」(P<.01)について体験割合が8割以上と回答した者で有意に多かった.

2) 技術項目の体験割合と実習指導体制との関係(表3

各技術項目の体験割合が8割以上となることに有意な関連を示した独立変数について述べる.受け入れた日数が多いことは,項目1「家庭訪問/2例以上の見学訪問」,項目3「家庭訪問/1例以上の主体的な継続訪問」,項目4「健康相談/見学もしくは参加」,項目8「健康教育/主体的に実施」など9項目に関連がみられた(Odds rate (OR)=1.301から1.104,P<.001).養成所の教員と連携がよく行えていることは,「健康診査/見学後主体的に実施」と関連していた(OR=8.698, P<.05).実習中の教員の指導がよく行えていることは,「事業計画立案・評価/説明もしくは見学あり」と関連していた(OR=3.773, P<.05).

表3  各技術項目の体験割合と実習指導体制との関連
項目1 項目2 項目3 項目4 項目5 項目6 項目7 項目8 項目9 項目10 項目11 項目12 項目13 項目14 項目15 項目16
実習指導に関する所属機関内の保健師同士の連携程度 0.978 0.947 0.794 1.513 1.044 1.212 1.093 0.902 1.047 1.034 1.723 1.168 1.381 1.997 1.067 0.792
総実習生数 0.957 0.980 0.904 1.032 0.756 0.999 0.766 0.988 1.007 1.041 0.991 0.990 0.999 0.984 0.979 0.952
受け入れた実習の日数 1.083** 1.110 1.068* 1.093* 1.082 1.044 1.089* 1.300*** 1.031 1.058 1.059 1.104** 1.054 1.080* 1.098** 1.064*
養成所が実習を依頼した方法
 都道府県を通して 0.947 2.379 0.401 1.284 0.632 0.772 0.303 3.871 1.350 1.128 1.543 0.972 0.520 1.460 0.775 0.815
 養成校間で調整後 0.782 0.971 0.918 0.856 0.243 0.982 0.422 6.935 1.228 0.373 0.638 1.178 0.848 1.576 0.837 0.883
 養成校単独で直に 0.958 1.859 0.904 2.055 0.866 0.845 0.129 6.009 1.457 0.449 1.653 1.721 0.752 1.807 0.320 0.374
養成所との実習準備を行えている程度(よく行えている/それ以外) 0.447 1.775 2.579 0.825 1.844 0.784 0.146 0.955 0.452 1.201 0.997 1.780 1.744 2.349 0.799 1.554
学生の実習前までの学習準備を行えている程度(よく行えている/それ以外) 1.541 0.730 0.966 1.315 1.003 2.870 3.378 1.694 1.314 1.784 2.589 0.574 0.463 1.086 1.630 1.362
実習中の教員の指導を行えている程度(よく行えている/それ以外) 1.198 2.923 1.347 0.480 0.950 0.529 0.535 0.539 1.469 0.942 1.313 3.773* 1.741 0.671 0.512 1.294
養成所の教員との連携を行えている程度(よく行えている/それ以外) 1.691 1.217 0.786 3.781 1.086 1.139 8.689* 1.081 0.663 0.411 0.293 1.055 2.158 1.161 2.247 0.839
〈モデル適合度〉Nagelkerke R2乗 0.132 0.118 0.175 0.126 0.167 0.053 0.313 0.265 0.037 0.104 0.090 0.194 0.148 0.152 0.176 0.147
有意確率 0.111 0.424 0.043* 0.168 0.234 0.856 0.002** 0.001** 0.969 0.658 0.508 0.004** 0.039* 0.032* 0.025* 0.061

注1)表中の値はORを示す.

注2)ロジスティック回帰分析(強制投入法)

注3)技術項目1から16は,項目1から項目16と表示した

5. 技術項目の体験割合と実習終了時の到達度の関連(表4

市区町村の実習指導者が評価した実習終了時点の学生の到達度スコアの平均値は,大項目I「地域の健康課題を明らかにし,解決・改善策を計画・立案する」の中項目では57.0%から64.4%,大項目II「地域の人々と協働して,健康課題を解決・改善し,健康増進能力を高める」の中項目は56.8%から65.4%であり,平均して6割程度の実習生が到達度に達しているという回答であった.一方,大項目III「地域の健康危機管理を行う」の中項目は36.3%から40.8%であった.大項目IV「地域の人々の健康を保障するために,生活と健康に関する社会資源の公平な利用と分配を促進する」の中項目「社会資源を管理・活用する」は30.5%で,中項目のなかで最も低かった.いずれもR2乗値は0.132から0.265であった.

表4  市区町村実習における実習終了時点での卒業時の到達度 (N=180)
大項目 中項目 %
個人/家族 集団/地域
I.地域の健康課題を明らかにし,解決・改善策を計画・立案する A.地域の人々の生活と健康を多角的・継続的にアセスメントする n=157 64.4 n=158 64.1
B.地域の顕在的,潜在的健康課題を見出す n=156 58.2 n=158 56.7
C.地域の健康課題に対する支援を計画・立案する n=155 59.2 n=158 57.0
II.地域の人々と協働して,健康課題を解決・改善し,健康増進能力を高める D.活動を展開する n=157 62.5 n=156 60.6
E.地域の人々・関係者・機関と協働する n=156 65.4 n=155 63.7
F.活動を評価・フォローアップする n=156 59.2 n=156 56.8
III.地域の健康危機管理を行う G.健康危機管理の体制を整え予防策を講じる n=148 40.8 n=150 40.4
H.健康危機の発生時に対応する n=141 40.0 n=143 39.8
I.健康危機発生後からの回復期に対応する n=141 36.3 n=143 36.4
IV.地域の人々の健康を保障するために,生活と健康に関する社会資源の公平な利用と分配を促進する J.社会資源を開発する n=151 49.6
K.システム化する n=149 45.4
L.施策化する n=149 48.4
M.社会資源を管理・活用する n=137 30.5
V.保健・医療・福祉及び社会に関する最新の知識技術を主体的・継続的に学び,実践の質を向上させる N.研究の成果を活用する n=137 39.2
O.継続的に学ぶ n=147 60.5
P.保健師としての責任を果たす n=144 61.9

注)欠損値を除外した

技術項目の体験割合と実習終了時の卒業時到達度スコアの相関を表5に示す.項目3「1例以上の主体的な継続訪問」は,卒業時の到達度の大項目I「地域の健康課題を明らかにし,解決・改善策を計画・立案する」,大項目II「地域の人々と協働して,健康課題を解決・改善し,健康増進能力を高める」の,全ての個人・家族に関する中項目と有意な正の相関があった.項目1「2例以上の見学訪問」は大項目Iの中項目「支援の計画立案」と有意な正の相関があった.項目12「事業計画立案・評価」は,大項目IIの「評価・フォローアップ」,大項目IV,Vの「社会資源を管理・活用する」,「研究成果を活用する」を除いた,大項目III「地域の健康危機管理を行う」,大項目IV「地域の人々の健康を保障するために,生活と健康に関する社会資源の公平な利用と分配を促進する」など21の中項目(全中項目の84%)と有意な正の相関があった.項目13「地区活動計画・立案」は18(全中項目の72%),項目4「健康相談の見学もしくは参加」は17(全中項目の68%)の中項目と有意な正の相関があった.

表5  市区町村実習における技術項目の体験割合と実習終了時点での卒業時の到達度の相関 (N=180)
卒業時の到達目標 項目1 項目2 項目3 項目4 項目5 項目6 項目7 項目8 項目9 項目10 項目11 項目12 項目13 項目14 項目15 項目16
大項目 中項目
I A.地域の人々の生活と健康を多角的・継続的にアセスメントする(個人/家族) .068 .074 .181* –.003 .014 .117 .022 .068 .154 .148 .141 .233** .213** .025 .025 .104
A.地域の人々の生活と健康を多角的・継続的にアセスメントする(集団/地域) .020 –.010 .090 .032 –.092 .121 –.001 .028 .149 .059 .279** .246** .164* .065 –.034 .090
B.地域の顕在的,潜在的健康課題を見出す(個人/家族) .137 .114 .238** –.010 .084 .084 .136 .121 .129 .110 .201* .267** .197* .127 .019 .139
B.地域の顕在的,潜在的健康課題を見出す(集団/地域) .110 –.017 .136 –.007 .028 .087 .127 .052 .096 .084 .303** .232** .165* .118 –.039 .084
C.地域の健康課題に対する支援を計画・立案する(個人/家族) .271** .077 .384** .131 .142 .136 .108 .234** .157 .154 .104 .235** .188* .146 –.009 .119
C.地域の健康課題に対する支援を計画・立案する(集団/地域) .219** –.015 .249** .094 .092 .115 .057 .138 .115 .076 .186* .191* .133 .097 –.056 .049
II D.活動を展開する(個人/家族) .158 .119 .315** .144 .106 .117 .065 .193* .099 .138 .093 .272** .272** .097 .031 .224**
D.活動を展開する(集団/地域) .198* .077 .244** .151 .113 .108 .052 .242** .148 .175* .153 .319** .260** .116 .017 .187*
E.地域の人々・関係者・機関と協働する(個人/家族) .078 .114 .179* .159* .020 .115 .010 .055 –.002 .036 .139 .238** .241** .152 .103 .154
E.地域の人々・関係者・機関と協働する(集団/地域) .122 .075 .135 .179* .007 .149 .016 .092 .025 .060 .206* .273** .195* .184* .092 .134
F.活動を評価・フォローアップする(個人/家族) .208* .040 .341** .164* .051 .125 .090 .095 –.004 .067 .091 .158 .198* .047 .008 .020
F.活動を評価・フォローアップする(集団/地域) .178* .006 .254** .185* –.014 .163* .054 .123 .040 .090 .134 .127 .154 .035 .010 –.020
III G.健康危機管理の体制を整え予防策を講じる(個人/家族) .142 .033 .167 .199* .106 .073 .011 .172* .163 .160 .121 .210* .225** –.009 .052 .202*
G.健康危機管理の体制を整え予防策を講じる(集団/地域) .121 .005 .130 .161 .063 .043 –.006 .150 .103 .169* .120 .199* .214** –.044 .049 .191*
H.健康危機の発生時に対応する(個人/家族) .119 .072 .061 .282** .027 .076 –.041 .177* .007 .086 .141 .251** .189* –.052 –.007 .240**
H.健康危機の発生時に対応する(集団/地域) .132 .061 .067 .278** .001 .076 –.049 .168* –.002 .093 .143 .244** .185* –.061 –.020 .231**
I.健康危機発生後からの回復期に対応する(個人/家族) .147 .056 .062 .288** .112 .031 –.027 .194* .057 .092 .093 .202* .146 –.081 .024 .203*
I.健康危機発生後からの回復期に対応する(集団/地域) .147 .051 .056 .285** .099 .034 –.033 .191* .054 .094 .091 .207* .142 –.083 .023 .211*
IV J.社会資源を開発する(集団/地域) .115 .092 .131 .214** –.045 .148 –.063 .233** .078 .081 .205* .266** .202* .045 .016 .192*
K.システム化する(集団/地域) .127 .086 .159 .182* .034 .102 –.019 .210* .140 .105 .216** .222** .224** .034 .005 .173*
L.施策化する(集団/地域) .134 .050 .079 .216** .007 .183* .006 .193* .140 .034 .231** .238** .228** .058 .054 .195*
M.社会資源を管理・活用する(集団/地域) .193* .029 .029 .237** .064 .080 –.050 .200* .069 .030 .057 .143 .107 –.080 .096 .194*
V N.研究の成果を活用する(集団/地域) .237** .038 .073 .254** .101 .085 –.055 .240** –.004 .009 .169 .128 .109 –.022 .071 .187*
O.継続的に学ぶ(集団/地域) .068 .138 .068 .198* –.105 .110 .023 .116 –.045 –.016 .204* .348** .371** .090 .017 .161
P.保健師としての責任を果たす(集団/地域) .010 .091 –.016 .175* .050 .126 .106 .159 .063 .113 .299** .173* .068 .199* .016 .163

注1)Spearmanの順位相関係数,各項目の欠損値は除外した

注2)技術項目1から16は,項目1から項目16と表示した

*P<.05,**P<.01,***P<.001

IV. 考察

本研究は,技術項目の体験に焦点をあて,体験の程度に関わる要因を検討した初めての報告である.考察では技術項目の体験に関わる要因とその背景,公衆衛生看護学実習における技術項目体験の充実と,保健師基礎教育終了時に獲得すべき能力の向上について検討する.

1. 技術項目の体験に関わる要因と背景

本研究では,学生が主体的に実施する技術項目は「健康教育」「地域診断」を除き,いずれも30%を下回っていた.個人・家族に対して学生が主体的に技術を実施するといった体験は出来ておらず,看護の方法について「使う」「実践できる」段階に到達していないと,保健師から評価されている状況が窺えた.

技術項目の体験割合と到達度の中項目のスコア間の相関を確認したところ,多くの項目間で正の相関を示す傾向にあった.市区町村の実習での特徴と関連していたのは「1例以上の主体的な継続訪問」,「事業計画立案・評価」,「地区活動計画・立案」の体験であった.実習において「事業計画立案・評価」を体験することは,実習中に経験する様々な個別支援や事業を領域・地域のケアシステム総体の中でとらえ直す機会になると考えられる.これらは,住民への直接的な支援技術ではなく,技術レベルは説明もしくは見学であるが,保健活動全体を俯瞰できる技術項目であり,実習中の様々な場面で保健師の技術や支援意図を汲み取り,学習する意欲を高める仕掛けとして機能しうる可能性がある.限られた実習機会の下では,どのような技術項目を学生に体験させるかについて,体験による到達度を考慮して教員と実習指導者がともに検討する必要がある.保健師基礎教育調査の「保健師基礎教育にかかわる演習・実習の好事例の抽出(以下,演習・実習の好事例の抽出)」(全国保健師教育機関協議会,2018)では,演習において個人・家族への支援と地域への支援が分断されず,両者が一体となったストーリー性をもった事例を用いて学習することで,複数のレベルに対して支援方法を組み合わせた展開技術を効果的に学習できると述べている.実習においても教員と実習指導者が,個人家族への支援である家庭訪問と地域への支援である地区活動計画や事業計画立案などについて,学生が体験する領域や事例が連動するように意図的に組み合わせることによって,到達効率的な学習効果が期待できると考える.

一方,保健師基礎教育調査の「保健師学校養成所における教育方法と教育成果の実態調査」(全国保健師教育機関協議会,2018)と比べ,本結果では項目別の体験割合が10~20%低い項目が複数あった.項目12「事業計画立案・評価/説明もしくは見学」,項目13「地区活動計画立案・評価/説明もしくは見学」,項目15「連携調整会議/見学あり」では,養成所教員の回答に比べて体験割合が20%以上低かったが,これらは説明や見学といった技術項目である.また,実習指導に関する所属機関内の保健師同士の連携がとてもよくできているのは2割強であった.実習計画は機会をとらえて追加修正されることから,回答した実習指導者が学生の実習体験状況をすべて把握しておらず,体験割合が実際より低く見積もられた可能性がある.学生の実習体験内容を実習指導者と共有し評価をするためには,実習指導者間での情報の共有を依頼すると同時に,実習中,実習終了時に養成所から学生の体験や到達に関するフィードバックを行う必要があると考えられた.

実習指導者と養成所の教員の評価が異なる背景として,教員は実習を保健師養成カリキュラムの一部ととらえ,実習前後の養成所での学習を考慮して評価をするが,実習指導に携わる保健師は,実習での体験や到達度を現場の業務に照らし合わせて評価している可能性が考えられる.保健師課程の実習の場は市区町村のみでなく,保健所,事業所,あるいは地域包括支援センターなどがあることから,教員は養成所における保健師基礎教育の中での実習の位置づけを実習指導者に説明し,当該実習後も知識・技術の修得が継続することへの理解を得ることが必要である.

2. 技術項目体験の充実と獲得すべき能力向上のために

本研究の結果から,技術項目は実習日数と関連することが示された.R2乗値は高くはなかったが,対応への示唆を得ることが出来たと考える.

実習日数は,技術項目9つの体験割合と関連していた.項目3「家庭訪問/1例以上の主体的な継続訪問」,項目7「健康診査/見学後主体的に実施」は,学生の実施までにある程度の日数が必要である.一方で項目2「家庭訪問/1例の見学訪問」,項目11「地域診断/実施(一地域にて)」は日数との関連はみられなかった.関連がみられた技術項目は主体的な学びを求められる項目であった.これらは学生が地域診断により実習地域の概要を理解し,母子保健・成人保健の事業の概要を理解することによって主体的な実施が可能となる技術であり,日数と関連したと考える.

大宮ら(2016)は日数が長くなると達成度が高くなることを報告し,小林ら(2013)も短い実習の期間より長期間の実習の方が,学生は住民やその家族のもつ強みに着目しながら主体的な生活をしていることを具体的に考察でき,保健師が住民自身の問題解決能力を高めるような支援をしていることを明確にとらえると報告している.現在の指定規則において公衆衛生看護学実習は5単位であり,養成所の教育目標によって実習施設が選択され,保健所,市区町村,事業所,学校などで実習が行われている.そのため,市区町村実習での望ましい日数に言及することはできない.今回の調査では,市区町村での平均実習日数は12.4日であった.また,学生が主体的に実施する技術項目は,「健康教育」,「地域診断」を除いていずれも30%を下回っていた.このことから,主体的な実施をするには実習日数が不足していると考えられる.多様な実習施設で体験させることも重要であるが,市区町村で一定期間実習を行うことによって,対象地域や住民を理解したうえで,個人・家族/集団・地域を双方向で考えて対応できる技術を身につけることができるのではないかと考える.このように実習期間の延伸は公衆衛生看護学実習の教育目標の達成に重要な取り組みとなると考えられる.一方で,実習期間の延伸のみが技術や到達度を高めることにつながるものではない.実習期間を十分に確保するとともに,実習内容の質の改善や保証・向上も必要である.

実習指導者が養成所の教員との連携をよく行えていることは,項目7「健康診査/見学後主体的に実施」と項目12「事業計画立案・評価/説明もしくは見学」との間に関連があった.演習・実習の好事例の抽出(全国保健師教育機関協議会,2018)では,効果的な教育実践の促進要因は,現場の保健師や自治体,事業所などの組織との信頼関係であり,具体的な例として,最大限の効果があがるように実習施設と丁寧な調整を行うこと,実習プログラムの検討を実習指導者と共に行い協働して教育に携わるという関係性を意図的に作ることを述べている.

このように実習指導に携わる保健師と連携することは,実習体験を高めるために重要である.そのためには,実習指導に携わる保健師と,実習前から実習後までの学生の学修課程と教育目標を共有し,共に実習計画を立てるなどの細やかな連携と協働体制が不可欠である.同時に,演習と実習を連動させることにより,実習では主体的な体験を中心とすることが可能となり,これらの対応が日数の課題,体験割合が低い項目が複数あるといった現状を補える可能性が示唆される.さらに養成所の教員が,実習以外の場面で日頃から現任教育や実践活動の評価などに協力を行うことによって,相互の信頼関係が深まり協働体制が作られ,実習における体験割合の増加と充実につながると考える.

3. 研究の限界

本研究は,対象を市区町村に限定しており,行政分野全体に転用することはできない.実習終了時の到達度は,卒業時の到達目標と到達度を用いたが,指導者の評価時期を限定していないため実習学年や実習時期が異なる可能性がある.そのため養成所ごとの比較はできなかった.また,養成所によっては実習終了後に演習等を行い,到達度を高める工夫をしていることも考えられた.今後は保健所についても同様の分析が必要である.

V. 結論

本研究では,技術項目の体験が実習体制,実習終了時の到達度と関連していることを明らかにした.実習日数は「家庭訪問/1例以上の主体的な継続訪問」「健康診査/主体的に実施」など9項目の体験割合と有意に関連した(OR=1.301から1.104).養成所の教員と連携がよく行えていることは,「健康診査/見学後主体的に実施」の割合が高いことと有意に関連した(OR=8.698).体験割合を高め,主体的な体験を可能とするためには,実習期間の延伸が必要であることが示唆された.また,実習内容の質の改善や保証・向上のためには,養成所の教員は日ごろから連携を意識して実習指導に携わる保健師と関わることが必要であると考える.

謝辞

調査に快くご協力いただきました市区町村の保健師の皆様,予備調査にご協力いただきました保健師の皆様に,心より感謝申し上げます.

文献
 
© 2019 The Japan Association of Public Health Nurse Educational Institutions
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