法学ジャーナル
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論説
大正15 年所得税法における外国法人の日本国内にある支店に帰属する所得に対する課税について
加野 裕幸
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2023 年 2023 巻 103 号 p. 1-17

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  • 目次
  • はじめに
  • 第1章 外国法人に対するわが国の課税関係
  •  1-1 大正15 年所得税法について
  •  1-2 課税要件について
  •  1-3 法人の普通所得と超過所得の関係について
  •  1-4 外国法人の普通所得について
  •  1-5 外国法人の超過所得の基礎になる資本金額について
  •  1-6 小括
  • 第2章 事件の概要と問題の所在
  • 第3章 事件の解説・検討
  •  3-1 神戸支店の超過所得の算定について
  •  3-2 超過所得算出規定の所得税法施行規則第2 条について
  •  3-3 裁判所の判断について
  • 第4章 関連する学説
  •  4-1 外国法人の超過所得算出について
  •  4-2 所得税法第2 条の納税義務者について
  •  4-3 小括
  • おわりに

はじめに

本稿は、外国法人に対する課税所得の問題を分析する。国内にある支店に帰属する所得が争われた判決(昭和五年第四十六號 昭和七年十二月二十七日第一部宣告)を素材とし検討するものである。大正15(1926)年事件当時の所得税法における外国法人の法施行地にある所得にについての問題が出てきた一例である。昭和5(1930)年の所得税法は、大正15(1926)年所得税法が適用された。当時の所得税法は外国法人の国内にある支店に対してどのように適用されていたのか探求しようとするものである。

第1章 外国法人に対するわが国の課税関係

1-1 大正15 年所得税法について

判決で問題となった課税年度の所得税法は大正15 年の所得税法である。大正15 年の所得税法における外国法人の所得の算定に関する条文は次の通りである。第2 条で課税要件である「本法施行地ニ資産又ハ営業ヲ有スルトキ」と規定し、所得については法人所得である第一種所得の戊、普通所得と超過所得に賦課されていた(第3 条)。そして普通所得に関しては第4 条第2 項で外国法人の普通所得を算定している。内国法人の超過所得については第5 条、外国法人の超過所得については第7 条で規定されている。以下、判例に関連する条文である。

第一條 本法施行地ニ住所ヲ有シ又ハ一年以上居所ヲ有スル者ハ本法ニ依リ所得税ヲ納ムル義務アルモノトス

第二條 第一條ノ規定ニ該當セサル者ノ各號ノ一ニ該当スルトキハ其ノ所

得ニ付イテノミ所得税ヲ納ムル義務アルモノトス

一 本法施行地ニ資産又ハ営業ヲ有スルトキ

二~三 省略

第三條 所得税ハ左ノ所得ニ付之ヲ賦課ス

第一種

 甲 法人ノ普通所得

 乙 法人ノ超過所得

 丙 法人ノ清算所得

 戊 本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有セサル法人ノ本法施行地ニ

於ケル資産又ハ營業ヨリ生ズル所得

第四條 第一項 法人ノ普通所得ハ各事業年度ノ總益金ヨリ總損金ヲ控除シタル金額ニ依ル但シ保險會社ニ在リテハ各事業年度ノ利益金又ハ剰余金ニ依ル

    第二項 本法施行施行地ニ本店マハタ主タル事務所ヲ有セサル法人ノ普通所得ハ本法施行地ニ於ケル資産又ハ營業ニ付キ前項ノ規定ニ準シ之ヲ計算ス

    第三項 省略

第五條 法人ノ普通所得カ當該事業年度ノ資本金額ニ對シ年百分ノ十ノ割合ヲ以テ算出シタル金額ヲ超過所得トスルトキハ其ノ超過金額ヲ持ツテ法人ノ超過所得トス(大正15 年3 月法律第8 号改正)

第七條 本法施行地ニ本店若シクハ主タル事務所ヲ有セサル法人又ハ所得税ヲ課スヘキ所得トヲ有スル法人ノ各事業年度ノ資本金額ハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ計算ス

第二十一条 第一種ノ所得ニ對スル所得税ハ左ノ税率ニヨリ之ヲ賦課ス

 甲 所得金額中左ノ各級ニ區分シ各税率ヲ適用ス

資本金額ニ對シ年百分ノ十ノ割合ヲ以テ算出シタル金額ヲ超ユル金

額ニ對シテハ 税率百分ノ四

同百分ノ二十ノ割合ノ割合ヲ以テ算出シタル金額 税率百分ノ十

同百分ノ三十ノ割合ノ割合ヲ以テ算出シタル金額 税率百分ノ二十

 乙、丙、丁、戊 省略

第二十四条 第一種ノ所得ニ付納税義務アル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ財産目録、貸借對照表、損益計算書又ハ精算若ハ合併ニ關スル計算書竝第四條乃至第十一條ノ規定ニ依リ計算シタル所得及ビ資本金額ノ明細書ヲ添付シ其ノ所得ヲ政府ニ申告スヘシ但シ本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有セサル法人ハ本法施行地ニ於ケル資産又ハ營業ニ關スル損益ヲ計算シタル所得及資本金額ノ明細ヲ添付スヘシ

前項ノ規定ハ第一種ノ所得ニ付所得税ヲ賦課セサルヘキ法人ニ付其ノ所得無キ場合ニ之ヲ準用ス

第二十六條 第一種所得金額ハ第二十四條ノ申告ニヨリ、申告ナキトキ又ハ不相当ト認ムルトキハ政府ノ調査ニヨリ政府ニ於イテ之ヲ決定シ第三種ノ所得金額ハ所得調査委員会ノ調査員ヨリ之ヲ決定ス

 第二項 省略

 所得税法第7 条の命令について、対応する条文は所得税法施行規則第2 条である。

所得税法施行規則

第二條 第一項 所得税法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有セザル法人ノ超過所得算出ノ基礎タル資本金額ハ總資産價額ニ対スル所得税法施行地ニ於ケル資産價額ノ割合ヲ総資本金額ニ乘シ之ヲ計算ス

    第二項 前項ノ場合ニ於イテ資産價額ノ割合ニ依ルヲ不適当トスルトキハ収入金又ハ所得ノ割合ソノ他適当ナル方法ニヨリ之ヲ計算ス

大正15 年所得税法は、上記のとおりである。外国法人に関しては「本法施行地ニ資産又ハ営業ヲ有スルトキ」を課税要件として、その所得算定方法は「各事業年度ノ總益金ヨリ總損金ヲ控除シタル金額」と規定していた。判例では、本法施行地ニアル「資産又ハ営業」の範囲について争われた。当事者の主張として、超過所得算定方法が問題となった。

1-2 課税要件について

基本的には明治32 年所得税法をと同じく「本法施行地ニ資産又ハ営業ヲ有スルトキ」である。明治32 年所得税法では、第2 条に規定されていた「営業ヲ有スルトキ」が大正9 年所得税法では第2 条第1 号に移動した。法人については第3 条の甲の普通所得と乙の超過所得である。

1-3 法人の普通所得と超過所得の関係について

法人の普通所得と超過所得の関係について解説書では次のように説明されている。「此の法文は法人の普通所得の計算方法を規定した法文である。法人の所得は(甲)普通所得(乙)超過所得(丙)清算所得の三つに區分されあるが、超過所得と清算所得とは特殊の目的を以て設けられたものであつて、其の法人の總體的の擔税能力を捕へようとするものではない。然るに此の普通所得は法人の利益の總額を目標とするものであって、實に法人所得の中心を爲すものである。超過所得や清算所得にはこの普通所得に對して補助的地位にあると云つて差支ない。」としている1。外国法人に関しては、第4条の法人の普通所得及び第7 条の超過所得が外国法人に適用される。

大正15 年所得税法における第4 条の法人の普通所得の意味について解説書によれば、説明は次の通りである2。「其の法文によつて計算された法人の 所得なるものは、原則として直ちに課税標準とはならずに、超過所得等を算定する基礎數字となるに過ぎなかつた。それが大正十五年の改正に於いて『法人の普通所得』は云々と書き出しの文字を改正せられると同時に、その性質が全く變つて、この法文に依つて算出された所得金額が直ちに課税標準となつて(課税外の所得を控除するのは勿論である)法人所得税の中心となるべき所得金額となつたのである。」としている3

1-4 外国法人の普通所得について

 「茲ニ外國法人ノ一般所得ト稱スルハ、本法施行地ニ本店又ハ主たる事務所ヲ有セサル法人ノ、本法施行地ニ於ケル資産又ハ營業ヨリ生スル第一種戌ノ所得ヲ謂フ。

 而シテ其ノ所得金額ノ計算方法ハ本法施行地ニ於ケル資産又ハ営業ニ付、其ノ各事業年度ノ總益金ヨリ總損金ヲ控除シタル金額ニヨルヘキモノナルヲ以テ(税法第四條第二項)大體ニ於テ内国法人の總所得計算法ニ準シ之ヲ計算スヘキモノトス。」としている4

 そして渡辺 善蔵の解説では、外国法人の納税義務について次のように説明されている。「税法施行地外の法人は物的關係による納税義務者であるから、施行地内に有する資産又は營業のみに付いて其の所得を計算すべきことは當然である。」としている5

1-5 外国法人の超過所得の基礎になる資本金額について

 「税法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有セサル法人ノ超過所得ハ、税法施行地ニ在ル資産又ハ營業ヨリ生スル所得ニ付之ヲ算出スヘキモノトス。故ニ其ノ超過所得算出ノ基本タル資本金額亦當該資産又ハ營業ニ對スルモノタルヲ要シ、内地法人ノ例ヲ持ツテ之ヲ律スル能ハス、卽チ税法ハ之ニ關シ左ノ方法ヲ規定ス」(所得税法第7 条、所得税法施行規則第2 条)6。そして所得税法第21 条の税率によって超過所得に対する税額算出される7

1-6 小括

 外国法人に対しては第一種所得として算定課税するべきものは(1)法人の超過所得(2)第一種戊即ち税法施行地に於ける資産又は営業より生ずる所得の2 種のみとされる8

第2章 事件の概要と問題の所在

「第一種所得税賦課ニ關スル訴」

昭和五年第四十六號 昭和七年十二月二十七日第一部宣告

行政裁判所判決録第43 巻1235 頁

事案の概要

 X(原告・外国法人)は、アメリカ合衆国ニューヨークに本店があるバキュームオイル社の神戸支店である。所得税法施行地内に支店があり、本店から自社で製造した鉱油を輸入し貯蔵販売を行っていた。加えて、動植物油の買入輸出に属する仲次業を営んでいた。Xは、Y(被告・大阪税務監督局)より、大正15 年12 月1 日から昭和2 年11 月30 日までの事業年度の超過所得算出について、所得税法第2 条第1 項に該当する法人の超過所得算出の基礎たる資本金額計算方法につき施行規則第2 条第1 項を適用することについて争った。

超過所得の算定方法について

 大正15 年改正所得税法によれば、超過所得とは, 所得税法第3 条の第1種所得であり、所得税法施行地に本店または主たる事務所を有せざる法人の超過所得は、税法施行地にある資産又は営業を有するとき(所得税法第2 条第1 項第1 号)当該資産営業より生ずる所得についてこれを算出すべきものとする。そして所得税法施行地に本店若しくは主たる事務所を有せざる法人又は所得税を課すべき所得とその他の所得を有する法人の資本金額は命令の定めるところによりこれを計算する(所得税法第7 条)。これを受け超過所得算出の基本たる資本金額は所得税法施行規則第2 条の計算規定を用いることとしている。そこで、Xは収入金額の割合による方法(所得税法施行規則第2 条2 項)を主張し、Yは総資産の額に対する税法施行地の資産価格の割合を総資本金に乗じて計算する方法(同条1 項)を主張した。なお、Yは、所得税法第26 条の申告の否認を適用しXの申告額を修正している。

主文

 「原告ノ請求相立タズ」

 

超過所得の基礎となる所得税法施行地にある資産の範囲について

Xの主張

(1)神戸支店の資産について

「神戸支店ハ販賣所トシテ必要ナル設備以外所得税法施行地ニハ別段多額ノ資産ヲ有セス又斯カル資産ヲ存置スルノ必要ナク又存置セサルナリ」

(2)神戸支店の第4 条の課税所得と総資本について

「本件所得金額ハ製造原價ニ約七分ノ利益ヲ加ヘタル工場仕切原價(ウオークスビリングプライス)ト保險料竝運賃トノ合計額ヲ商品原價トシテ計算セラレタルモノニシテ其ノ所得ハ所得税法施行地所在支店所屬ノ資産ノミニヨリテ生シタルモノニアラズ此ノ所得ニツイテハ紐育本店ノ設備、資産及出費ノ存在ヲ考慮スル必要ヲ要ス」

(3)所得税法施行規則第2 条第2 項を適用する理由について

「原告會社ハ前述ノ如ク米國ニ於テ膨大ナル資本ヲ投資タル製造所ヲ有シ日本ニ於イテハ單ニ其ノ製造シタル油類ヲ輸入販賣スル設備ヲ有スルニ過キス何等多額ノ資産ヲ存置セサルヲ以テ同條第二項ノ規定ニ鑑ミ賣上収入金ノ割合ヲ以テ資本金額ヲ計算スルヲ相當ト信シ」

Yの主張

(1)神戸支店の資産について

「原告ノ如ク所得税法施行地ニ本店ヲ有セサル法人ノ所得税法上ノ納税義務ハ該法人カ所得税法施行地ニ資産又ハ營業ヲ有シ所得税法施行地ニ所謂物的關係ヲ有スルコトニ原因スルモノナルカ故ニ所得税法適用ノ範圍モ亦自ラ制限セラレ所得税法施行地ニ於ケル資産又ハ營業以外ニ及ハサルヘキコト所得税法第四條第二項ニ依リ明カナリ従ツテ所得税法施行地ニ於ケル資産又ハ營業ニ対スル法人ノ超過所得算出ノ基礎タルヘキ資本金額モ亦所得税法施行地ト物的關係ヲ有スルモノ卽チ所得税法施行地ニ現實投下セラレタル財産ニ依リ算定セラルヘキ蓋シ當然ノ歸結ナリ」

(2)神戸支店の第4 条の課税所得と総資本について

「本件所得決定ノ基礎タル乙第一號證損益計算書中商品原價貳百五拾五萬六百八拾七圓餘ハ商品ノ實際ノ製造原價ヲ計算シタルモノニアラスシテ製品ノ本國ニ於ケル賣却値段ニ輸入港ニ至ルマテノ運賃及保險料ヲ加ヘタル金額(保險料運賃拂込仕切書價額)ヲ以テ所得税法施行地内營業上ノ商品原價トシテ計算シタルモノニシテ卽商品ノ實際ノ生産原價ニ製造ノ利潤ヲ加ヘタ金額ヲ以テ商品原價トシテ計算スルモノナルカ故ニ乙第一號證ヲ基礎トスル本件法人ノ普通所得ハ純然タル物品販売業ニ属スル所得ノミヲ計算シタルモノナリ」

(3)所得税法施行規則第2 条第1 項を適用する理由について

「同條第二項ニヨリ資産價額ノ割合以外ノ方法ニ依リ資本金額ヲ計算スル場合ト雖前示資本金額區分計算ノ根本精神タル所得税法施行地ニアル現實投下資本額ヲ算定スヘキ趣旨ニ付テハ兩者毫モ異ナル處ナシト信ス而シテ本件ニ於テハ所得税法施行規則第二條第二項ニ所謂資産価額ノ割合ニヨルヲ不適當トスヘキ理由ナキヲ以テ同条第一項ノ定ムル所ニヨリ計算シタル本件決定ハ適法ニシテ毫モ不當ノ點ナシ」ここに現れるようにYは、所得税法施行規則第2 条が定めている「所得税法施行規則第二條第二項ニ所謂資産価額ノ割合ニヨルヲ不適當トスヘキ理由ナキ」ときには該当しないことを主張し、所得税法施行規則第2 条第1 項に定める資産価格による計算を主張している。

裁判所の判断理由

「原告ハ本店ヲ北亜米利加合衆国紐育市ニ置キ所得税法施行地ニ支店ヲ設ケテ營業スル者ナルヲ以テ所得税法第二條第一号ニ該當シ所得税法施行地ニ有スル資産又ハ營業ノ所得ニ付キテノミ所得税ヲ納ムル義務アル者トス」

(1)神戸支店の資産について

「原告ノ所得税法施行地ニ於ケル營業ノ業態カ多額ノ資産ヲ所得税法施行地ニ存置スルヲ必要トセサルハ卽其ノ營業ノ経営ニ多額ノ資本ヲ必要トセサルコトヲ示スモノニシテ原告カ所得税法施行地ニ有スル資産ハ其ノ營業經營ニ必要ナル資産ニシテ其ノ營業經營ニ投セラレタル資本ニ應當スルモノト認ム」

(2)神戸支店の第4 条の課税所得と総資本について

「原告カ所得税法施行地ニ於テ販賣スル商品ハ原告ノ本店所在地ニアル製造工場ノ製造ニ係ルモノナルモ本件所得金額ノ計算ニオケル商品原價ハ原告ノ主張ニヨルモ運賃保險料ノ外工場原價ニ約七分ノ利益ヲ加算シタルモノナルカ故ニ不相当ナリト云フヲ得ス」

(3)所得税法施行規則第2 条第1 項を適用する理由について

「本店ノ經費中ニ所得税法施行地ニ於ケル營業ニ關スルモノ幾分存ストスルモ資産價額ノ割合ニ依ルヲ不適當トスル事由ト爲スニ足ラス所得税法施行規則第二條第一項ノ原則ノ適用ヲ排除シ例外規定タル同條第二項ヲ適用スルヲ相当ナリトス原告ノ主張ヲ採用シ難シ」

 裁判所は以上の理由を持って次のように結論付けている。

「而シテ本件ニ於イテ右第二條第一項ヲ適用スヘシトスル以上ハ被告決定ノ金額ハ原告ハ争ハサルトコロヲ以テ本件原告ノ請求ヲ理由ナシトナシ主文ノ如ク判決ス」

第3章 事件の解説・検討

 本判例では所得税法施行規則第2 条第1 項(原則)か同条第2 項(例外)の何れを用いて超過所得を計算するかが争われている。そして法施行地にある資産又は営業について裁判所の考えを窺い知ることができる。

3-1 神戸支店の超過所得の算定について

 外国法人の国内所得の算定は、総益金より総損金を控除した金額(所得税法第4 条)により計算される。その普通所得を基礎として、超過所得は法人の各事業年度の所得が同年度の資本金額に対し、年100 分の10 を以て算出したる金額を超過する場合におけるその超過額を言う(所得税法第5 条)。なお外国法人の場合は、資本金額に代わって所得税法施行規則第2 条が適用される。

 本事件では、原告の計算方法が、所得税法第4 条の算定が製造業か輸入販売業か、いずれかに基づいて計算されるのかが争われ問題となった。その内容は、「原告カ所得税法施行地ニ於テ販賣スル商品ハ原告ノ本店所在地ニアル製造工場ノ製造ニ係ルモノナルモ本件所得金額ノ計算ニオケル商品原價ハ原告ノ主張ニヨルモ運賃保險料ノ外工場原價ニ約七分ノ利益ヲ加算シタルモノ」としている。この商品の売買価格に関してXとYは問題とはしていなかった。問題となったのは超過所得算出にあたり、Xが本店の資産・経費を含め、総資本額に対して日本国内にある資産價額は少ないと主張している点である。すなわち所得税法第2 条の法施行地にある資産営業が問題となったのである。

3-2 超過所得算定の為の資本金額の計算規定としての所得税法施行規則第2 条について

 問題となるのは、下記計算式において資本金額(第1 項)とするのか収入金額(第2 項)である。いずれを採用するかで資本金に差が出て、超過所得の金額が変動する。Yは総資産價額(第1 項)かXは売上収入金(第2 項)を主張した。

 [計算式]

第1 項 (総資本金額)×(総資産價額に対するの国内資産價額の割合)

第2 項 (収入金額または所得の割合)

 資本金額の上記の通り2 通りの計算方法が規定されている。第1 項は原則で第2 項は特殊の場合と分かれる。この第1 項か第2 項かという点に関しては後述の第4 章で学説を紹介する。

3-3 裁判所の判断について

 裁判所の判断としては原告の主張を採用することが難しいとして所得税法施行規則第2 条第1 項を適用することとした。法施行地にある資本金額の計算方法について、Yの主張を認める内容となっている。

 なお裁判所は、法施行地にある資産について次のように述べている。「所得税法施行地ニ有スル資産ハ其ノ營業經營ニ必要ナル資産ニシテ其ノ營業經營ニ投セラレタル資本ニ應當スルモノト認ム」。この点に関しては、Yの主張の「所得税法施行地ニ於ケル資産又ハ營業ニ対スル法人ノ超過所得算出ノ基礎タルヘキ資本金額モ亦所得税法施行地ト物的關係ヲ有スルモノ卽チ所得税法施行地ニ現實投下セラレタル財産ニ依リ算定セラルヘキ」に対応する。

第4章 関連する学説

 本章では、外国法人の超過所得に関する学説と外国法人の資産の学説について概観する。超過所得を決める基礎となる法施行地にある資産に関する判例と当時の学説を紹介する。

4-1 外国法人の超過所得算出について

 中崎重嗣「外國法人の超過所得算出の基礎に就いて」9 において所得税法施行規則第2 条第1 項によるべきか第2 項によるべきかの判定について説明がある。昭和5 年の判決後の後の文献になる。「原則として内地に本店又は主たる事務所を有する法人に準じて會社の總資本金額を算出し之を施行地内外資産價額の比に依り按分することになって居る。而して資産價額の割合に依るを不適當とするときは收入金又は所得の割合其他適當の方法によることを得るのである。而して此點に關する従來の課税實例は槪ね資産按分に依て居るように見受けられ支店に於いて貸借對照表を作成せざるが如き特殊の場合に於いてのみ収入金又は所得の割合を適用して居るようである」。

 所得税法施行規則第2 条を適用する場合について、中崎重嗣は「私は本條に資産按分を不適當とする時は云々と規定して居るのは先ず第一に其業態により資産按分が適當なりや收入金按分に依るべきや等判定すべしとの意味を表したものと解釈したいのである。」と述べている。そしてその具体例として所得税法施行規則第2 条第2 項について、保険会社の例を次のように説明している。「例えば保險業の如きは若し有力なる世界的大會社とするならば施行地に於いて収入したる保險料の相當部分を本店へ送付し本店に於いて之を運用する實際の状態とし従って施行地内に存する資産は営業の規模以下に表はるゝを以て寧ろ收入保險料の比に依って按分するを適當とするも、銀行業等は資産按分を用ふるのが適當とせらるゝが如きである」と説明している10

 中崎重嗣は、まず業種の判定を行うとしている。その一例として保険会社であれば国内で集めた資金をすぐに国外で運用するために本店の資産の方が多い。国内にある資産より本店にある資産の方が多いときに所得税法施行規則第2 条第2 項を用いられるという説明である。

4-2 所得税法第2 条の納税義務者となる資産又は営業について

 本節では、外国法人に対する資産または営業の範囲について、当時の学説について2 つ紹介する。この2 つの学説では、資産の範囲が異なる。裁判所の判断は、渡辺善蔵の学説に近い。

 4-2-1 藤澤弘の学説

 藤澤弘は所得税法第2 条について、物的関係に着目しながら次のように説明している11。所得税法第2 条の納税義務者を「法施行地ニ或種ノ物的關係ヲ有スル者ハ其ノ物的關係ニ基ク所得ニ付キ所得税法ノ定ムル所ニ依リ所得税納税義務アルモノトス(税法第二條)」としている。さらに資産、営業については「課税ノ目的ニ鑑ミ、資産ハ其ノ有形ノモノノミヲ意味シ債權其ノ他ノ無形資産ハ之ヲ包含セサルモノト解スヘク、營業亦同様趣旨ニ依リ一定ノ設備ヲ有スル營業ニ限ルモノト解スルヲ可トス」12 としている。藤澤弘は、法施行地に現実に存在する資産のみを課税の対象として捉えている。

 4-2-2 渡辺善蔵の学説

 税法施行地に資産を有する者の説明の中で、「資産」の説明がある13。「資産とは通常云う所の財産の意味である。これをむずかしい言葉で云えば一定の人に歸屬する經濟財(有形資産)と財の支配を目的とする権利(無形資産)との總稱である。税法には單に資産と云つてゐるから、税法施行地にある有形の資産たると無形の資産とたるとを問わず、これを有する者は施行地に資産を有する者と云うべきであるが、無形の資産、例えば普通の債権の如きものの所在は債權者の所在に伴うものであるか、税法施行地に住所または居所なき者が、施行地に貸金を有し其の利子を取得したればとて施行地の資産より生ずる所得なりとは云えない。」渡辺善蔵は、法施行地にある資産で無形のもの含むとしている。

4-3 小括

 裁判所の判断は、税法施行地にある資産営業についてのみ課税所得に算入するという考え方であったと考えられる。そして所得税法第24 条の計算規定において外国法人の資本金額は「本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有セサル本法施行地ニ於ケル資産又ハ營業ニ關スル損益ヲ計算シタル所得及資本金額ノ明細ヲ添付スヘシ」(所得税法第24 条)となっている。したがって資本金額も法施行地にある資産又は営業という点を考慮する必要がある。すなわち裁判所の判断では、製造業か輸入販売業であるかにかかわらず法施行地にある資産又は営業のみを考慮するという考え方であると言える。

おわりに

 本稿は、外国法人に対する課税所得の問題を、国内にある支店に帰属する所得が争われた判決(昭和五年第四十六號 昭和七年十二月二十七日第一部宣告)を素材とし検討してきた。大正15 年から昭和15 年の改正までが、今回の研究の対象となった。昭和5(1930)年当時の所得税法における外国法人の法施行地にある所得にについて若干の整理ができたと考える。そして当時の所得税法は、課税要件に法施行地にある資産又は営業を有するときと規定するのみで何等詳細に規定されるものではなかった。しかしながら、当時の所得税法は外国法人の国内にある支店の所得に対して整理され検討されていたのではないかと考える。

Footnotes

1 渡辺善蔵『所得税法資本利子税法釋義』(自治館・1927)62 頁。

2 渡辺・前掲注1、62 頁。

3 渡辺・前掲注1、62 頁。

4 中村継男『法人所得及所得税[[増補訂正]再版]』(巖松堂書店・1925)238頁

5 渡辺・前掲注1、64 頁。

6 藤澤弘『最新所得税法義解』(日本租税学会・1925)67 頁。

7 藤澤・前掲注6、65 頁。

8 藤澤・前掲注6、99 頁。

9 中崎重嗣「外國法人の超過所得算出の基礎に就いて」會計8 巻(1933)562 頁。

10 中崎・前掲注9、563 頁。

11 藤澤弘『国税全解:最新.第1 巻』(日本租税学会・1922)18 頁。「超過所得課税ノ理由ハ事業ノ獨占或ハ経済事情ノ變遷等ニ因ル特殊利益ニ対スル特別ノ負担ヲ目的トスルモノニシテ、之ヲ法人ニ付イテノミ認ムルハ、法人ノ企業組織カ個人ノ夫レニ比シ経済的有利ナル地位ニ在ル一般的推定ヲ理由トス。斯ノ如ク超過所得ノ本質ハ法人ノ企業利潤ノ特別ナル部分ニ相當ウルモノナルヘキヲ以テ、之ヲ算定スル方法トシテハ資本金ニ對スル一定ノ収利率ヲ超過シタル金額ヲ以テナス。而シテ其ノ一般的収利率ヲ資本金ノ百分ノ十トナシタルハ會社企業ノ大勢ノ達観ニ由ル。」(藤澤弘39-40 頁)。なお超過所得については、小川郷太郎が詳しく説明している(小川郷太郎「超過所得税論」經濟論叢11 巻2 号(1920-08)239-265 頁)。

12 藤澤・前掲注11、18-19 頁。

13 渡辺・前掲注1、19 頁。

【引用文献】
 
© 2023 本論文著者
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