法学ジャーナル
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論説
1954年日米租税条約における独立企業原則とその国内法による執行方法について
加野 裕幸
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2023 年 2023 巻 101 号 p. 20-49

詳細
Abstract

本研究は1954年日米租税条約(「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアメリカ合衆国との間の条約」(昭和30(1955)年条約第1号))における独立企業原則の国内執行について、当時の文献を素材に検討するものである。1954年日米租税条約には独立企業原則(日米租税条約第3条及び第4条)が規定されていたが、当時の対応する国内法には独立企業原則がはっきりと明記はされていなかった。当時の記録では大蔵省が当時国会で答弁するための想定問答に法人税法第31条(同族会社の行為計算の否認)が対応する国内法として考えていた。当時条約の国内執行とは別に問題として非同族会社も同族会社の行為計算の否認規定に含めるか議論があった。

この点に関しては後の移転価格税制につながると考える。そして外資法による外資優遇政策により外資法人に対する同族会社の行為計算否認の適用は難しかったと結論づける。

はじめに

本稿の目的は、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアメリカ合衆国との間の条約」(昭和30(1955)年条約第1号、以下「1954年日米租税条約」という)における独立企業原則の国内執行について、当時の文献を素材に検討するものである。本稿では1954年日米租税条約に関する交渉過程の史料の一部を紹介する。

1954年日米租税条約には独立企業原則(日米租税条約第3条及び第4条、以下条約第3条・条約第4条という)が規定されていたが、当時の国内法には独立企業原則がはっきりと明記はされていなかった。結論を先取りすると大蔵省が当時国会で答弁するための想定問答に法人税法第31条(同族会社の行為計算の否認)が対応する国内法として考えていた。なお明治32年以降の所得税法の判例では、独立企業原則を前提としていたと考えられる事件が確認できる。

国内販売益のみ課税された事件(明治37年第509乃至第513号明治40年12月11日第2部宣告・行政裁判所判決録18巻(1907)1120頁))や外国法人の国内にある支店に帰属する所得(昭和5年第46号昭和7年12月27日第一部宣告・行政裁判所判決録第43巻(1932)1235頁))がある。

条約における独立企業原則とは、1933年の国際連盟「事業所得に関する条約草案」において「独立企業の原則」が規定されたと言われている1。1933年に公表された事業所得条約草案第3条により、独立企業原則が事業所得の複数国家での配分基準として国際租税原則として規定されたのである2。なお戦前のある文献によると、ヨーロッパの1851年から1922年までの租税条約について「前記二十三の獨立國家間の條約も是等國内法的規定の影響を受け一八九九年の普墺間などの條約などは殆ど一八七〇年の帝國法に準拠している」という指摘がある3。1870年の帝国法とは北ドイツ連邦二重課税排除法と考えられる4。そこでは、恒久的施設に帰属する所得のみが課税対象となるとの規定が置かれた。

1954年日米租税条約締結までの米国との交渉の為の準備として、国立公文書館の資料では次のように資料が作成されている。米国との租税条約交渉会議前の日本側条約案第3条第3項と第4条に独立企業原則が規定されている(「日米租税協定(所得税、法人税)(案)(昭和26年12月4日)」)5

発行した1954年日米租税条約の条文について、最終的にはどのような条文になったのかここで確認する。事業所得に対する条文で、条約第3条第3項及び条約第4条に独立企業原則が定められている。

「事業所得に対する課税」

第3条第3項

「一方の締約国の企業が他方の締約国内に恒久的施設を有する場合には、その恒久的施設が独立の企業として同一又は同様の条件で同一又は同様の活動を行い、且つ、独立の立場でその恒久的施設を有する企業と取引を行ったと仮定した場合に取得しうべき産業上又は商業上の利得が、その恒久的施設に帰せられるものとする。」

“Where an enterprise of one of the contracting States has a permanent establishment situated in the other contracting State, there shall be attributed to such permanent establishment the industrial or commercial profits which it might be expected to derive if it were an independent enterprise engaged in the same or similar activities under the same or similar conditions and dealing on an independent basis with the enterprise of which it is a permanent establishment.”

「他方国の企業に参加せる企業の事業所得に対する課税」

第4条

「一方の締約国の企業が、他方の締約国の企業の経営又は資金構成に参加していることにより、当該他方の締約国の企業に対し、商業上又は資金上の関係において、独立の企業に対して設けられるべき条件と異なる条件を設け又は課している場合には、それらの企業の一に通常配分されるべき利得で前記の条件のために配分されなかったものは、その企業の利得に算入して課税することができる。」

“Where an enterprise of one of the conctracting States, by reason of its participation in the management or the financial structure of an enterprise of the other contracting State, makes with or impose on the latter enterprise, in their commercial or financial relations, conditions different from those which would be made with an independent enterprise, any profits which would normally have been allocable to one of the enterprises,but by reason of such conditions have not been so allocated, may be included in the profits of such enterprise and taxed accordingly.”

以上が、1954年日米租税条約における独立企業原則が規定された条文である。条約第3条第3項は恒久的施設(本支店間)の取引に、第4条は関連会社間の取引に対応するものである。なお条約中の「恒久的施設」とは、当時の所得税法・法人税法の「法施行地に事業を有する」という文言と対応関係にあると考えられていた6

1954年日米租税条約の先行研究として次の論文がある。増井良啓「租税条約の発展」では、1954年日米租税条約に関して、条約交渉に当たった担当官の文献を引用しつつ条約の交渉経緯や国内法の改正について分析を行っている7。そして「特に、条約交渉中の日米間のやりとりと、昭和27,28年税制改正との間の相互関係が、いまひとつよくわからない宿題として残った」と述べている8。さらに、1954年日米租税条約の当時の国会の議論をまとめている9。そして本稿で、対象とする独立企業原則(条約第3条及び条約第4条)の先行研究は次の論文がある。矢内一好は、1954年日米租税条約当時の大蔵省内部文書(忠文書)を参照し条約の各条項について整理を行っている。そこで、条約第4条を指摘し「当時の日本では全く考慮されていない移転価格関連の事項である」としている10。本稿では、条約第3条と条約第4条国内執行について研究しようとするものである。なお日米租税条約に条約の解釈の研究で川端康之「我が国の租税条約の解釈適用に関する省察」日税研論集78巻(2020)189-262頁がある。

本稿の構成は次の通りである。第1章では、公文書館・外務省外交史料館で収集した史料を紹介する。主に1954年日米租税条約の準備や交渉過程に関するものである。第2章では、交渉前の調査と交渉時の日本側の発言条約承認のための国会想定問答と国会での発言について確認している。第3章では、1954年日米租税条約第3条・第4条の国内における実施のための国内における問題点について概観する。独立企業原則の国内実施について当時の大蔵省の説明を紹介する。

第1章1954年日米租税条約交渉会議の準備から交渉まで

1-1 条約交渉会議前の国税庁内部での租税条約に関する調査

本節では主に2つの資料を参照し1954年日米租税条約第3条及び条約第4条について整理している。第1の資料は、国税庁『国際租税協定関係の参考資料集』昭和26(1951)年である11。第2の資料は大蔵省主税局調査課「米国と諸外国との租税協定」昭和26(1951)年である12。第1の資料では米国と諸外国の租税協定について調査され、条約を日本語に翻訳し収録している。第2の資料では、米国が諸外国と締結した条約について分析し事業所得の計算方法と行為計算の否認について、租税条約の条文を参照し整理している。第2の資料の中で、それぞれの租税条約の条項についてメモが記されている。そのメモ書きを整理し表にまとめると表1になる。なお、フランスの議定書は、外務省条約局「二重課税ニ関スル亜米利加合衆國仏蘭西國間条約及議定書」条約集10巻1号(1932)を参照した。

条文のみだし「」の部分は、谷川文書33号「米国の租税協定」の目次を引用している。状況については、A:既に施行されているもの、B:署名済みであってまだ批准されていないとしている。

表1
米国との租税協定 状況 施行期日(()は署名日) 恒久的施設の独立企業原則が規定されている条文(「」は目次に表示されいているみだし) 関連会社間の独立企業原則が規定されている条文(「」は目次に表示されいているみだし) 余白に手書きのメモとして括弧書きの内容が記されている。
フランス 1936.1.1 議定書 第5条「商工業所得の特例」 第5 条に「行為計算否認規定」
スイス 1940.1.1 第2条「商工業所得」 第3条「商工業所得の特例」 なし
カナダ 1941.1.1 第3条第1項「商工業所得に関する更正決
定」
第4条「商工業所得に関する特例」 第3条と第4条に「行為計算否認規定」
イギリス 1946.7.25 第3条第3項「事業所得」 第4条「事業所得の特例」 第4 条に「行為計算否認規定」
デンマーク 1948.1.1 第3条「商工業所得」 第4条「商工業所得の特例」 第4 条に「行為計算の否認」
オランダ 1948.12.8 第3条「商工業所得」 第4条「商工業所得の特例」 なし
ニュージー
ランド
(1948.3.16) 第3条「商工業所得」 第4条「商工業所得の特例」 なし
ベルギー (1948.10.28) 第4条「商工業所得」 第5条「商工業所得の特例」 なし
ノルウェー (1948.6.13) 第3条「商工業所得」 第4条「商工業所得の特例」 なし

米国と諸外国との条約には、独立企業原則が規定されている。フランスに関しては、議定書に示されている。当時の大蔵省は、米国の諸外国との条約で独立企業原則と行為計算否認規定が対応すると日米条約交渉前は考えていたとメモ書きから推測することができる。

当時の分析として大蔵省の谷川寛三は、アメリカが諸外国と締結した租税条約について論文で次のように述べている13。「恒久的施設を有する國において、その恒久的施設に歸屬する所得の計算をどうするかということである。この所得配分の解決方法として各協定が採用しているところは、必ずしもその軌を一にしていない。例えば、對英、オランダ協定においては、分離会計の基礎の上に立って配分の方法を定めている。すなわち、一方の締約国の企業が他方の締約國内にある恒久的施設を通じて事業に従事している場合においては、もしその企業が同一もしくは類似の條件の下において、同一もしくは類似の事業活動に従事し、且つ、恒久的施設を有する企業と直接取引を行う獨立の企業であるならば得るであろうところの利益は、恒久的施設に歸屬するものとされている。又、対佛、スエーデン協定においては、所得配分の方法を協定當事國の關係當局者が定める細則の決定に委ねている。」と指摘している14。当時の条約に関する分析からは、独立企業原則が条約に規定されていても、その所得の配分方法は条約締結国によって異なる。

1-2 条約交渉会議前の日本側条約案

米国との租税条約交渉会議前の日本側条約案には第3条第3項と第4条において独立企業原則について記載されていた。日本側条約案については「日米租税協定(所得税、法人税)(案)(昭和26年12月4日)」が存在する15。なお日本側が作成した条約案は交渉会議で提出されたかどうかは資料からは確認できない。また現在日本側が作成した条約案の英語版は存在するか本論説執筆時点では発見できていない。日本側作成の交渉会議前の条約案は次の通りである。

第3条第3項「一方の締約国の企業が他方の締約国において当該国内にある恒久的施設を通じて事業又は営業をなす場合においては、当該恒久的施設が、同一または類似の條件のもとに同一または類似の事業活動を行い、且つ、当該恒久的施設の所得とする企業と独立した関係において取引をする企業であると仮定した場合に取得すると思われる商工業上の利益をもって当該恒久的施設に帰属するものとし、当該利益は、他方の締約国の法律の規定するところに従い、当該国内源泉からの所得とみなす。」

第4条「一方の締約国の企業が、他方の締約国の企業の経営に関与し又はその資本構成に参加することにより、当該企業に対し、商業上又は経営上の関係において、独立した企業に対する場合と異なる条件を締結し又は附する場合においては、当該他方の締約国の企業に通常生ずべき利益で当該条件のために生じないこととなったものは、当該企業の利益に加算して租税を課する。」

1-3 日米租税条約交渉会議議事録

日米租税条約において、どのような議論がされていたのか1954年日米租税条約の条約交渉会議(以下、「条約交渉会議」という)を第1回条約交渉会議及び第2回条約交渉会議について観察する16

第1回目日米租税協定に関する会議(昭和27(1952)年1月3日での質疑応答)はワシントンにおいて米国との交渉が開始された。そこで条約3条のやりとりがある17。日米租税条約の交渉の段階では、所得税条約に関して米国側から米国が作成した条約草案が提出された(以下「条約案」という)。当時の発言者は、日本側は東京国税局長渡辺喜久造、米国側は米国内国歳入庁国際租税関係部長King である。この時の発言は「watanabe Art.Ⅲ(3)のat arm's length の意味はindependently か」これに対して「King さうである」と応答するのみであった。米国が提示した租税条約案では、第3条に関して恒久的施設の所得の計算規定について“at arm's length”と規定されていたと推測できる。なお第1回会議では、第3条の文言の確認のみでほかの発言は見られなかった。また第4条に関する議論もみられなかった。

第2回会議(昭和27(1952)年10月6日) 所得税条約第3条の米国側草案の逐条審議において、日本側からの質問がある。条約案第3条について次の通りである。日本側から第3条についての質問から始まる。「(日)“at arm's length”の意味は何か。」これに対して米国は「(米)“independently”ということである。」としている18。そして日本側からの提案で「(日)日本では見かけない言葉であるから書き改めたい。(米)了承それでは“on a independently basis”としよう。」となった。このやりとりは第1回目交渉会議で一度確認された内容を改めて、第2回目の交渉会議で確認していることになる。この時点で“at arm's length”が“on a independently basis”と変更されることになった。なお第1回目から第2回目交渉会議の間の文書が存在するので後述する。

第2回交渉会議において10月7日及び10月8日に条約案第4条の関連会社間条項について、日米間で次のようなやり取りがある19。日本側からの質問で「(日)本条の意味は何か。(米)本条と仝じ趣旨の規定は米国内法において条約締結前から存在する。すなわちInternal Revenue code Sec. 45“allocation of income and deductions”(別紙)がそれである。」とある。この時点ではじめて内国歳入法典第45条と同じ趣旨である説明が米国からなされた。なおInternal Revenue code Sec. 45 については、現在のSec. 482 とほぼ同じ規定で1954年に現在の内国歳入法典482条となった20。“at arm's length”が米国で用いられるのは、この交渉会議より後の米国歳入法の改正である。日本側の発言で「日本においてはSec. 45 のような広汎な権限を与えた規定は存しない」とある。この点についてどのように国内法による執行を行うのか後述する国会想定問答と国会での発言を見ることとする。

条約案第4条に対する日本側のコメントが次のようにされている。「(日)第四條の規定の趣旨は賛成である。然し、日本においてはSec. 45 のような広汎な権限を与えた規定は存しないから、若し第四條の規定が存しても、これに見合うような国内法が設けられなければ、条約によつて租税を増加することはできないという理由(本条約でもその趣旨の規定は存在するが)により、これを実行することはできないと考えるがどうか。(米)という事はない。第4条の規定は租税を増加するものではなく、正当に負担すべき税額をevade することを防止し、合理的に所得を配分する趣旨のものであるから、これを実行することは一向に差支えない。」日本側の発言からは、税額を増加させる場合は国内法が必要であるとの見解がでている21。この時点では、第4条に相当する国内法がないという考え方であったと推測する。そして、第4条の執行に関して米国側に次の質問を行っている。「(日)了承。然らば日本がこの規定によつて所得を決定した場合に、納税者が不平を唱えてきても、米国は日本の措置をsupport してくれるか。(米)support する。(日)この点に関して判例はないか。(米)聞いていない。」ここで日本側から米国側へ判例はないかと質問しているが判例は無いと答えている22。上述のやりとりに関して次節の文献からは日本側が事前に準備していたことがわかる。

1-4 日米租税条約の条約交渉会議で検討された文書

1954年日米租税条約3条第3項の草案について、国立公文書館に次の文書がある。鈴木源吾文書「日米租税協定(1)」23に「所得税協定案」という資料があり、その中に米国との条文のやりとりの記録が残されている。この資料は、米国側から提示された条約案について、日本側が朱書きで修正しているものである。日本側修正提示案について、その朱書きの修正を再現すると下記のようになる。また相違点を下線部で示している。文書には日付はないが条約交渉会議の内容から第1回目交渉会議が終了した後に作成されたものと推測する。

米国側提示案

Where an enterprise one of the contracting States is engaged in trade or, business in the other contracting State through a permanent establishment situated therein, there shall be attributed to such permanent establishment the industrial or commercial profits which it might be expected to derive if it were an independent enterprise engaged in the same or similar activities under the same or similar conditions and dealing at arm's length with the enterprise of which it is a permanent establishment.

日本側修正案

Where an enterprise one of the contracting States has a permanent establishment situated in the other contracting state, there shall be attributed to such permanent establishment the industrial or commercial profits which it might be expected to derive if it were an independent enterprise engaged in the same or similar activities24 under the same or similar conditions and dealing on an independent basis with the enterprise of which it is a permanent establishment.

そして、次に日本側は修正点を下記のようにまとめた文書を作成したのではないだろうか。その内容を文書として米国側に提示したと推測する。

1952年の条約交渉会議時に取り交わされた文書第3条については、下記提案がある。しかしながら第4条に関しては、修正案は存在しなかった。下記文書は鈴木源吾文書日米租税協定(1)25に収録されている。

Proposed by Japanese(1952.10.13)

ArticleⅢ

Paragraph (1)

"unless it is engaged in . . . situated therein." shall be amended as "unless it has a permanent establishment in such other contracting State,".Paragraph (3)

" is engaged in . . . . therein," shall be amended as " has a permanent establishment situated in the other contracting State,", and " at arm's length" shall be amended as "on an independent basis",

上記の文章は前述の交渉会議議事録での発言と一致する。この文書は第2回条約交渉会議で用いられたものと推測することができる。

1954年日米租税条約草案第4条

1952年の時点での条約第4条の草案は次の通りである。第2回条約交渉会議において米国側から示されたものである。朱書きでの修正は加えられていない。下記文書は鈴木源吾文書日米租税協定(1)26に収録されている。

Draft October 29,1952

Where an enterprise of one of the contracting States, by reason of its participation in the management or the financial structure of an enterprise of the other contracting State, makes with or impose on the latter enterprise, in their commercial or financial relations, conditions different from those which would be made with an independent enterprise, any profits which would normally have been allocable to one of the enterprise, but by reason of such conditions have not been so allocated, may be included in the profits of such enterprise and taxed accordingly.

最終的には上記の条約第4条草案に修正は加えられていないと考えられる。鈴木文書日米租税協定(1)27日本側の資料に次のようなメモがある。その内容は第1回目の条約交渉会議後に作られたメモではないかと推測する。そのメモは、第4条草案の余白に朱書きで「OK、日本側で国内法を整備する―米国の実例を聞く」と記されている。国内法を整備するは、第2回条約交渉会議において「(日)この点に関して判例はないか。(米)聞いていない。」とのやりとりがあるのに対応する。日本で国内法を整備するために米国の判例について、尋ねたのではないかと考える。

小括

日本側において条約交渉会議以前の段階で日本語による第3条第3項及び条約第4条の条文案は作成されていた。条約交渉会議の流れから、米国側提示のdraft を受け入れ、修正を加えていることがわかる。第3条第3項と条約第4条に関しては、恒久的施設か関連会社間の違いはあるが独立企業原則を用いることが当初から検討されていた。なお第4条のメモ書きに関して「日本側で国内法を整備する」は、次章で紹介するが、新規に国内法を立法することをせず同族会社の行為計算の否認(法人税法第31条)を用いることとなった。つまり第3条第3項は条文の字句の修正が行われた。条約第4条は第4条の条約案は日本側の国内執行に関する問題点を感じており米国からアドバイスに期待していたが具体的な示唆は得られず何らかの国内法が必要であるという考え方に至ったと考える。詳細な経緯については明らかでは無い。

なお条約第3条第3項は条約交渉会議前には恒久的施設の行為計算否認規定を国内法で立法する必要があるとメモが残されている28。この点は平成29(2017)年法人税法第147条の2として導入された。

第2章 国会想定問答と12における政府の答弁

2-1 日米租税条約関係想定問答における事業所得条項の説明

国会での説明の為に用意されたであろう資料として、大蔵省「日米租税条約関係想定問答」昭和29年4月がある。この文献は、外務省外交史料館において2つ存在する。第1は、外務省外交史料館のマイクロフィルムに収録されてた「12.日米租税条約関係想定問答(1954.4)」である29。第2は、外務省外交史料館に紙媒体でファイルされた「日米租税条約関係想定問答(昭和29年4月大蔵省主税局)」である30。第1の資料には目次がついているが、第2の資料には目次がない。そして、第2の資料において条約第4条の説明に追加がある。第1の資料にはない追加の想定問答が第2の資料には存在する。

第3条第3項に関する想定問答31

「問 第3条第3項(恒久的施設に帰属する所得は、その施設を独立の企業として同一または同様の活動を行い、且つ、独立の立場でその施設を有する企業と取引を行つたと仮定した場合に取得し得るべき所得とすること。)の意味はどういうことか。

答 恒久的施設(例えば支店)と本店との取引は、同一企業内部における取引で、従つてその間の記帳関係等は任意であるから、例えば本店から送付された商品を支店で販売した場合に、その原価をどう見るかについては、必ずしも支店の本店からの受入価格そのままによることは適当でないことが多く、また、本店における仕入れ価格を原価としてその売却からも生ずる所得がすべて支店において生ずるとすることも適当ではない。従つて、このような場合には恰も本店と支店とをそれぞれ独立した企業と考えて、独立企業間の取引の場合に準じて妥当と認められる価格等により、支店の所得を計算することとしているのである。」

条約第4条関係に関する想定問答32

「問 第4条(一企業が他の企業の資本構成等に参加して独立企業におけると異なる条件をこれに課している場合には、当該條件がないものとして課税所得を計算すること。)の趣旨はどういうことか。

答 一企業が相手国内に恒久的施設を有している場合に、その恒久的施設に帰属する所得は、第3条に規定しているとおり、その恒久的施設を独立の企業と仮定し、独立の企業間におけると同様な条件で該当施設の属する企業と取引を行つたと仮定した場合にその取得し得る所得として、所得の正当な配分を定めることとしている。第4条は、一企業とその恒久的施設との間における上記のような所得配分の趣旨を、支配、被支配の関係に立つ独立企業間にも及ぼして、その間の所得の正当な配分を行おうとするものであり、例えば、一企業が相手国内で事業活動を行うについて、恒久的施設を設けずに相手国の子会社を作り、これによつて第3条の脱法行為を図ろうとするのを防止する趣旨を有するものである。しかして、右のような第4条の趣旨は、わが国の税法における同族会社の行為計算否認の規定の趣旨に準ずるものといえる。」

上記の説明では条約第3条と条約第4条は行為計算否認という点で同旨と考えることができる。そして条約第3条は恒久的施設(本支店の取引)、条約第4条は関係会社間の取引について解説している。

第2の資料のみに存在する次の想定問答がある33

「問 第四条の規定と、現行わが国の国内法における同族会社に対する行為計算否認規定との関係如何。

答 わが国の国内法における行為計算の否認規定は、同族会社のなした行為又は計算につき、これを容認したならば法人又は所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合において、これを否認して正当な課税を行おうとするものであり、第四条の規定も、これと同様な趣旨のものであるが、適用の対象を同族会社に限定していないなどその範囲が相当広くなつている。

従って、国内法の限界をこえて条約により租税を増徴することは許されないという原則(第十九条第二項参照)に照らし、わが国については、国内法を改正拡張しない限り、第四条の適用は、国内法の行為計算の否認の規定の範囲に止まることとなるのである。

なお、第三条による一企業とその恒久的施設の所得配分は、一企業の内部関係の問題であるから、所得帰属の解釈適用の問題として特に立法措置を要しないものである。」

条約第3条第3項に対応する国内法は、特に必要ないという考え方である。条約第3条第3項と条約第4条では行為計算の否認という点で同じ趣旨であるが、恒久的施設と関連会社では国内法が必要かどうか異なった。そして条約第4条と同族会社の行為計算の否認(法人税法第31条)の違いは、対象となる法人が異なる。つまり条約第4条は、法人を限定せず非同族会社にも及ぶのである。そして上記の想定問答集では、同族会社を超える部分、つまり非同族会社には条約第19条第2項によって制限されるとされている。なお条約第19条第2項については、「この条約の規定は、一方の締約国が租税を決定するに際し、自国の法令によつて現在認められているか又は将来認められる免税、減額、控除その他の恩典をいかなる形においても制限するものと解してはならない」と規定されている。所得税条約第19条第2項に該当する想定問答は用意されていない。また条約交渉会議議事録で直接的に条約第19条第2項についてのやりとりは見当たらなかった。条約交渉会議議事録では、条約で新たに課税はできないという趣旨については相続税条約第8条第2項(条約交渉会議議事録では第9条第2項)に関するやりとりがあった34。条約第4条を国内法において執行するために対応する国内法として完全に適用範囲が一致しないが同族会社の行為計算の否認(法人税法第31条)を用いるという考えに至ったと推測する。

2-2 昭和29(1954)年の条約第3条及び条約第4条に関する国会での審議

国会では逐条的に審議されていた。そこで、条約第3条と条約第4条についての審議を紹介する。時期としては昭和29(1954)年5月に審議された。衆議院では条約第3条のみ説明されている。条約第4条については具体的に内容の説明はなかった。

第19回国会衆議院外務委員会第50号昭和29(1954)年5月15日9頁

昭和29年の衆議院外務委員会において租税条約のあらましの説明がった。そこで条約第3条については、恒久的施設の概念のみ説明がされていた。条約第3条第3項の説明はおこなわれなかった。そして条約第4条については、「第四条は特に申し上げることもないこれは技術的な問題でございます」と説明するにとどまっている。

第19回国会参議院外務委員会第34号昭和29(1954)年5月18日5頁

条約第3条第3項を用いて租税回避に対応する旨の質疑応答がある。團伊能から日本に本店がありアメリカに支店を持っている法人の場合会社の所得をアメリカの所得にするように工作できる点について、質問されている。

説明員である白石正雄は「例えばアメリカから生ずる所得はどういう所得であり、それはどういう計算をするかというようなことにつきまして、第三条のところで一応或る程度の規定を設けまして、そうして例えば恒久的施設というものがあつた場合において、その恒久的施設から生ずる所得はどのようにその所得の配分を考えるか。例えば第三条の第三項でございますが、『一方の締約国の企業が他方の締約国内に恒久的施設を有する場合には、その恒久的施設が独立の企業として同一または同様の条件で同一または同様の行動を行い、且つ、独立の立場でその恒久的施設を有する企業と取引を行つたと仮定した場合に取得し得べき産業又は商業上の所得が、その恒久的施設に帰せられるものとする。』抽象的な規定でありまして、具体的な場合の計算はなかゝそれがその通りに行くかどうかという問題があり得るかと思いますけれども、一応のその計算の基準といしましてはこういうような規定を設けまして、できるようにしておるわけでございます。」

白石正雄により、条約第3条第3項の独立企業原則を用いて租税回避に対応する説明が行われている。抽象的ではあるが計算規定を含めた条文である説明を行っている。説明は想定問答集に近い内容が説明されている。なお条約第4条に関する審議は発見できなかった。

2-3 同族会社の範囲について外資に関する法律での国会審議

2-1の想定問答の中で同族会社の行為計算否認規定を使用する考えが記述されていると述べたが、これと関連する。昭和26(1951)年の建議を紹介する。同族会社の範囲について外資委員会委員長周東英雄から内閣総理大臣宛の書簡がある。そこでは外国資本が関係する同族会社は、法人税法上の同族会社として扱わないように建議があった35。その後、外資法に関する法律の審議において、外資委員会事務局長の賀屋正雄より次のような説明があった36。「同族会社の範囲について従来の取り扱いを変えまして、その親になる株主が、その会社であります場合にはこれは同族会社とみない。例えば外国の会社が従来或る会社の三〇%以上一社で持っておりますその会社は、同族会社となるわけでありますが、株主が法人であります場合は、同族会社とみない扱いにするということを大蔵省のほうで大体了承して、今後はその扱いをしていくということになっております。」つまり外国法人の留保金に関しては法人税法における同族会社としてあつかわない、ということになっていた。

小括

想定問答集からは、条約第3条第3項は対応する国内法は必要ない、しかし条約第4条に関しては対応する国内法が必要であると分析できる。その理由は、条約第3条第3項は本支店間の取引を想定しており同一法人内の問題である。そのため企業内部の会計処理の問題と考えることができる。条約第4条は、法人間での取引であるために対応する国内法が必要であったと考えられる。条約第4条の国内執行について直接説明したものではないが、条約交渉会議議事録では条約によって新たに租税を課すことができない旨の説明が米国から行われている37。条約第4条に当てはめると法人間での取引は国内法が必要であったと考えられる。その結果想定問答集からは、新たに立法するのではなく同族会社の行為計算の否認(法人税法第31条)で対応しようとしていたことがうかがえる。国会での議論に関して、参議院外務省委員会で条約第3条第3項の本支店間の取引に関して非常に丁寧に説明が行われていた。しかしながら、条約第4条に関しては十分な説明がなかった。

外資に関する法律と同族会社行為計算否認規定の関係について、実際には外資法が適用される法人38には同族会社行為計算否認規定の適用は行われなかったのではないだろうかと推測する。

第3章 1954年日米租税条約第3条第3項及び条約第4条と対応する国内法の大蔵省による説明

3-1 条約第3条と第4条に関する当時の大蔵省の説明

1954年日米租税条約に関して大蔵省関係の説明で3名の説明を発見することができた。加藤清(大蔵省主税局調査課)、福田幸弘(大蔵省主税局調査課)、小松芳明(大蔵省主税局調査課)の1954年に発表されている説明である。

3-1-1 加藤清の説明

条約第3条第3項の説明で恒久的施設に帰属する事業所得の算定基準を次のように述べている39

「恰も本店と支店とをそれぞれ独立した企業と考えて、独立の企業間の取引の場合に準じて妥当と認められる価格、取引条件等を基準として、本支店に帰属すべき所得を計算しようという趣旨である。」

条約第4条の親子関係にある両企業間の所得配分の基準について本支店間に用いた「所得配分の基準を、親子関係の企業に準用せんとする趣旨の規定である。」「さきに述べた恒久的施設の代わりに子会社を作ることによつて、恒久的施設の場合における前述の課税関係を回避しようとする脱税行為を防止せんとするもので、わが国の税法における同族会社の行為計算の否認の規定と大体同じ趣旨をもつものである。」としている。

3-1-2 福田幸弘の説明40

条約第3条第3項について「本店と支店とをそれぞれ独立した企業と考えて、独立企業間の取引の場合に準じて妥当と認められる価格によって支店の所得を計算せんとするものである。」としている。条約第4条について「恒久的施設を独立の企業と仮定して所得の帰属を計算する右の趣旨は、『支配、被支配の関係にある独立の二つの企業間』にも拡張されている(条約第四条)。従つて、例えば、一企業が相手国内で事業活動を行うについて、恒久的施設を設けずに相手国の子会社を作り、これによつて第三条の脱法行為を図ろうとするのが阻止されているのであつて、この趣旨は、わが国の税法における同族会社の行為計算の否認の規定に準ずるものである。」としている。

3-1-3 小松芳明の説明

「産業上又は商業上の所得」に対する課税(条約第3条及び条約第4条)の解説のなかで、恒久的施設を有する場合の所得について独立企業原則によって算定される所得について次のように説明している41

「一方の国の企業(例えば本店)が他方の国に恒久的施設(例えば支店)を有する場合には恰もその恒久的施設を独立の企業と仮定し、独立の立場でその所属する企業と取引を行つたものとして、その恒久的施設が取得すべき『産業上又は商業上の所得』を分離計算すること」としている42

そして、条約第4条の支配、被支配の関係にある両企業に対する課税については、次のように説明している43

「独立の企業に対して設けられるべき条件と異なる条件を設け又は課している場合には、独立企業における通常の条件であつたと仮定した場合に、それぞれの企業に帰属されるべき所得を計算して、前述恒久的施設を独立の企業と仮定していると同一の趣旨により課税することができることとしている。これらには我が国の税法における同族会社の行為計算否認の規定の趣旨に準ずるのであることと考えられる。」44

以上、大蔵省に所属する3名による当時の説明である。共通しているのは条約第3条第3項及び条約第4条において独立企業原則が適用され所得の算定がされるとしている。そして条約第3条第3項と条約第4条の違いは、恒久的施設と親子会社間の違いはあるが、独立企業の原則を適用するとしている。さらに条約第3条と条約第4条に共通する部分は、「同一の趣旨」として「同族会社の行為計算否認の規定の趣旨に準ずるのであることと考えられる。」としている。条約第4条の規定に対して対応する国内法が、同族会社の行為計算否認(法人税法第31条)に準ずるものとした場合、非同族会社を含めるか否かが問題となる。この点に関して次節で紹介する。

3-2 国内法として同族会社の行為計算否認規定に関する大蔵省の説明

条約第4条に対応する国内法として同族会社行為計算否認規定を想定していた。その場合において当時の大蔵省の説明で確認する。同族会社の範囲について非同族会社も含めるという議論があった。

3-2-1 同族会社の範囲について昭和27(1952)年の説明

当時国税庁法人税課課長補佐の湊良之助によれば、非同族会社に対しても同族会社の行為計算否認規定を適用すべきと次のように考えている45。「所得を隠蔽しようとする馴合取引又は仮装取引であることを要せず、適法な取引であつても、その取引の結果法人税の負擔が不當に軽減されるものであれば、これを否認することができる。從つてすべての損金についてこの規定が適用されることになる。現在の行爲計算否認規定は同族會社に限られているが、関連會社相互の取引(アメリカ)、一般會社の資産取引(ドイツ)にも擴張すべきであろう。」当時は非同族会社にも拡張すべきという考えもあった。その根拠に「関連會社相互の取引(アメリカ)」を参考にしている。「関連會社相互の取引(アメリカ)」は、内国歳入法典第45条と推測する。なお同旨の文献では、非同族会社にも同族会社の行為計算否認を適用する理由として「真に課税の公平を図るためには、ときと場合によって非同族会社にも適用のあることを税法上にはつきりと規定し、執行面でかれこれをまごついたり、論叢をおこすことのないようにすべきではないかと思う。」と述べている46

3-2-2 昭和38(1963)年の同族会社の範囲についての説明

1954年日米租税条約の条約交渉会議に参加した大蔵省の志場喜徳郎による同族会社の説明がある47。昭和38年では所得税法第67条、法人税法第31条の3、相続税法第64条において、いわゆる同族会社の行為計算の否認規定がもうけられている。

志場喜徳郎によると同族会社の行為計算の否認規定を整備し非同族会社にも適用する必要があると指摘している。その根拠は「課税公平の原則からみて、かかる差別扱いは適当ではない」としている48。そして否認の対象になる会社の範囲を2つの面から整備するべきとして次のように述べている49。第1点は「会社」に限定するのは適当ではなく「法人」というふうにすべきである。さらに「取引当事者の関係を具体的に示すことが適当であると思われる」としている。第2点は「否認の対象となる行為計算の類型を法定すべきではないかということである」としている。以上のように同族会社行為計算否認規定は非同族会社にも適用すべきであり、同族会社行為計算否認規定を改正すべきと指摘している。

小括

同族会社行為計算否認規定は、非同族会社にも適用すべきであるという考え方が当時には存在していた。その根拠は課税公平の原則によるものであった。しかしながら、同族会社行為計算否認規定は外資法によって適用されないという関係が存在していた。当時は外資優遇措置の条文となる法人に対しては外国法人に対する同族会社行為計算否認規定の適用は、実際には難しかったのではないかと考える。

おわりに

1954年日米租税条約における独立企業原則とその国内法による執行方法について外務省外交史料館や国立公文書館に所蔵される史料を中心に当時の議論を一部整理してみた。条約第3条第3項は対応する国内法を必要と考えながらも解釈の問題として条約を執行するための国内法が必要とはされなかった。対応する国内法は無いが、条約第3条は同族会社の行為計算否認規定の趣旨と同じという考えであった。大蔵省は、条約交渉会議議事録での議論を通して条約第4条に対する国内法が必要であると考えていたが、それに対応する国内法を新しく立法することはなく、最終的には同族会社の行為計算否認規定(法人税法第31条)を使用することとした。すなわち条約第3条と条約第4条の独立企業原則は、本支店の取引と法人間の取引の違いがあるが行為計算の否認が対応すると考えていた。そこには非同族会社を含めるか否かの問題があった。しかしながら当時は外資導入政策のためその実効性については疑問が残る結果となった。なお、後の時代であるが小松芳明は、昭和61(1986)年移転価格税制の導入以前は一つの説として同族会社の行為計算否認規定で対応できるという考えがあったと紹介している50

条約交渉会議議事録での条約第4条に関して日本側の考え方や条約と国内法の関係の変化について今後の研究課題としたい。

Footnotes

1 矢内一好『国際課税と租税条約』(ぎょうせい・1992)18-19頁。

2 1933年国際連盟による事業所得条約草案の日本語訳がある。川端康之「各国の移転価格税制と所得配分基準」村井正編『国際租税法の研究』(1990)法研出版250-254頁。

3 大竹虎雄「国際連盟と二重課税問題(上)」税2巻8号(1924)18頁。

4 1870年北ドイツ連邦二重課税排除法については加野裕幸「1870年5月13日北ドイツ連邦二重課税排除法第3条における「営業の実施」概念の検討」法学ジャーナル100号(2021)131-150頁。

5 大蔵省主税局「日米租税協定(所得税、法人税)(案)(昭和26年12月4日)」大蔵省「戦後財政史資料谷川文書租税国際二重課税防止4 第33号」(国立国会図書館所蔵)(請求記号:平25財務00968100)。以下「谷川文書第33号」という。

6 大蔵省主税局・前掲注9)「所得税及び法人税の国際二重課税防止協定について」(谷川文書第33号所収)。

7 増井良啓「租税条約の発展」金子宏編『租税法の発展』(有斐閣・2010)139-160頁。

8 増井・前掲注7)160頁。

9 増井良啓「憲法と租税条約(憲法と租税法:日本国憲法施行70年記念)」日税研論集77巻(2020)333-368頁。

10 矢内一好「日本における国際税務発展史~租税条約(1)~日米原条約からの展開」税務事例49巻8号(2017)。なお移転価格税制とは昭和61年に租税特別措置法第66条の4に導入された。独立企業原則を中核となす規定で条文に独立企業間価格が明記された(大蔵財務協会国税庁『改正税法のすべて』(大蔵財務協会・1986)193頁)。

11 国税庁『国際租税協定関係の参考資料集』昭和26(1951)年。東京大学経済学図書館で閲覧した。

12 大蔵省主税局調査課「米国と諸外国との租税協定」昭和26年大蔵省「戦後財政史資料谷川文書租税国際二重課税防止2 第31号」(国立国会図書館所蔵)(請求記号:平25財務00966100)(件名番号:003)。以下「谷川文書第31号」という。

13 谷川寛三「国際間における二重課税の防止」税と財9巻3号(1952)19頁。

14 谷川・前掲注13)19頁。

15 大蔵省主税局・前掲注9)「日米租税協定(所得税、法人税)(案)(昭和26年12月4日)」(谷川文書第33号所収)。

16 国立公文書館と外務省外交史料館に所蔵の記録を整理して1954年日米租税条約の交渉会議議事録を紹介している。加野裕幸「日米租税協定逐条審議議事録1951・52」法学ジャーナル96号(2019)346-449頁。

17 加野・前掲注16)378-380頁。

18 加野・前掲注16)378-380頁。

19 加野・前掲注16)379-380頁。

20 次の論文で沿革を確認することができる。金子宏「アメリカ合衆国の所得課税における独立当事者間取引(arm's length transaction)の法理-上-内国歳入法典四八二条について」ジュリスト724号(1980)106頁。なお、米国内国歳入法典482条は、わが国において独立企業原則を中核とする移転価格税制の導入の際に大蔵省内部の研究会で上記金子論文106頁が提出されていた(大蔵省主税局国際租税課『国際租税問題研究会提出資料』(大蔵省主税局国際租税課・1985)20頁、東京大学法学部図書室で閲覧した。東京大学法学部図書室によれば2016年寄贈されたとのことである。)。上記の国際税制課の資料の内容は、]主に増額更正と対応的調整が検討されていた。

21 この発言の日本側が根拠しているのは相続税条約第8条(条約交渉会議では第9条)ではないかと推測する。相続税条約第8条については後述する。「(日)(2)の適用については、例えば日本の国内法によれば、その財産が米国にあるのにconvention の規定によれば日本に在ることとなる場合には、日本は制限納税義務者として課税する場合にconvention の規定によってその財産に対して課税できると考えられるかどうか。(米)それはできない。その場合は、日本の国内法を変えて、その財産が日本に在るように規定しなければん課税できない。」(加野・前掲注16)370頁)。

22 S. Avi-Yonah Reuven, The Rise and Fall of Arm's Length: A Study in the Evolution of U. S. International Taxation, SSRN ELECTRONIC JOURNAL (2007). この独立企業原則の研究によって1954年以前に独立企業原則を用いた判

例があることが紹介されている。

23 大蔵省「財政史資料鈴木(源)文書日米租税協定(1)(昭和27年)192」(請求番号:平27財務02142100)(国立公文書館所蔵)1954年日米租税条約における独立企業原則とその国内法による執行方法について

24 メモ書き「若し独占企業、、、」とある。この点については第2回目交渉会議議事録では日本から米国へ質問がある(加野・前掲注16)378頁)。

25 大蔵省・前掲注23)Proposed by Japanese(1952.10.13)。

26 大蔵省・前掲注23)「所得税協定案」4頁。

27 大蔵省・前掲注23)「所得税協定案」4頁。

28 加野・前掲注16)306頁。主税局「国際二重課税防止協定について第二次案(1951.7.9)」大蔵省「戦後財政史資料谷川文書租税国際二重課税防止 3第32号」(国立公文書館所蔵)(請求記号:平25財務00967100)(件名番号:11)13頁。

29 大蔵省主税局「12.日米租税条約関係想定問答(1954.4)」(外務省記録「日米間租税の2重課税防止に関する2条約関係」第2巻」B5.2.0.J/U1-1(マイクロフィルム番号B'-062),外務省外交史料館)。

30 大蔵省主税局「日米租税条約関係想定問答」外務省記録「日米間租税の二重課税防止に関する二条約修正補足議定書」「一九六〇年五月七日署名」第2巻B'520 J/U1-3(外務省外交史料館)16-17頁。

31 大蔵省主税局・前掲注30)15-16頁。前掲注29)65頁。

32 大蔵省主税局・前掲注30)16-17頁。前掲注29)65頁。

33 前掲注30)15-16頁。

34 加野・前掲注16)370-371頁。想定問答集によれば相続税条約第8条第2項は所得税法条約第19条第2項と同旨と考えられていた(前掲注29)「12.日米租税条約関係想定問答(1954.4)」161頁)。

35 「内閣に対する建議(昭和26年1月10日)」「第3次吉田内閣次官会議資料綴」

(請求記号平14内閣00130100)(国立公文書館)。

「外資委員会委員長周東英雄

内閣総理大臣 吉田茂 殿

外資委員会は、外資の円滑な導入を図るため、外資委員会設置法三條に基づき、内閣に対して左の意見を提出する。

現在、法人の積立金に対しては、すべて二%の法人税が課せられるのであるが、同族会社の場合は一定額(五〇〇,〇〇〇円)以上の積立金に対して税率が五%加重せられている。ところが、外国投資家が本邦会社の株式に投資をする場合は、被投資会社の株式総額の三〇%以上を占める事となる場合が多く、これらの場合は当該会社が法人税法上同族会社として取扱われ、積立金課税が加重されることとなる。

しかし、このように外資を導入し会社を同族会社として扱うことは、外資導入に好ましくない影響を与えることは明かであり、且つ、同族会社に関する制度を設けた本来の趣旨に必ずしも副う所以ではないと思われる従って、外資導入したために同族会社として取扱われることのないように、同族会社に該当するか否かは、個人の出資者の会社に対する支配力態様のみを基礎として決定するように現行法を改正するべきである。

この点を是正するために、いろいろ研究をいたし。それから税制を扱っております大蔵当局にもそのことを話しまして、今度の御承知のような法人税の改正によりまして、積立金課税は一般にはなくなったわけでありますが、ただ同族会社の範囲については従来の取扱と変えまして、その親になる株主が、その会社であります場合にはこれは同族会社と見ない。例えば外国の会社が従来或る会社の三〇%以上一社で持つておりますその会社は、同族会社となるわけでありますが、株主が法人であります場合は、同族会社と見ない扱いにするということを大蔵省の方で大体了承して、今後はその扱いをして行くということになっております。」

36 第10回国会参議院経済安定委員会第11号昭和26年3月31日6頁。

37 加野・前掲注16)378頁。

38 外資法適用法人と租税の関係については、加野・前掲注16)312-317頁。

39 加藤清「日米租税条約について」税法学41号(1954)11-23頁。

40 福田幸弘「日本所得税条約の概要-2」外国為替97号(1954)20-22頁。

41 小松芳明「日米所得稅条約について」税と財11巻6号(1954)14-17頁。

42 小松・前掲注41)14-15頁。

43 小松・前掲注41)15頁。

44 小松・前掲注41)15頁。

45 湊良之助・秋社編集部『税務會計の實務演習』(春秋社・1952)43頁。

46 安美海野「非同族会社に対する貸付金利子認定の可否について」税経通信8巻11号(1953)52-54頁。

47 志場喜徳郎「行為計算否認規定の基本的あり方」税と財20巻11号(1963)6頁。

48 志場・前掲注47)6頁。

49 志場・前掲注47)6頁。

50 小松芳明『国際租税法講義[増補版]』(税務経理協会・1998)251-252頁。

[引用文献]
  • 大蔵財務協会国税庁『改正税法のすべて』(大蔵財務協会・1986)
  • 大蔵省主税局国際租税課『国際租税問題研究会提出資料』(大蔵省主税局国際租税課・1985)
  • 小松芳明『国際租税法講義[第増補版]』(税務経理協会・1998)
  • 大竹虎雄「国際連盟と二重課税問題(上)」税2巻8号(1924)
  • 増井良啓「租税条約の発展」金子宏編『租税法の発展』(有斐閣・2010)139-160頁
  • 増井良啓「憲法と租税条約(憲法と租税法:日本国憲法施行70年記念)」日税研論集77巻(2020)333-368頁
  • 外務省条約局「二重課税ニ関スル亜米利加合衆國仏蘭西國間条約及議定書」条約集10巻1号(1932)
  • 加藤清「日米租税条約について」税法学41号(1954)11-23頁
  • 加野裕幸「日米租税協定逐条審議議事録1951・52」法学ジャーナル96 号(2019)346-449頁
  • 加野裕幸「1870年5月13日北ドイツ連邦二重課税排除法第3条における「営業の実施」概念の検討」法学ジャーナル100号(2021)131-150頁
  • 金子宏「アメリカ合衆国の所得課税における独立当事者間取引(arm's length transaction)の法理-上-内国歳入法典四八二条について」ジュリスト724号(1980)104-112頁
  • 川端康之「各国の移転価格税制と所得配分基準」村井正編『国際租税法の研究』(1990)法研出版250-254頁
  • 川端康之「我が国の租税条約の解釈適用に関する省察」日税研論集78巻(2020)189-262頁
  • 小松芳明「日米所得稅条約について」税と財11巻6号(1954)12-17頁
  • 志場喜徳郎「行為計算否認規定の基本的あり方」税と財20巻11号(1963)6頁
  • 谷川寛三「国際間における二重課税の防止」税と財9巻3号(1952)19頁
  • 福田幸弘「日本所得税条約の概要2」外国為替97号(1954)20-22頁
  • 安美海野「非同族会社に対する貸付金利子認定の可否について」税経通信8巻11号(1953)52-54頁
  • 矢内一好「日本における国際税務発展史~租税条約(1)~日米原条約からの展開」税務事例49巻8号(2017)
  • 湊良之助・秋社編集部『税務會計の實務演習』(春秋社・1952)
  • S. Avi-Yonah Reuven, The Rise and Fall of Arm's Length: A Study in the Evolution of U. S. International Taxation, SSRN ELECTRONIC JOURNAL (2007)
  • 明治37年第509乃至第513号明治40年12月11日第2部宣告・東京法學院「行政裁判所判決録」18巻(1907)1120頁)
  • 昭和5年第46号昭和7年12月27日第一部宣告・東京法學院「行政裁判所判決録」第43巻(1932)1235頁)
  • 最高裁判所第一小法廷昭和27年(オ)第6号昭和33年5月29日判決・最高裁判所民事判例集12巻8号1271頁
  • 第10回国会参議院経済安定委員会第11号昭和26年3月31日6頁
  • 第19回国会衆議院外務委員会第50号昭和29年5月15日9頁
  • 第19回国会参議院外務委員会第34号昭和29年5月18日5頁
  • 外務省記録「日米間租税の2重課税防止に関する2条約関係」第2巻」B5.2.0.J/U1-1(マイクロフィルム番号B'-062),外務省外交史料館
  • 日米間租税の二重課税防止に関する二条約修正補足議定書「一九六〇年五月七日署名」第2巻B'520 J/U1-3
  • 大蔵省「財政史資料鈴木(源)文書日米租税協定(1)(昭和27年)192」(請求番号:平27財務02142100)
  • 大蔵省「戦後財政史資料谷川文書租税国際二重課税防止2 第31号」(請求記号:平25財務00966100)
  • 大蔵省「戦後財政史資料谷川文書租税国際二重課税防止3 第32号」(国立公文書館所蔵)(請求記号:平25財務00967100)
  • 大蔵省「戦後財政史資料谷川文書租税国際二重課税防止4 第33号」(請求記号:平25財務00968100)
  • 内閣官房内閣参事官室「第3次吉田内閣次官会議資料綴・昭和26年1月(昭和26年1月4日~1月29日)」(請求記号:平14内閣00130100)
 
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